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ベルベット・レイン

2005-12-06 01:06:36 | 映評 2003~2005
ここんとこ、バカ映画のオンパレードな感じで、人生もそんなに悪くないな、とよくわからない充実感にひたっている。

どうでもいいところから書き始める
監督は黄精甫。ローマ字で"Wong Ching Po"と書く。こう書かれるとどうしても、「ウォン・チ…」と読みたくなるのだが、公式サイトでは「ウォン・ジンポー」と表記されていて、かろうじてかわしている気がする。北京語、広東語も、中国で使われるなんとか式ローマ字表記法についても、ほとんど知識がないため、「ジンポー」が正しい発音なのかどうかは判らない。
ひょっとするとこれは、どう聞いても「馬・サーマン」としか聞こえないアメリカ人女性を「ユマ・サーマン」と表記するのと同じ、日本人の固定観念に配慮した、わざと間違った表記なのかもしれない。
発音が判らないと言えば、「ベルベット・レイン」の主役の一人、張學友さん。昔から「ジャッキー・チュン」とカタカナ表記されてきたので、私もすっかり「チュン」で認識しているのだが、広東人で「張」でローマ字表記が"Cheung"なら、「チョン」が正しいのではないだろうか?
しかも同じ「張」で"Cheung"のマギーや故レスリーは、「チャン」と表記されるのが一般的なので、どれが正しいのか、正直よくわからない。(同じ「張」の張藝謀監督の場合、北京語圏の人でローマ字表記が"Zhang"だから「チャン」で正しい・・・と思う)
レスリーにいたっては「レスリー・チェン」と紹介される場合もあるし、結局、私は彼の事を喋る時、「レスリー、レスリー」と英語名のファーストネームだけ使って誤摩化すのである。

さて、そんな話はともかく、以降この記事では、「ウォン・ジンポー」と「ジャッキー・チュン」と書いていくことにする。
そのジャッキーであるが、ジョン・ウー好きは、「ああ『ワイルド・ブリット』のトニーの弟分役ね」と言うだろうし、ウォン・カーウァイ好きは「ああ、『今すぐ抱きしめたい』のアンディの弟分役ね」と言うだろう。いずれにせよ『弟分』イメージが強くこびり付いた男である。レスリーだって弟分キャラで親しまれていたが、『上海グランド』あたりから「兄貴分」役も板についてきたものだ。だがジャッキー・チュンは今作でもやっぱり「弟分」を堂々と演じていて弟道ここに極まれり!!という感じがする。
一方、ショーン・ユーとエディソン・チャン(やっと区別がつくようになった)の2人も例の三部作のおかげで「若き日役」のイメージが強いのだが、今作でさらにそのイメージが増してしまった。ただし、例の無間な三部作のイメージでいけばアンディの若き日をやってしかるべきエディソンがジャッキー、トニーの若き日で名を上げたショーンがアンディの若き日を演じているのが微妙に面白い。

さてさて、作品は無駄にテンションの高い演出で突き進んでいく。過剰なスローモーションによる必要以上なかっこつけ。
じいさんを背中から撃つなんてシーンをスローモーと音楽であそこまで盛り上げる必要があったのか疑わしい
エリック・ツァンが観賞している京劇ひとつとっても、ドアップ多用で意味なく盛り上がる。
なんか1分おきに盛り上がるシーンがあったような気がするくらい、あちこちがクライマックスな映画である。
音楽をよく聞いていると、ちゃんと状況の変化に併せて転調したり複数のテーマがミックスされていたりして、香港映画にはめずらしく音楽がしっかりと計算されて作られているのが判る。しかしながら、ひとつひとつのテーマが前時代的な歌謡曲っぽい、時代錯誤メロディだったりするので、効果的と思う前にプッと吹き出してしまう。
そして、映像だけはひたすらかっこいい。クリストファー・ドイルチックな映像とジョン・ウーチックなスローモーの多用でワンショット、ワンショットが一々かっこいい。だが、すべてから回っているから面白いのである。
イックとヨーヨーのロマンスにしたって、いつの時代だよ・・・みたいな苦笑が漏れる。
結局のラストのどんでん返し・・・ってほどでもないのだが、シナリオとしては一発オチの短編にふさわしいストーリーを無理矢理90分に引き延ばしたような強引な作品である。
スタイリッシュになる前のあいつら・・・「今すぐ抱きしめたい」のころのカーウァイ、「ソルジャー・ドッグス」のころのジョン・ウー・・・彼らにあの時、最新のカメラ&編集技術だけを与えたら、やっぱりこんな映画を撮っていたのだろう。
そんな、かっこいい映像に才能がついていっていないような微笑ましさを堪能できる映画だ。

さて、誰もが目を見張るであろう、斬新と言えば斬新だったシーン。アンディとジャッキーが食事しながら口論するシーン。
どうしてあのシーンでテーブルが動いていたのか、何を狙ってテーブルごとドリーしていたのか、さっぱり判らない。
しかもこのシーンの編集も奇妙だ。普通、向かい合って喋っている2人の人物の顔を切り返す時、カメラは人物と人物を結ぶ線を超えた場所には置かない(アクションラインとか言うらしい)。しかしジンポー監督はそんな常識的なカメラ位置も編集の規則も、たやすく無視する。
しかもテーブルが室内を動き回っているのである。その動き方も一定していない。
うわー斬新だなあ、でも何の効果も与えてないなあ、意味不明すぎるなあ
・・・と深読みするのもアホらしくさせる奇妙なシーンであったが、こみ上げてくる笑いを抑える事はできないシーンでもあった。
あれがそのうち"奇妙"でなく、ジンポーのトレードマークになってしまうとしたら・・・カーウァイもしくはアンドリュー・ラウ&アラン・マックあたりを目指しているであろう彼は、いつの間にか鈴木清順化しちゃうのかもしれない。

そして、クライマックスの血みどろの格闘戦。
たった2人にあんなに・・・と思っていたら、死屍累々の修羅場と化す。アンディが見せていたユンファチックな余裕の微笑はダテじゃなかった("いっぱいいっぱいな役"の多いアンディが今回はかなり余裕ぶっこいていて楽しい)。アンディとジャッキー、2対50くらいの戦いでしかも武器は傘とマフラー(もちろん傘もマフラーも異様にかっこよく振り回す)、あいつら半端なく強ぇ・・
それにしても、過剰に現代的に描かれるショーン&エディソン・パートと、反対に過剰にレトロ趣味むき出しのアンディ&ジャッキー・パート。恐らくはラストの一発オチの衝撃を大きくするための対比的な世界観だったと思うが、エディソンの腕が潰されるシーンが、これまた異常に長々映すのですぐオチが判ってしまう。
それにショーン&エディソン・パートが現代だったとしたら、アンディ&ジャッキー・パートは近未来ということになるだろうに、なんだってあんな時代劇チックな格闘になってしまったのだろう?
「多分さあ、20年くらいたっても香港のチンピラはナタ持って暴れてるよ」・・・と監督は思ったのだろうか?
彼は香港の未来を悲観しているのか、今の香港を愛しすぎているのか・・・この映画の奇妙な演出と同じくらい謎である。

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5 コメント

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TB多謝です♪ (RIN)
2005-12-06 08:55:57
中国の人名は、普通語と広東語で全然発音が違う上、

レスリーとかアンディは英語名なので、中国人に言っても誰だかわかってもらえない・・・

という、ワケのわからない状況です。

でも、ま、いいのだ・・・。と、適当に名前を使い分けてる香港映画界に

香港映画が集約されているように思います。

この映画、イタリアンのディナーと提携企画してましたが、あんまり食べる気しないですね。

全然おいしそうに食べてなかったし、いっぱい残してたし。
返信する
TBありがとうございます (丞相)
2005-12-06 09:51:33
こんにちは、TBありがとうございます。

ツッコミを入れるとキリがないこの作品ですが、

ショーン・ユー&エディソン・チャンの二人をしっかりと区別できるように

描いたことだけは評価したいと思います。

『インファナル・アフェア』シリーズではもちろん、服装の違った『頭文字D』でさえ

区別できなかったのに、この作品では区別できるのが摩訶不思議ですね。
返信する
コメどうも (しん)
2005-12-11 13:42:29
>RINさま

適当さこそ、香港の魂ですからね

これから私も自信をもって、ジャッキーはチュンと、レスリーはチャンと表記していきます。多分間違いだろうけど



>丞相さま

↑曹操に拝謁してるみたいですね。

ショーンとエディソンは私もやっと区別がつくようになりました。ただなんとなく、こっちが見慣れたから・・・という気もします。
返信する
やぱpり香港映画はいいもんですね。 (健太郎)
2005-12-24 03:08:34
遅くなってしまいましたがTBありがとうございました。

久しぶりに香港ノワール炸裂な作品に出会えて嬉しかったです。

ベテランと若手?のパートがどのようにシンクロするのか楽しみでしたが、まさかあのようになるなんて驚きです。



若いくせにバイプレイヤーと化しつつあるチャップマンも良かったけど、主演の2組が、若い方は若いなりに、ベテランはベテランなりにかっこよかったです。
返信する
TBありがとう。 (kimion20002000)
2006-02-24 02:20:41
僕は、中国語も、常識以前の無知ですので、逆に、気にならずにすんでいます。

気にかかるとなかなか、頭から出て行ってくれませんから。
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