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映像作品とクラシック音楽 第14回 『未知との遭遇』

2021-04-29 18:14:00 | 映像作品とクラシック音楽
どーも。週一くらいでクラシック音楽が印象的だった映像作品についてあーだこーだ書かせていただいている、インディーズ映画監督の齋藤新です
今回はスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』を…って、それ全然クラシック音楽じゃないだろ!!って突っ込みはよくわかってはいるのですが…

しかしですよ、2020年大ヒットしたCD「JOHN WILLIAMS IN VIENNA」は、サントラコーナーでなくクラシックコーナーで扱われたCDだったじゃないですか!!その2曲目が『未知との遭遇』なんだからいいじゃない!!
と、ややルール破りは承知の上で、「未知との遭遇」におけるジョン・ウィリアムズの音楽について語ってみたいと思います。もしこの投稿がまあまあ好評だったら、『ジョーズ』編、『スター・ウォーズ』編もアップしちゃうかもしれません…

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殺人トラックとの遭遇、巨大鮫との遭遇につづいてはヌーベルバーグとの遭遇…じゃなくて未知との遭遇を手掛けたスピルバーグ。
彼の代名詞ともいえるSF映画(サイエンス・フィクションというよりむしろスペース・ファンタジー)を初監督するにあたり、スピルバーグは音楽をやっぱりジョン・ウィリアムズに依頼しました。
というのも、今回は音楽が極めて重要な役割を担う物語なのです。
メロディになりすぎず、さりとてただの音でもない長さとして、スピルバーグとジョン・ウィリアムズが出した結論は、5音の曲にしようというものだでした。
なんてシンプルな…って思うかもしれませんが、『ジョーズ』の時は2音でテーマを作ったわけで、5音とはまたずいぶんと複雑になったものです。
そしてスピルバーグが言うにはある数学者に計算してもらったところ13万4千通りの5音階の組み合わせから、たった一つのベストの組み合わせをウィリアムズは見つけたのだそうです。
それが例の レ、ミ、ド、ド、ソ(D4、E4、C4、C3、G3) の5音です。
ジョーズの♩ドゥードゥンを聞いて誰もがサメを連想するようになってしまったのに続いて、レミドドソ を聞けばだれもが宇宙人を連想するようになりました。

そんな5音階で有名な未知との遭遇の音楽を今日は無駄に熱く語ってみます

 
まずオープニング
黒い画面にシンプルな白抜き文字で、スタッフ、キャストの名前が紹介されます。あれあれキャストの名前にフランソワ・トリュフォーなんてありますよ。ぽっと出の青二才監督にすぎなかったスピルバーグが大トリュフォーに演出つける姿を想像してニヤニヤしちゃいます。

それにしてもスピルバーグという人は、トリュフォー、黒澤、キューブリックと「めんどくさそうな巨匠たち」とことごとく仲良くしており、その人誑(たら)しの才能は映画史上随一だなと思うわけです。まあ置いといて。

音楽はまるで何かが次第に近づいてくるような、ピィィィって音が次第に厚みを増しボリュームを増しそして監督スティーブン・スピルバーグのクレジットの後、ジャン!!!っとフルオーケストラが一音奏でると同時に砂漠の砂嵐の映像に切り替わります。
このオープニングかっこいいですね。
「未知との遭遇」の音楽、主題の5音階もそうですが、感情の無い曲が多いです。こんなにクールに映画音楽職人に徹したウィリアムズは後にも先にもこれだけだと思います。だからかっこいいんですよね。

そんな劇伴職人に徹しつつもなんかイキまくって音楽作っちゃった感のあるシーンが、中盤の坊やが宇宙人にさらわれたのか、迎えに来たから遊びに行ったのかよくわからないけどやたら怖いシーンです。
母親目線、坊や目線、宇宙人目線、客観目線と危険なくらい目線が安定しないけどそれゆえ抜群の不安と恐怖に包まれる、スピルバーグの映画作家としての勘が冴えわたる場面ですが、ウィリアムズの音楽も若い映画作家の感性とぴったり一致して、ぐちゃぐちゃなのにブレの無い恐怖音楽にまとめます。
うねるようなストリングスと、この時期ではめずらしいコーラスも重ねて。母親役のメリンダ・ディロンの演技も素晴らしく、恐怖で発狂寸前な気持ちを見事に描き上げます。

もう一つ音楽的に好きなところは、劇中で二度ほどかかる軍隊の行動シーンの曲です。低音域のブラスを主体とした勇壮な曲で、これがかかるとなんだか気持ちが燃えてきます。ウィリアムズはその長いキャリアの中で軍隊のテーマは何度も書いてきたのですが、実は一番燃える曲がこの未知との遭遇の軍隊テーマではないかと思います。あ、帝国のマーチは別格としてですよ。

さていよいよデビルズタワーで宇宙人様との接近遭遇の時間がやってきました。言葉が通じないので音楽で会話しようというアイデア。コミュニケーションがほぼ一貫したテーマであり続けるスピルバーグらしいシーンです。
現れた数機の宇宙人の飛行体との会話。例の5音階をキーボードで奏でる人間。ピポパポピーと反応して去っていく宇宙船。
ん、ああ、こんなもん?とやけにあっさりした会話と思ったら、もっと多くの船団が現れそしてさらに馬鹿でかいのがデビルズタワーの裏から現れます。
この時よく見るとR2D2が母船の側面にぶら下がってますので、探してみるのも一興です。
この場面の音楽も素晴らしいです。坊や誘拐シーンと似たホラー系音楽のように不気味にうねるストリングスからもう一つのメインテーマとも言えるメロディ(なんとなくデビルズタワーのテーマとでも名付けたいようなメロディ)に引き継がれていく構成が美しいです。

馬鹿でかいのにびびる人間達ですが、とりあえず例の「レ、ミ、ド、ド、ソ」を流します。
沈黙…
もっかい、「レ、ミ、ド、ド、ソ」
するとなんか低音の音を発しました
もう一回「レ、ミ、ド」と打ったら馬鹿でかいやつが「ド、ソーー!」と残り2音を返しました。人間側の施設が音圧でぶっ壊れるくらいの音量で。
この瞬間の、「お!会話した!」感がすごく好きです。

やがて5音階の打ち合いは即興セッションのようになります。
この電子音による音楽の乱れうち。5音階を基調に、色々な音が継ぎ足されていく音の洪水。そういえばジャズピアニスト出身だったウィリアムズの面目躍如な場面となりました。

後のシーンはご存じのとおりとして、ここからの音楽はこれでもかと例の5音階を軸にオーケストラが、光につつまれたスピルバーグと僕らSFっ子の宇宙への憧れを奏でます。
そしてついでにディズニー好きのスピルバーグらしくピノキオの主題歌「星に願いを」をさりげなく混ぜてきます。
フランソワ・トリュフォーが下手な英語で「あなたがうらやましい」と宇宙人に選ばれたリチャード・ドレイファスに話すところで、初鑑賞当時トリュフォーのトの字も知らなかった私は普通にいいシーンとして大感動したんですが、今見ると映画史的な感慨とともに感動しますね。この頃のドレイファスってスピルバーグの分身です。トリュフォーに自分を羨ましいと言わせるとはなんと厚かましい!

そしてリチャード・ドレイファスを乗せたマザーシップが発進するラストシーン、引きの画でマザーシップの全景が映ると、例の5音階をホルンが奏でる壮大なファンファーレが響きます。ビカビカ輝くマザーシップの発進でテンション上げ上げになったわれらをさらに遠い宇宙の果てに連れて行ってしまうようなウィリアムズの渾身の終曲とともに映画は終わります。


音楽が重要な役割を果たし、劇伴として完璧すぎる効果を上げ、一度聴いたら誰もが忘れないテーマも持ったこの映画はSF映画どころか音楽映画といってよいかもしれません。
当然のごとくウィリアムズは「未知との遭遇」でアカデミー賞候補になるのですが、受賞は逃してしまいます。こんなすごい音楽がなぜ候補止まりだったのかといえば、同じ年に「未知との遭遇」のものすごいライバルとなる音楽映画が公開され、そちらに票が集まってしまったからです。
そのライバル映画とは…「スター・ウォーズ」です。

同じ年(1977)に「未知との遭遇」と「スターウォーズ」が公開されたハリウッドの奇跡よりも、同じ年に「未知との遭遇」と「スターウォーズ」の2作品に伝説的な音楽をつけたウィリアムズの神レベルの仕事の方が映画史的事件として重要かもしれません。

 
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「JOHN WILLIAMS IN VIENNA」に収録の「未知との遭遇・抜粋」は、上記のオープニングと、サントラの「Arrival of Sky Harbor」という曲(マザーシップ出現シーンの曲)と、マザーシップが飛び立ってからエンドタイトルまでの曲をまとめたものです。ただし「Arrival of Sky Harbor」は本編で未使用の部分も結構長く演奏されています(トロンボーンとかチューバとかがやけにメカニカルな音を奏でる部分)。なぜ本編未使用部をわざわざ演奏会用楽曲に入れたのでしょうか?ほんとは使って欲しかったんじゃないかな?
私は「未知との遭遇・抜粋」が収録されたアルバムは2つ、そして映画のサントラを持っています。
聴き比べレポートを

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「ボストンポップスオーケストラ スピルバーグの世界」

90年代初期に発売されたアルバムで、ジョン・ウィリアムズが手兵のボストン・ポップス・オーケストラを率いて、『続・激突!カージャック』から『オールウェイズ』までの自身が作曲を担当したスピルバーグ映画の音楽をずらり並べた名盤です。ボストン・ポップス・オーケストラは、ボストン交響楽団から各パートの首席奏者を除いたメンバーで構成されるオケです。ウィリアムズは結構長い間ボストンポップスの常任指揮者を務めていたので今でもボストン響とつながりが深いです。たしか『シンドラーのリスト』はボストン響が演奏していたと思います。
このアルバムは、勝手知ったる者同士の安定感を感じますが、全体的に金管とパーカッションが弱く感じます。「レイダース」もサントラのLSOの音に慣れちゃってるとパンチの弱さは如何ともし難いものがあります。
しかし「未知との遭遇」はこのアルバムの中でも出色の出来で、特に「Arrival of Sky Harbor」部分のホラーっぽい表現などノリにノッてる感じがたまんなく、またマザーシップ出発の例の5音階をトランペットが奏でるところの爽快感も素晴らしいです(サントラだとまずホルンで奏でて、その後でトランペットなのですが、いきなりトランペットで一気にMaxに持っていく編曲は演奏会用としては素晴らしいです)


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「JOHN WILLIAMS IN VIENNA」

ボストンポップス版と比べると、そこはさすがウィーンフィルといいますか、すべての曲にずしりとした重みがあります。
未知との遭遇から43年もたち、80を超えたウィリアムズですが、テンポはやや遅くなりつつも、一音一音絞り出すような迫力があり、今のウィリアムズの曲解釈とウィーンフィルの演奏がピタリあっているように思います。未知との遭遇をスピルバーグと作っていたころの少年の目はもうしていないのかもしれないけど、年齢の重みというのもまた音楽表現としては強いものがあります。

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「未知との遭遇 サウンドトラック」

「 IN VIENNA」の43年前、オケはおそらくハリウッドのスタジオオーケストラで、やはり演奏のうまさでいえば、ボストンポップスやウィーンフィルの方が上かもしれません。
しかし、こちらは今まさに映画音楽のレジェンドを創り出しているような歴史的録音現場の迫力があるといいますか、弦楽器群のちょっと指揮に追いついてないように感じるところも、むしろ若さゆえの勢いを感じますし、何よりも映画で聴いたままの音という強みはあり、あらゆるシーンが脳裏によみがえってくる強さは別格ですね。

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あと、実は2016年にアメリカまで行ってジョン・ウィリアムズのコンサートを聞きました。その時も「未知との遭遇・抜粋」が演奏されました。私はステージ奥側の指揮者の顔が見える位置の席で聴いてました。(ウィリアムズ自身が指揮したのはコンサート終盤の数曲で、「未知との遭遇」はじめメインの指揮者はステファン・ドヌーヴという方でした)
私の席のすぐそばにパイプオルガンがありまして、「未知との遭遇」が始まる前に、オルガン奏者が神妙な面持ちで席につきました。しかし演奏中はほとんど微動だにせず、最後の方でオルガンをオケと一緒にボォーーーーンと鳴らして、去って行きました。あの一音のために呼ばれたのか…オルガン奏者大変だなーーと思いました。

とにもかくにも、70年代のJWの音はほんとにいいなあ、と未知との遭遇ブルーレイを観て、サントラ聴き直してつくづく思います。
というわけで「未知との遭遇」音楽レビューでした!

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