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映像作品とクラシック音楽 第104回 『響けユーフォニアム3 』のサントラを聴きながら振り返る ~最終楽章

2024-09-08 10:25:00 | アニメ
というわけで、もう最終回が終わって3ヶ月になろうというのに、響けユーフォ3の振り返りです。
私も最近はユーフォロスも抜けて、推しの子が面白過ぎるぅとか言っちゃってるんですが、それでもユーフォ3期を思い返すとまた熱い感動がよみがえってきてしまいます。
めちゃくちゃ長い記事になってしまい恐縮ですが、一気に最終回まで駆け抜けましょう
第一話冒頭シーンの答え合わせと、何が何でも今年中に見てほしいと言ったことの理由の解説が最後にありますよ!!

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前回は主に第10話について書きました。今回は11話から最終話(第13話)まで駆け抜けます。

第11話ですが、久美子演説により北宇治吹部は一体感を取り戻し関西大会を突破します。麗奈も久美子演説に心を動かされ二人の仲も急速に修復されます。だがしかし久美子にはもう一つの重要課題、自身の進路、がありました。
久美子に音大に行ってほしい麗奈は最後の説得のつもりで、久美子を音大のオーケストラ部の定演に誘います。
そこは、久美子たちの一年先輩の鎧塚みぞれが行った大学で、みぞれもオケのメンバーとして出演するのです。

クラシックのコンサートだからといい服着てお化粧までして出向く久美子と麗奈。高校生ならもっとラフでカジュアルでもいいと思うけど、久美麗のメイクアップ姿が見られて最高ですね。月に代わってなんとやら

それはともかく定演のシーンで演奏されたのはボロディンの「韃靼人の踊り」でした。みぞれ先輩は曲の序盤のオーボエソロを吹いています。ユーフォファンならわかることですが、みぞれにとって「韃靼人の踊り」はトラウマ曲でした(ユーフォ2期参照)。トラウマ乗り越えたみぞれの成長に少し感動します。
劇中では韃靼人の演奏時間は1分もないくらいなのですが、サントラにはこの結構長い「韃靼人の踊り」がフル尺で収録されています。バンクミュージックかとも思ったのですが、そうでなくて新録したようです。演奏はHeartbeat Symphony というところで「響け」の吹奏楽コンサートや、バイオレットエバーガーデンなど色々なアニメ作品ののフィルムコンサートなどでも演奏しています。サントラ収録の韃靼人もなかなかに力強い演奏で聴いていて心地よいです。

鎧塚みぞれ先輩の声を演じているのは、種﨑敦美さん。最近だと『SPYxFAMILY』 のアーニャだったり、『葬送のフリーレン』のフリーレンだったりと、作品によってキャラも声もめちゃくちゃ変わるすごい役者です。みぞれの声はうっすらフリーレンっぽく聞こえた気もしますが、それはきっとこのエピソードでのみぞれの台詞「なんとも思わない。だってそんな姿想像できないから」が、フリーレンの「想像できないものは魔法で実現できない」にリンクして聞こえてしまったからでしょう。

台詞と言えば第11話と12話あたりは何気に名セリフが多いので、列挙してみます

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滝「毎年メンバーが変わる楽団で毎年一度しかない大会を目指すようなものですから。大学生だったころ彼女に言ったことがあるんですよ。それは賽の河原で石を積んでいるようなものじゃないかって」
久美子「奥さんは何と答えたんですか」
滝「石じゃないよ、人だよ、と」

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ミドリ「ミドリは思うんです。今の毎日は種まきみたいなもので、まだ知らない未来の楽しみをいっぱい色んなところに埋めているようなものじゃないかなって」

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久美子「平気だよ。私たちは変わらない。麗奈は変わらない。私にとって唯一変わらない、私の特別だから」

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久美子「大人ってすごいですね」
美知恵「心配するな。大人になったらすぐ思うようになる。子供ってすごいとな」

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いずれも印象的な台詞ですが、作品としては久美子が麗奈に言った、麗奈は変わらない発言に、どこか切なさを感じます。

ユーフォ1期において麗奈は久美子の憧れのヒロインでした。
演奏がとにかくうまく、周りに流されず媚びず、己を貫くその姿に久美子は憧れ、感化され、近づこうと努力していました。
しかし、ユーフォ3期において、麗奈はたしかに1期のころと少しも変わっていない、今だに演奏家としては久美子から見れば遥かな高みにいるのですが、3期の麗奈は聞き分けのない子供のような一面も見せていました。それは久美子だけに見せる姿だったかもしれませんが、久美子が大人になったともいえる気がするのです。変わらない存在であり続けた麗奈はある意味で人としての成長もなく、一方で久美子は色々な人たちと接し、真正面からぶつかり、確実に人として成長しました。
3期において、久美子と麗奈の関係は、1期のころとは逆転し、麗奈がむしろ久美子に依存するかのような弱さを見せ、久美子は麗奈の「久美子離れ」をさせて飛び立たせようとしているようにも見えます。

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さてさて最終回1話前の第12話がユーフォ3期最大の神回というか分厚い感動をさそうエピソードでした。

久美子と真由の公開オーディション対決です。

久美子の提案でついたてで奏者の姿を見せない形でのオーディションとなります。
映画『TAR』でもありましたが、欧米ではこうした形のオーディションが一般的のようです。年齢、性別、人種、容姿などに左右されず純粋に音だけで判断するのが目的です。といても北宇治の場合は姿が分かれば部長で多くの部員から慕われている久美子が絶対優位だからです。
それでオーディションの直前になって、二人きりのときに真由が最後の八百長を持ちかけます。真由としてはずっと言ってきたように久美子にソリを譲りたいのです。その方が部活を楽しく過ごせるから。
しかし名探偵久美子は真由の本当の本心を名推理でズバリ見抜いて、音楽にだけは嘘をつきたくないのでしょと言い当てます。
その後の久美子と真由のやり取りの台詞も最高に素敵なので書きます

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久美子 「ここはね、2年前、麗奈がソロをかけてオーディションした場所なんだ。私と麗奈はその時誓った。音で決めるべきだって。あの時の気持ちを3年間信じてきた裏切りたくない。これは私のわがまま。だから今日私は私のすべてで吹くだけ。同情も心配も遠慮もいらない。真由ちゃんも自分の信じるもののために吹いてほしい」
真由 「そんなに塩送っていいの?」
久美子 「いいよ。負けるつもりはないから」

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そしてオーディションです
アニメの視聴者も北宇治吹部部員たちと同じように、どちらが吹いているのかわからない映像となります。
高坂麗奈のトランペットのソロにあわせてユーフォニアムが吹かれます。

みなさん、どちらが良かったですか?

私は2番目の演奏の方がいいと思いました。気持ちが強く出ている情熱的な演奏に思えました。
妻は1番目がいいと言いました。1番目の方がトランペットに寄り添っているように聞こえると。

北宇治部員たちはと言えば
葉月、つばめは1番目
ミドリ、秀一、奏は2番目を選んでいました。
想像ですが、ミドリ、修一、奏はどちらか分かっていたのではないかと思います。奏は2番に手をあげる前に逡巡していました。直前に久美子に音だけで判断してほしい、とお願いされたことを思い出しての逡巡とするなら、奏は本当は1番目の方がいいと感じていたのかもしれません。

全部員投票の結果はなんと両者同点。
滝先生は部員数は奇数のはずだが…と言えば、トランペットを吹いていた高坂麗奈が私がまだですと発言します。

この土壇場で、最後のソリスト決定は麗奈の一票にゆだねられるのです。
なんという運命のいたずらか
2年前、香織先輩を実力で打ち負かした本人が、あの時と同じ場所で、あの時ただ一人麗奈を応援してくれた親友の久美子の高校最後の演奏を決める立場になるのです。
そして、麗奈が選んだのは…

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私は原作は未読ですが、このオーディションの結果は原作と真逆なのだそうです。
『セクシー田中さん』問題が記憶に新しいこのタイミングでの原作改変は勇気のいる決断だったと思います。実際原作派からの本作に対する批判も散見されました。
しかし私は、アニメ版としてこれ以上の展開はなかったと思います。
こんなにも感動的で、しかしながらこんなにも悲しい、久美子と麗奈の二人の三年間の到達点です。

そして奏ちゃんと久美子の短い時間ながらの熱いやり取りに続いて、大吉山での久美子と麗奈のシーンです。
ここも名探偵久美子っぽい言動がすこし気にはなりますが、そんなことどうでもよくなるほどの嗚咽ものの感動シーンです。
ユーフォ1期の大吉山での「愛の告白」が逆の立場で行われます。ここにも1期と久美子と麗奈の関係の逆転が示されています。
二人は二人が信じてきたものを守り抜きました。二人に喝采を送りましょう。これほどに悔しさ悲しさがあふれる喝采はそうそうあるものではないです。

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そして最終回
これまで意識的に避けてきたように演奏シーンのなかったユーフォ3期ですが、もちろん最終回は6分間にも及ぶ重厚な演奏シーンが最大の見せ場です。
「一年の詩~吹奏楽のための」
本作の音楽担当の松田彬人による渾身の楽曲です。
中盤のトランペットとユーフォのソリの部分が、感動しかないですね。
1~2期の「三日月の舞」、劇場版『誓いのフィナーレ』の「リズと青い鳥」とあわせて、永久保存版で吹き継がれてほしい楽曲です。

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ネタバレとは言えないくらい当然の結末なので言ってしまいますが、北宇治高校は見事に全国大会でゴールド金賞を受賞します。
歓喜に沸く北宇治の生徒たちの描写の中で一番胸を打つのは、真由が喜びの涙を流しているところでした。悲しみの強いユーフォ3期における最大の「救済」ではないかと思います。
そして、高坂麗奈の「うれしくて死にそう」も最高です。そもそもすべてのはじまりは麗奈の「くやしくて死にそう」だったのです。最高すぎるアンサーでした。

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そして物語はそこで終わり…かと思いきや、第一話で私がテストに出ると言った場面に戻ります。
春の北宇治高校で、音楽室で吹奏楽部が東海林修作曲の「ディスコ・キッド」を演奏しています。
美知恵先生に教頭が話しかけます。「今年の一年生はどうですか?」
美知恵先生は答えます「やる気十分ですよ」

第一話の冒頭と同じ画を流しながら、第一話にはなかった久美子のナレーションが入ります

「あれから数年、麗奈は今もアメリカで音楽を続け、葉月ちゃん、ミドリちゃんはそれぞれ社会人として仕事についている。高校の吹奏楽部は不思議な空間だ。毎年メンバーが変わる中、一年に一度の大会のために一年間練習を続ける。理不尽なことも取り返しのつかないこともたくさん起きる空間だ。でも、私はここが好きだ。たった三年、三回しかない大会にすべてをかける、この濃密な空間がたまらなく好きなのだ」

そして大人久美子が音楽室に入り、副顧問をしています黄前久美子です、と自己紹介します。

第一話冒頭で、麗奈っぽいと思った指揮棒を振っていた黒髪ロングの子の顔がカメラに写り、麗奈ではない別の子だったことが分かります

というわけで第一話の冒頭シーンは本編の数年後、高校教師になった久美子が赴任した北宇治高校でのことだったことがわかるのです。

匂わせ描写や発言が色々ありました。
美知恵先生と教頭のやり取りも、一年生部員のことではなく、先生として一年生の久美子のことを言っていたのかもしれません。
久美子と秀一はどうなったん?と疑問に思う方は、劇場版『誓いのフィナーレ』を見直したうえで、久美子の持っていたバインダーにとまっていた花の形のヘアピンを見て察してください。

美知恵先生が顧問で、久美子が副顧問なのでしょうか?
でも滝先生が顧問を続けていて、美知恵先生は部活から身を引いたとも考えられます。そうなるとめちゃくちゃ滝イズムを継承しているっぽい久美子が、麗奈のいないところで滝先生と…なんて余計な心配をしてしまいますが、そんなことしたら麗奈はアメリカから久美子を殺しに来るだろうことは久美子もわかっているので大丈夫でしょう。

ところで、ユーフォ3期最終回のエピローグの時代設定はいつでしょう?

ユーフォ3期第一話は2017年であろうと、ユーフォ3期について書いた記事の第一回で書きました。その根拠はその時の記事を参照してください。

というわけで久美子は2018年3月に北宇治高校を卒業。大学に現役合格したとして、2022年卒業です。
エピローグのさり気ないカットですが、音楽室の隅にアクリル板が大量に置いてありました。コロナ禍の終息後であることがうかがえます。2022年だとしてもギリ成立するでしょうか。
とはいえ北宇治高校は設定によると京都府立となっています。現役合格してストレートに大学出て即、卒業の年に母校で教師になれるほど甘くはないと思います。ナレーションでもあれから数年とぼかしてましたから、逆に言うと「あれから4年」ではないということではないでしょうか

というわけで私は、最終回エピローグは、2024年のことではないかと推察します。
そうです。いま、この時、久美子は教師として、吹奏楽部の副顧問として、我々と同じ時間の中で奮闘しているのです。
そう思うと、ほら、久美子も頑張ってるから俺も頑張ろうって気になれますよね。
つながる、つなげる、がテーマだったユーフォ3期は、まさに今の私たちとつながったのです。

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という次第ですさまじい熱量で書きなぐった、『響け!ユーフォニアム3』でした。

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追記
大事なことを言い忘れていました
これから写真を撮るときの掛け声はこれにしてください
「ティンパニー」

#響けユーフォニアム
#ユーフォ3期
#ボロディン
#韃靼人の踊り

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