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英語教師のひとりごつ

英語教育について考える。時々ラーメンについて語ることもある。

失礼にならない英語 ~英語のポライトネス~

2013-12-29 01:00:52 | 日記
生徒にはまず、自分の言いたいことが伝われば合格点だ、という話をしています。しかし、場面に合わせてなるべく失礼にあたらない表現を選ぶ練習をする必要はあると思います。さまざまな場面に合わせて、どれが失礼にあたらないかという判断は、日本人が日本語で話していても難しいので、それほど神経質にはなる必要はないですが、漠然と場面が設定されないまま、「英語にも丁寧な表現があるんだぞ。」とどや顔で生徒に話したところで、あまり生産的ではないように思うのです。

そもそも日本語には、使える使えないに関わらず、敬語が存在するため、語彙自体に丁寧さが含まれていることが多く、丁寧に伝えることは比較的わかりやすい(が、敬語を習得するのは難しいのも事実)ですが、英語での丁寧な言い方は、相手に対する配慮を(日本語よりも)意識する、という意味で、少し異なる面があります。これに関しては詳しく立ち入りませんが、ポライトネスという用語は、ただ丁寧な言い方を問題にしているわけではないことは知っておくべきだと思います。

法的過去形式はまさにポライトネスに関する宝の山なのですが、それは別の機会に検討することにします。

ポライトネスの理論的なことはパイオニアであるLeech(1983)などにまかせて、今回はポライトネスにかかわる語法の問題について取り上げたいと思います。


ポライトネスの問題でいえば、よくカン違いされているのがhad betterだと思います。これはSwan(2005)やCarter at al.(2011)をまとめると、次のような意味になります。

「(差し迫った状況下で)~したほうがいい(そうしないとまずい状況になる)」


訳語の問題よりも語法の指導が重要です。had betterはshouldと異なり、「差し迫った」状況下で用いられるのが一般的なので、Carter at al.(2011)によれば「一般的に~すべきだ」という場合には向いていません。

(1)?You'd better eat breakfast every day.(shouldにすれば正しい文)

さて、had betterは、Iやweも主語にとりますが、この場合は自分(たち)に言い聞かせるような意味合いになります。

(2)It's seven o'clock. I'd better put the meat in the oven.(7時だ。オーブンに肉をいれなきゃ!)(Swan,2005より)

さて、問題はyouを主語にとる場合です。多くの文法書では、自分(たち)以外が主語だと、かなり上から目線の発言になる、と説明しています。これは本当でしょうか。ここで問題となるのは、had betterのもつ「(a)差し迫った状況下、で(b)そうしないとまずい状況になる」だと思います。特に差し迫っていない状況でhad betterを使うと失礼になるでしょう。たとえば川村(2006)による次の例です。あなたは京都出身で、友人からお勧めのスポットを尋ねられました。さて、あなたはどちらを使うでしょうか。

①You had better visit Kinkakuji and Kiyomizudera.
②You should visit Kinkakuji and Kiyomizudera.
③どちらも間違い

川村(2006)によれば、ほとんどのネイティブは②を使います。しかし、ここで問題なのは上の(a)と(b)です。その証拠に、次の柏野(2010)の例を見てみましょう。あなたは友人に、バスがきているから急ぐように言わないと、友人はバスに乗り遅れてしまいます。

(3)Your bus is just about to leave, you'd better hurry.(バスが出発しそうだよ!急がなきゃ!)

これは同じ友人への発言ですが、正しい使い方です。つまり上から目線かどうかは場面や文脈によって決まる問題だということです。たとえばミントン(2007)によれば、自分の上司が風邪をひいていて、病院に行ったほうがいいと言う場合、こう言っても失礼にはなりません。

(4)I think you'd better see the doctor.(医者に診てもらったうがいいと思いますよ。)(例文はミントン(2007)より)

ミントン(2007)によれば、これは相手への気遣いを表した、丁寧な言い方です。had betterのもつ(a)や(b)の意味が、相手へ「早く医者へ行かないとまずいですよ!」という気遣いを含意しています。ちなみにhad betterは「maybe」や「I think」をつけることで間接的で、丁寧さが増します。目上の人への発言であれば、より間接的で丁寧な言い方が好まれるでしょう。


もちろんhad betterは多くの文法書に書かれているとおり、命令や脅迫を表すこともできますが、それは場面や文脈から判断できます。ミントンによれば、相手に選択の自由を与えない場合や、理不尽なことをするよう求める場合にこういった脅しの意味になります(p.192ー3)。

(5)You'd better help me. If you don't, there'll be trouble.(僕を助けたほうがいいよ。もし助けなかったら、大変なことになるよ。)(Swan,2005より)

確かにhad betterのもつ「差し迫った」感じや「さもないとまずい状況になる」というのは、脅しに使える切迫感があるので、そのような場面で好んで使われることは確かです。ほかにも次のような例があります。

(6)Shall I put my clothes away? ――You'd better!(私の服、片づけましょうか?――そうしなさい(さもないと・・・)!)(Swan,2005より)

しかしこれはhad betterが悪い(?)のではなく、had betterの意味を利用して脅しを表している、いわば語用論的な使い方です。すでに見てきたように、実際に状況が(a)や(b)を満たしているなら、友人や先輩に向けて言っても失礼にはなりません。大事なのはhad betterを使うときは「(a)差し迫った状況で、(b)そうしないとまずい状況になる」場合だということ。これらを大なり小なり満たしていることが大事です。相手に「選択の自由」がどの程度与えられているか、というのもポライトネスにおいては重要ですが、これはhad betterに限ったことではありませんね。気をつけたいところです。

ちなみにhad betterは、インフォーマルな場面ではbetterだけで用いられます。

(7)You better go now.(もういったほうがいいよ。)(Swan,2005より)

また、まれにhad bestという言い方もしますが、Carter at al.(2011)によれば、これはhad betterより間接的な言い方です。また、ここまで説明してもhad betterが使いにくい人は、be better offという表現を使いましょう。これはさらに間接的な提案で使われます。had betterのもつ「さもないと~」ではなく、「そうすればその人(主語)にいいことがあると(話者が)思っている」ことに使われます。

(8)If you've got bags, you're better off taking a taxi.(バッグがあるなら、タクシーに乗るのがいいんじゃないかな。)


説明されると難しいですが、実際に使うときには慣れていけばいいだけです。まぁ、日本に住んでいるとそれが難しいのですが。さぁ、太鼓の達人やろっと。


【参考文献】
Carter R. McCarthy M. Mark G. and O'Keeffe A.(2011). English Grammer today. Cambridge.
Leech G.(1983). Principle of Pragmatics. Longman.
Swan M.(2005). Practical English Usage. Oxford.
柏野健次.(2010).『英語語法レファレンス』.三省堂.
川村晶彦.(2006).『日本人英語のカン違い ネイティブ100人の結論』.旺文社.
ミントン T.D.(2007).『日本人の英文法 完全治療クリニック』.アルク.



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