会話ではよく会話独特の表現が好まれます。非常にインフォーマルなものをスラングといったりしますが、あまり学校では指導しません。私はそれほど指導する必要もないと考えていますが、ある程度一般的な口語表現に関しては指導するべきだと思います。たとえば挨拶については以前述べた通りです。
こういった語彙指導の問題で感じるのは、語彙は単独でよりも、ある程度フレーズ(チャンクあるいは他の単語とのつながりやすさを表すコロケーション)でとりあえずその文脈での語法を覚えたほうがよいと思います。別の意味も覚えよう、と欲張っても時間がかかって効率が悪いと思うのです。
そしてもうひとつ、気になるのは「単語を知っている」とはどういうことなのか、という問題です。たとえばNation(2006)によれば、映画シュレックという子供向けの映画ではBNCリストの4000語(Nationはword familyで語彙数をカウントしています)程度で固有名詞も含めて96.74%を占めています。これはハイランクの大学入試レベル以上の学生の語彙力に匹敵するでしょう(ただし、ワードファミリーという考え方を導入すると、ネイティブは同じワードファミリーの語彙を推測できても、日本の学生は慣れていないので推測できないという可能性もあるし、Nationの使っているBNCリストで日本の学生の語彙数を測ると実際にはかなり少なくなるかもしれません。)。ではこの学生はシュレックをみて理解できるかというと話はそんなに単純ではありません。まずリスニングにどれだけ慣れているか、つまりリスニング能力が求められます。また、アメリカの子供の4000語と日本の学生の4000語は同じ語彙数でも、その内容、あるいはひとつひとつの語彙に対する「深さ」みたいなものが少し異なるということも考えられるでしょう。口語表現のボキャブラリーが極端に少ないという可能性もあります。そしてもうひとつ、その語彙のもつ意味はひとつではないので、場合によっては推測が不可能なくらい意味が変わってしまうということです。これらを総合的に考えてみると、以下のようにまとめられます。
1 ある語彙の意味を覚えたとしても、聞いて(あるいは読んで)理解できるとはかぎらない。
2 ネイティブが子供でも覚えていく語彙を日本の学生が知っているわけではない(語彙の質がズレていたり語彙の知識の深さが違う?あるいは口語表現に慣れていない?)。
3 ある語彙の意味はひとつではなく、様々な熟語や定型表現などもあり、それが理解を困難にする場合もある。
語彙を指導する際に、私はこれらのことを念頭に置いて指導しています。ただし先に述べたように、一度に語彙の多様な意味をすべて覚えるのは現実的ではないので、教師は教える語彙のどの意味に焦点を当てるかを明確にして、次はこっちの意味を教えよう、というビジョンを持っておくべきです。先の疑問「単語を知っている」とはどういうことなのか、結論は・・・。またいずれ。ちなみにNationはシュレックを完璧に理解するなら、6000(~7000)ワードファミリーくらいは必要だとしています。これで98%くらいを理解できるそうですが、映画は映像を手がかりに内容を補えるので、小説などのリーディングとは異なりもう少し足りなくても理解できると思います。そもそも何をもって理解したといえるのかも難しいところですが。
さて、話が口語表現から逸れたのですが、上で述べた3について、口語でよく使われる表現(イディオム)を用いながら考えていきます。下の文の意味が理解できるでしょうか。あまりふさわしくないシチュエーションですが、ALTに今日の授業どうするか、と聞かれたとしましょう。
(1)Let's play it by ear.
こんな教師はいないとは思いますが、あくまでも例です。この「play it by ear」はすべて簡単な単語ですが、意味は「その場で考える」という感じです。「improvise」という単語と同じで、もともとは音楽を(耳できいて)即興で演奏する、という意味から、音楽だけでなくいろいろなことにたいして「即興でやる」という使い方をするようになりました。会話ではよく使われますが、それぞれの単語を知っていても類推することは困難です。次の例はどうでしょうか。
(2)I skipped school yesterday.
「skip school」で「学校をサボる」という意味です。同じ意味で、「cut school」や「play hooky」ともいいます。次は、たとえば友人に何度海外旅行に行ったことがあるか質問されたとしましょう。
(3)Off the top of my head, 10 times or more.
この「off the top of my head」は、頭のてっぺんから(すぐ)出てくるのは、といった感じから「すぐに思いつくのは」という意味です。次の文はどうでしょうか。
(4)He sometimes goes nuts.
「go nuts」で「頭がおかしくなる」という意味です。似たような表現で「go ape」というのがありますが、こちらも「興奮する」や「激怒する」あるいは「頭がおかしくなる」みたいに使われます。猿のようになる、ということからきています。ちなみにアメリカでは「go bananas」ともいいます。これもバナナを見た猿のようになる、ということです。このようなイディオムは簡単な語彙の組み合わせでできていますが、意味が推測しにくいと思います。語彙数だけで「これだけ知っているから映画を字幕なしで観れる」とは単純に考えないほうがよいでしょう。日本で英語を勉強する人には、日々の地道な努力が必要で、まずは辞書を片手にFriendsでも観るとかなりの口語表現が学べると思います。
【参考文献】
Nation.I.S.P.(2006). How Large Vocabulary Is Needed For reading and Listening? Canadian Modern Language Review 63,1:p.59-82.
こういった語彙指導の問題で感じるのは、語彙は単独でよりも、ある程度フレーズ(チャンクあるいは他の単語とのつながりやすさを表すコロケーション)でとりあえずその文脈での語法を覚えたほうがよいと思います。別の意味も覚えよう、と欲張っても時間がかかって効率が悪いと思うのです。
そしてもうひとつ、気になるのは「単語を知っている」とはどういうことなのか、という問題です。たとえばNation(2006)によれば、映画シュレックという子供向けの映画ではBNCリストの4000語(Nationはword familyで語彙数をカウントしています)程度で固有名詞も含めて96.74%を占めています。これはハイランクの大学入試レベル以上の学生の語彙力に匹敵するでしょう(ただし、ワードファミリーという考え方を導入すると、ネイティブは同じワードファミリーの語彙を推測できても、日本の学生は慣れていないので推測できないという可能性もあるし、Nationの使っているBNCリストで日本の学生の語彙数を測ると実際にはかなり少なくなるかもしれません。)。ではこの学生はシュレックをみて理解できるかというと話はそんなに単純ではありません。まずリスニングにどれだけ慣れているか、つまりリスニング能力が求められます。また、アメリカの子供の4000語と日本の学生の4000語は同じ語彙数でも、その内容、あるいはひとつひとつの語彙に対する「深さ」みたいなものが少し異なるということも考えられるでしょう。口語表現のボキャブラリーが極端に少ないという可能性もあります。そしてもうひとつ、その語彙のもつ意味はひとつではないので、場合によっては推測が不可能なくらい意味が変わってしまうということです。これらを総合的に考えてみると、以下のようにまとめられます。
1 ある語彙の意味を覚えたとしても、聞いて(あるいは読んで)理解できるとはかぎらない。
2 ネイティブが子供でも覚えていく語彙を日本の学生が知っているわけではない(語彙の質がズレていたり語彙の知識の深さが違う?あるいは口語表現に慣れていない?)。
3 ある語彙の意味はひとつではなく、様々な熟語や定型表現などもあり、それが理解を困難にする場合もある。
語彙を指導する際に、私はこれらのことを念頭に置いて指導しています。ただし先に述べたように、一度に語彙の多様な意味をすべて覚えるのは現実的ではないので、教師は教える語彙のどの意味に焦点を当てるかを明確にして、次はこっちの意味を教えよう、というビジョンを持っておくべきです。先の疑問「単語を知っている」とはどういうことなのか、結論は・・・。またいずれ。ちなみにNationはシュレックを完璧に理解するなら、6000(~7000)ワードファミリーくらいは必要だとしています。これで98%くらいを理解できるそうですが、映画は映像を手がかりに内容を補えるので、小説などのリーディングとは異なりもう少し足りなくても理解できると思います。そもそも何をもって理解したといえるのかも難しいところですが。
さて、話が口語表現から逸れたのですが、上で述べた3について、口語でよく使われる表現(イディオム)を用いながら考えていきます。下の文の意味が理解できるでしょうか。あまりふさわしくないシチュエーションですが、ALTに今日の授業どうするか、と聞かれたとしましょう。
(1)Let's play it by ear.
こんな教師はいないとは思いますが、あくまでも例です。この「play it by ear」はすべて簡単な単語ですが、意味は「その場で考える」という感じです。「improvise」という単語と同じで、もともとは音楽を(耳できいて)即興で演奏する、という意味から、音楽だけでなくいろいろなことにたいして「即興でやる」という使い方をするようになりました。会話ではよく使われますが、それぞれの単語を知っていても類推することは困難です。次の例はどうでしょうか。
(2)I skipped school yesterday.
「skip school」で「学校をサボる」という意味です。同じ意味で、「cut school」や「play hooky」ともいいます。次は、たとえば友人に何度海外旅行に行ったことがあるか質問されたとしましょう。
(3)Off the top of my head, 10 times or more.
この「off the top of my head」は、頭のてっぺんから(すぐ)出てくるのは、といった感じから「すぐに思いつくのは」という意味です。次の文はどうでしょうか。
(4)He sometimes goes nuts.
「go nuts」で「頭がおかしくなる」という意味です。似たような表現で「go ape」というのがありますが、こちらも「興奮する」や「激怒する」あるいは「頭がおかしくなる」みたいに使われます。猿のようになる、ということからきています。ちなみにアメリカでは「go bananas」ともいいます。これもバナナを見た猿のようになる、ということです。このようなイディオムは簡単な語彙の組み合わせでできていますが、意味が推測しにくいと思います。語彙数だけで「これだけ知っているから映画を字幕なしで観れる」とは単純に考えないほうがよいでしょう。日本で英語を勉強する人には、日々の地道な努力が必要で、まずは辞書を片手にFriendsでも観るとかなりの口語表現が学べると思います。
【参考文献】
Nation.I.S.P.(2006). How Large Vocabulary Is Needed For reading and Listening? Canadian Modern Language Review 63,1:p.59-82.