英語教師のひとりごつ

英語教育について考える。時々ラーメンについて語ることもある。

more kindを間違いとみなすか否か

2019-02-26 20:54:26 | 日記
比較級の作り方といえば一般的には次のように説明されます。

(1)This department store is larger than that one.
(2)This problem is more difficult than that one.

単音節ならばerをとり、2音節以上ならばmoreをとる場合が多い、というルールです。ただし2音節以上でもどちらをとるかは意外と複雑で、特に2音節では、どちらもとることができるものも多いのが実情のようです。以下はどちらも正解とみなしてよいでしょう。

(3)John is politer than Mary.
(4)John is more polite than Mary.

ただし(4)のようなmore型(これを迂言比較と呼んだりします)ほうが現在では一般的であることは知っておいたほうがよいでしょう。そしてこの傾向はpoliteに限ったことではなく、多くの2音節の形容詞に当てはまると思います。ただし、Biber(1999;522)によれば、音韻論的・形態論的特徴によるので一概にはいえないのかもしれません。

さて、問題は単音節ではどうなのか、ということです。当然単音節ではer型(これを屈折比較と呼んだりします)が一般的なのはいうまでもありませんが、それがすべての形容詞に当てはまるわけではないことは知っておいたほうがよさそうです。つまり、以下の例文はどちらも正しい文と考えてよいのではないかと思います。

(5)He is kinder than John.
(6)He is more kind than John.

ただし(5)のほうが自然だと解釈する話者のほうが多いと感じます。それでも(6)を間違いだとばっさり切り捨てる理由はなさそうです。kindは迂言用法も屈折用法もどちらも用いることができる、といってよいでしょう。

単音節での迂言比較は、おそらく現代英語の傾向であると思うのですが、本当のところはよくわかりません。これだけでもひとつの論文が書けそうです(あるいはもう書かれているのかも)。ただし、単音節の迂言用法に関しては注意が必要です。形容詞によっては多くの場合、まだ屈折比較のほうが一般的である、という事実があります。つまりなんでもかんでも
moreをつければいい、とはいかなそうです。以下の例は屈折比較しか自然とはいえません。

(7)My room is larger than my brother’s.
(8)*My room is more large than my brother’s.

よって単音節では基本的には屈折用法が正しい、という文法解説書の説明は間違ってはいませんが、問題は(6)のような文を正しいとするのかどうかだと思います。テストで書いたときにバツをつけるのか、マルをつけるのか、部分点をあげるのか。個人的には、正しい文を書いてバツになるのはそれこそ間違いだと思います。

教育の中の英文法がどうあるべきなのか、という問題は意外と一筋縄ではいかないものです。規則性から導き出された規範文法か、実際の使用例に基づいた記述文法か。この議論については住𠮷(2016)で詳述されているのでここでは深入りしませんが、住𠮷のような考えが英語教育にも広まることは大事だと思います。


ちなみにどんな形容詞でもmoreをつける用法に次のような例があります。

(9)He is more wise than clever.(例文は江川(1999;172)より)

この用法では、同一人物がcleverというよりwiseだ、という意味で、この場合wiserということは通常ありません。この(9)のような用法は一般の文法解説書にも書かれているので今回の話とは関係ないことを一応記しておきます。

久しぶりの投稿でした。転勤になり、環境が変わり、久しぶりの進学校での指導。でもやることは全く変えていません。英語をいかに楽しく指導するか。目先の模試の成績ではなく、本当の英語力をつけさせるためにどうするか。そんなことを考えながら指導しています。まずは身近なことを英語で表現することを大事に。それでも、それでこそ生徒のモチベーションは俄然高いのを実感しています。

【参考文献】
Biber Douglas et al.(1999). Longman grammer of spoken and written English. Longman.
江川泰一郎.(1991).『英文法解説』.金子書房.
住𠮷誠.(2016).『談話のことば2 規範からの解放』.研究社.

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