先日、生徒の受けた学力テストに次のような問題が出題されていました。
問題:Be careful( )any noise in the library.
( )に当てはまる語句を選ぶ問題です。選択肢から答えを選ぶと、not to makeが答えとなります。つまり「to不定詞を否定するときは、to不定詞の前にnotを置きなさい」という学校文法のルールに従って答えを導き出せばよいわけです。これ自体は確かに答えとしてふさわしく、何ら問題はないのですが、問題は他の選択肢が必ず間違いといえるのか、です。
選択肢のひとつに「to not make」がありました。これは間違いといえるのか。つまり、下の文は間違いといえるでしょうか。
(1)Be careful to not make any noise in the library.
このto not doに関しては、手元の学校文法書で調べても触れられていないか、はっきりと「to not doとはしないこと」とまで記載されています。しかし私は、実際にはネイティブスピーカーは(1)のような文を用いるのではないかと思います。もちろん正式にはnot to doが最も使われていることは事実でしょうが、to not doが間違いだといえるのかが問題です。
Swan(2005)はto not doを「not usually(標準的でない)」(p.255)だとしています。一方、柏野(2010)では「話し言葉を中心にto notという表現が使われるようになってきている」(p.199)といいます。さらに『オーレックス英和辞典(第2版)』のプラネットボードによれば、別の例文ではありますが、to not doだけを用いる人は8%でしたが、どちらも可とした人も合わせると41%にのぼりました。これらの数字をどうみるかは捉え方次第といえばそれまでですが、私がネイティブに尋ねたところでは、少なくとも会話では全く問題なく使われている、といえるでしょう。そもそも私がこの問題に気づいたのも、カナダにいた頃に多くの人がto not doを用いていたため、不思議に思い調べてみたことが発端でした。その時に尋ねたネイティブもみな、どちらも問題なく使ってよい、と言っていました。
結論としては、このような紛らわしい問題を出題すること自体ふさわしくないと思います。出題するならばto not doは選択肢から外すか、選択肢に入れるならばどちらも正解にするべきだと思います。
それにしてもこの問題が、文法指導をめぐる英語教育の在り方を問う重要な問題だと思うのは私の考えすぎでしょうか。「間違い」をめぐる我々の許容範囲はどこまでなのか、非常に区別するのは難しいのは事実です。しかし、実際に使われている語法を考察することなしに、文法解説書に「ダメ」と書いてあるからダメ、という態度はいかがなものかな、とも思います。
もうひとつ、この問題を考える際も、やはり「場面」の設定は重要だと思います。アカデミックな文章を書く時にto not doで本当によいのか、となれば答えはNoでしょう。しかし、日常会話では許容されてよいはずです。ではまた上の設問に戻った時に、この文の場面はどのようなものでしょうか。内容から考えると、少なくともアカデミックな文章ではないでしょう。この設問に限らず、場面を設定することが曖昧なままでこの問題を考えても、いまいち埒があかないように思います。アカデミックライティングを指導する際の注意するべき文法・語法と、会話を指導する際に必要な文法・語法が異なるのに、同じ文法・語法の知識で指導するわけにはいかないでしょう。
まとまりのない感じになってきたのでここで切り上げますが、この話題については、またある程度整理して考えたいと思います。
【参考文献】
Swan Michael.(2005).Practical English Usage.Oxford.
柏野健次.(2010).『英語語法レファレンス』.三省堂.
問題:Be careful( )any noise in the library.
( )に当てはまる語句を選ぶ問題です。選択肢から答えを選ぶと、not to makeが答えとなります。つまり「to不定詞を否定するときは、to不定詞の前にnotを置きなさい」という学校文法のルールに従って答えを導き出せばよいわけです。これ自体は確かに答えとしてふさわしく、何ら問題はないのですが、問題は他の選択肢が必ず間違いといえるのか、です。
選択肢のひとつに「to not make」がありました。これは間違いといえるのか。つまり、下の文は間違いといえるでしょうか。
(1)Be careful to not make any noise in the library.
このto not doに関しては、手元の学校文法書で調べても触れられていないか、はっきりと「to not doとはしないこと」とまで記載されています。しかし私は、実際にはネイティブスピーカーは(1)のような文を用いるのではないかと思います。もちろん正式にはnot to doが最も使われていることは事実でしょうが、to not doが間違いだといえるのかが問題です。
Swan(2005)はto not doを「not usually(標準的でない)」(p.255)だとしています。一方、柏野(2010)では「話し言葉を中心にto notという表現が使われるようになってきている」(p.199)といいます。さらに『オーレックス英和辞典(第2版)』のプラネットボードによれば、別の例文ではありますが、to not doだけを用いる人は8%でしたが、どちらも可とした人も合わせると41%にのぼりました。これらの数字をどうみるかは捉え方次第といえばそれまでですが、私がネイティブに尋ねたところでは、少なくとも会話では全く問題なく使われている、といえるでしょう。そもそも私がこの問題に気づいたのも、カナダにいた頃に多くの人がto not doを用いていたため、不思議に思い調べてみたことが発端でした。その時に尋ねたネイティブもみな、どちらも問題なく使ってよい、と言っていました。
結論としては、このような紛らわしい問題を出題すること自体ふさわしくないと思います。出題するならばto not doは選択肢から外すか、選択肢に入れるならばどちらも正解にするべきだと思います。
それにしてもこの問題が、文法指導をめぐる英語教育の在り方を問う重要な問題だと思うのは私の考えすぎでしょうか。「間違い」をめぐる我々の許容範囲はどこまでなのか、非常に区別するのは難しいのは事実です。しかし、実際に使われている語法を考察することなしに、文法解説書に「ダメ」と書いてあるからダメ、という態度はいかがなものかな、とも思います。
もうひとつ、この問題を考える際も、やはり「場面」の設定は重要だと思います。アカデミックな文章を書く時にto not doで本当によいのか、となれば答えはNoでしょう。しかし、日常会話では許容されてよいはずです。ではまた上の設問に戻った時に、この文の場面はどのようなものでしょうか。内容から考えると、少なくともアカデミックな文章ではないでしょう。この設問に限らず、場面を設定することが曖昧なままでこの問題を考えても、いまいち埒があかないように思います。アカデミックライティングを指導する際の注意するべき文法・語法と、会話を指導する際に必要な文法・語法が異なるのに、同じ文法・語法の知識で指導するわけにはいかないでしょう。
まとまりのない感じになってきたのでここで切り上げますが、この話題については、またある程度整理して考えたいと思います。
【参考文献】
Swan Michael.(2005).Practical English Usage.Oxford.
柏野健次.(2010).『英語語法レファレンス』.三省堂.