わが家の夜のテレビの友はリンゴである。品種は「ふじ」。そのおいしさと鮮度が長持ちすることから,この品種にとどめを刺している。
「ふじ」は,1939年,当時の農林省園芸試験場東北支所において,国光を父親,デリシャスを母親(いずれもアメリカからの導入品種)として交配して得られた787の実生個体から選抜された1個体に由来する。父親の保存性と母親のおいしさを兼ね備えたこの品種は,「リンゴ農林1号」として1962年に登録された初の日本生まれの品種である。育成地の青森県藤崎町と日本を象徴する富士山をかけて,「ふじ」と命名された。
戦中・戦後の混乱期に実生個体を結実まで守りきって選抜した育種家,くせのある「ふじ」の栽培法を工夫して確立した篤農家,この方々の努力によって,「ふじ」は世に出,名声を高めていった。
現在「ふじ」は国内リンゴ生産の50%,中国,アメリカ,さらには南半球まで栽培を広げ,世界のリンゴ生産の30%をそれぞれ占めている。文字通りリンゴの王者である。
もし「ふじ」が現行種苗法の下で登録されていたら,巨大な利益を日本にもたらしただろう。しかし,品種や栽培技術にプライオリティは主張せず,人類の共有財産としてその普及に喜びと誇りをもってしていた時代に生きた「ふじ」にかかわった方々は,泉下でその世界的な隆盛に満足の笑みを浮かべておられるのではないだろうか。
「ふじ」の原木は,藤崎町から移植されて,盛岡市の農研機構リンゴ研究拠点の圃場に保存されている。わたしは数十年前にその雄姿を間近で見たが,電話でお聞きしたところ,樹齢80年を越えてなお健在とのことであった。世界中の「ふじ」はこの木のクローンである。
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今日の記事は特に面白く、早速子供達に話しました。ふじの原木見てみたいです。
「わたしは真っ赤なりんごです・・・・」を口ずさみました。
我々が、食べている「ふじ」は、樹齢80年を越える「ふじ」の原木のクローンとは、全く知りませんでした。
ということは、「ふじ」は、全て接木ですか?
毎年、松本の「ふじ」を食べています。
ブログを見ていただいてありがとう。ぼちぼちと続けていきます。そちらもコロナは油断ができない様子。お気を付けてお過ごしください。
わたしも高校裏のリンゴ園にはお世話になりました,今はすっかり住宅地ですね。坂を登り切った道の横のリンゴ園はまだ生きているようですが。
ふじに限らず,モモ,ジャガイモ,サツマイモなど,挿し木や芋で繁殖する品種はすべて1個体からのクローンです。元になった個体が残っているのは珍しいですが。