羽花山人日記

徒然なるままに

Perfect Days(映画)

2024-01-06 17:07:57 | 日記

Perfect Days(映画)

子どもに勧められて,この映画を観るために映画館に足を運んだ。最後に映画館で観たのが『蜜蜂と遠雷』だったから,映画館に入るのは7年振りである。

ドイツの映画監督ビム・ベンダーの演出で,役所広司が主演している。

この映画にはストーリーらしいものはない。役所が演じる平山という中年の男性の日常を淡々と描いている。

平山はスカイツリーが見える木造のアパートに,一人で暮らしている。畳の部屋にはテレビも家具らしいものもない。

早朝に目を覚まし,はさみで髭を整えながら洗顔し,作業着に着替え,小銭をもって玄関を出る。その時,平山は空を見上げてかすかにほほ笑む。自販機でコーヒーを買い,軽自動車に乗って渋谷に向かう。車中で,ひと時代前のポップスを。カセットテープで聴く。

「The Tokyou Toilet プロジェクト」で渋谷区に設置された公衆便所を清掃するのが,彼の仕事である。(このプロジェクトが映画製作のきっかけになったそうである。)

仕事は非常に丁寧で,若い同僚が手抜きするのを無視して,徹底的に磨き上げる。そんな彼に目を向ける便所の利用者や通行人はだれもいない。

昼休みには公園のベンチでサンドイッチを食べる。木漏れ日を見上げ,フィルムカメラを向けてシャッターを切る。それが彼の趣味の一つである。(「木漏れ日」に相当する外国語がないと,画面に注釈が映される。)

仕事が終わると銭湯に行き,帰りに一膳めし屋で夕食をとる。就寝時には寝床で文庫本を開き,眠くなると本を置いて消灯する。

休日には,コインランドリーで洗濯をし,カメラ店に寄って依頼した写真を受け取り,採り終えたフィルムの現像を依頼し,新しいロールを買ってカメラにセットする,写真は黒白である。

古本屋に立ち寄り,1冊100円の文庫本の山から一冊選んで購入する。

夕方になると,歌の上手な女将(石川さゆり)のいる呑み屋で,酎ハイを楽しむ。

彼の部屋には,撮りためた木漏れ日の写真,文庫本,カセットがぎっしりと詰められている。

山村はこの日常を判で押したように繰り返している。しかし,この日常にさざ波を立てる出来事が,時として起きる。

彼女とのデートに必要と,カセットを売ることをしつこく迫る同僚の願いを拒否し,いくばくかの金子を与える。その彼女がカセットの音楽を聴いて,号泣するのを黙って見つめる。

家出をした姪が転がり込む。その母親で疎遠にしていた妹が,亭主が運転する高級車で迎えに来て,父親が以前とは違って優しくなったので会いに来るように言う。別れ際に山村は妹を抱きしめ,部屋に帰って慟哭する。

呑み屋に女将の元亭主(三浦友和)が訪ねてきて抱擁するのを,山村は垣間見して動揺する。そしてもと亭主から彼女をよろしくといわれ,そんな仲ではないと照れながら,気分を払うために,亭主と二人で影踏みのゲームをして戯れる。

長々と書いたが,これがあらすじである。

この映画は国際的に非常に高い評価を得ている。主演の役所広司は,カンヌ国際映画コンクールの主演男優賞を獲得した。ほぼ一人だけで,台詞はほとんどなく,眼の動きで心の中を表現する役所の演技は実に素晴らしい。

光を操るカメラワークも見事で,映画全体に詩編の趣を与えている。

わたしはこの映画を観ながら,宮沢賢治の『雨ニモマケズ』を思い浮かべていた。映画と詩では,モチーフや描かれている人物像は異なるが,現在に生きる人間像へのアンチテーゼという意味で共通するものがあるように思う。

表現しきれないが,余韻が心に深く残る映画であった。

 

STOP WAR!

 


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3 コメント

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Unknown (KamijimaAkio)
2024-01-07 09:30:31
映画館に行ったのは、15・6年前に「ダビンチコード」を見たのが最後です。映画「Perfect Days」のブログを読ませて頂き、山人さんが宮沢賢治の『雨ニモマケズ』を思い浮かべた理由がよく分かりました。余韻が残る良い映画をご覧になりましたね‼︎
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Unknown (天野明)
2024-01-07 11:48:50
映画館へ行ったのは数年前の「大和の男たち」を観たのみです。山人さんの「prefect Days」のブログを読みセリフが少なく作品の文脈を語らせている点は古いですが小津安二郎監督の「東京物語」の様に表現に余白を感じる様に思えると同時に役所広司の演技力が「東京物語」の笠智衆の事を思い浮かべました。
(高齢な私のコメントにて失礼しました)
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Unknown (山人)
2024-01-07 17:15:16
ウィークデーだったせいか,観客のほとんどが市にある世代でした。
天野さんご指摘の通り,ベンダー監督は小津ファンで,その手法に影響を受けていると自分で認めています。「静」を描き永ら心の「動」を表現する技は素晴らしいです。
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