読書の記録

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Think CIVITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である

2019年07月06日 | ビジネス本

Think CIVITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である

 

著:クリスティーン・ボラス  訳:夏目大

東洋経済新報社

 

 

数年前に職場で管理職というものになった。数名の部下がつくことになる。

 

戸惑ったことはたくさんあったが、困ったことのひとつに「僕は叱責するのが下手」というのがあった。

怒鳴りつけたり、それは違うだろと否定したりするのが不得手なのである。相手が出してきたものはどんなものであれ、なんとなく理があると思ったり、筋が通っているように思ってしまう。要するに人が良いのである。自分でいうのもなんだけれど。

だから、へんな口車に乗せられやすかったり、頼まれごとを断れなかったりする。くれぐれも詐欺にだけはあわないように気を付けないといけない。

 

ぼくが勤めている会社はどちらかというと体育会系というか武骨なところがあって、先輩上司たちはわりと横柄に後輩や部下を怒鳴りつけていた。もちろんここに書いているのは「ブラック企業」とか「パワハラ」とかそんなコトバが登場する以前の話である。

つまり、上司というのは、部下をどやすものだ、という価値観が漫然とあったころだ。

 

 

その後、電通やワタミの事件が明るみとなって企業にはびこるいろいろな澱がいっきに明るみになった。長時間残業とかパワハラ上司とか過労死とか、職場の閉塞感とその打破がいっきに社会問題になった。僕のへんなプレッシャーはまったくお門違いだったということである。

やがて「わたし、定時に帰ります。」という小説やドラマが登場するに至った。

 

 

閑話休題。

僕はわりと本は読んできたが、そのなかでビジネス書の割合はさして多くない。「失敗の本質」や「粗にして野だが卑ではない」みたいにビジネス界でもよく読まれる本というのはもちろんあって、そういうのは僕も読んでいたわけだけれど、これらはジャンルとしては「ビジネス本」ではないだろう。

管理職になったときに、そのあまりの未知の世界にいくつか「ビジネス本」を手にとった。

 

その中で圧倒的に説得力をもって響いたのが古典中の古典、カーネギーの「人を動かす」だった。

というか、この1冊さえあればもういいんじゃないかと思った次第である。この1冊で、ぼくの「人を叱責できない」コンプレックスはだいぶ解消されたといってよい。

 

 

さて。本書「Think CIVITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である」も、本筋的には「人を動かす」から一歩も外に出ていない。カーネギーがあくまで個人経験と主観から語ったことを、もう少し客観的に記述したに過ぎない。

ただ、本書が慧眼なのはサブタイトルを「生存戦略」としたところだと思う。

原書のサブタイトルは"A Manifesto for the Workplace"とあって、直訳すると”職場への宣言”みたいなものになるから、この邦訳はわりと意訳しているわけだ。

 

だけど、この意訳がなかなかいいセンをついているのではないかと思うのである。

なんとなく周囲を眺めて思ったことは「優秀な人は優しい」ということだった。これは「思考の整理学」の外山滋比古も書いていたことだけれど、思うに優秀な人が結果として優しくなる、とのではなく、「優しい人が優秀になれる」ということなんだなと思ったのである。

つまり、「優しい」のは技術である。エーリッヒ・フロムの名著に「愛するということ」原書のタイトルは"The Art of Loving"、つまり「愛する技術」というのがあるように、「優しくする」のは技術だ。本心の赴くままの「優しさ」ではなく、意図して、努力して「優しくする」というのはけっこうなエネルギーを要する技術なのである。そしてそうやって「優しさ」という技術を取得することはかなりの「優秀な人間」をつくりだすことになる。周囲に支持され、その人のためにまわりも積極的に動くようになる。そういう人が「生存」する。

たまたまの立場上あるいは職権上いばりちらしているような人はもはや生存できない。体育会な社風であったぼくの職場でもそうなりつつある。人に動いてもらうには、職権でも業務命令でもなく、人徳が問われるということになる。

つまり、戦略的に人徳を獲得しなければならない。そうしないと生存できない。そんな時代である。

もっとも人徳ある人こそが生存する、というのは悪い話ではない。ただ、後天的に技術として人徳を獲得するというのはこれはなかなかたいへんなことではある。

 


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