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「作戦」とは何か 戦略・戦術を活かす技術

2019年07月20日 | 経営・組織・企業

「作戦」とは何か 戦略・戦術を活かす技術

 

中村好寿

中央公論新社

 

「作戦」が好きである。

なんかこう、アドレナリンが出るような、アゲアゲな気分になる。

めんどくさい仕事とか、腰の重たい用事がふってくると、僕は「新世界攻略作戦」とか「四月の嵐作戦」とか名前をつけて片付けてしまったりする。多少は心理的効果がある。

 

 本書によれば「作戦」とは、「戦略」と「戦術」の間に位置するものだという。

 「戦略(strategy)」-「作戦(operation)」-「戦術(tactics)」

 これらの用語、ものの本によっては、すなわち時と場合によっては、あてはまるコトバが異なることもあるが、要は物事を成し遂げるにはレイヤー(階層)で考えたほうがよいということだ。

 このレイヤー構造という“ものの見方”は、生きていく上で広く役に立つと思う。日常ではなんとなく無意識的にこなしていることでも、自覚することでいろいろな物事への対処力がついてくる。

 たとえば、外出中の家族から急に連絡があり、予定を早めてあと15分で帰ってくるとする。あなたは今晩の家族の夕食をあと15分で用意しなければならなくなった。

 このとき「ミッション」は、「15分後に食卓の上に夕食がある」ようにすることである。どうすればいいか。

①15分でちゃっちゃとつくれるものをつくる。(1)あなたに15分で家族分の食事をつくる技量があるのならば可能である。
②今からすぐに出前をしてくれる定食屋に電話する。(2)あなたにそういう店に心当たりがあるのならば可能である。
③お惣菜をささっと買ってくる。これも(3)近所に手ごろな店の心当たりがあるのならばこれだって可能である。

 要は15分後に食卓に家族分の食事が並べばいいのである。

 このとき、①②③は「戦略」である。そして(1)(2)(3)は、その「戦略」を達成できるための術(すべ)をあなたが持っているということだから、これは「戦術」である。(1)は料理の腕であり、(2)は店への連絡手段、(3)は店への移動手段を持っているということである。

 では「作戦」とは何か?

 ①の場合、でも「ちゃっちゃとつくれる算段はあるの?」というのが課題になる。それに対して「たまたま炊飯器にご飯が炊飯器が残っていて、冷蔵庫には鶏肉と玉ねぎと卵がある」とする。これは親子丼の材料だ。つまり買い物に行く時間や小皿料理をつくる時間を省き、「冷蔵庫のあるもので一気に丼物をつくることで時短をはかる」。これが「作戦」ということになる。さしづめ「冷蔵庫にあるもので親子丼作戦」だ。

 ②の場合は、「15分で家まで届ける定食屋なんてあるの?」というのが課題だ。それに対して「通りの向こうの中華屋は、チャーハンをつくるのが異常に速い」という前情報をあなたは持っていたとする。したがって「特盛チャーハンを出前してもらって、家で家族分に皿にわけてしまう」ことで15分で決着をつけさせる。つまり「すぐ出てくるものを大皿で頼んでしまう」、これが「作戦」なのである。いわば「メガ盛チャーハン調達作戦」だ。

 ③の場合は、”セブンイレブンのお惣菜が充実している”というのを最近CMで観たとする。なので近所のセブンイレブンにいってお惣菜をこまごま買い込み、家のレンジでチンして家の皿に盛り付ければ15分で間に合う。「コンビニお惣菜作戦」である。

 こうしてみると「作戦」というのは、「情報」と「兵站」と「補給」で成り立つということがよくわかる。冷蔵庫の中になにがあるのかもわからずに、また近所にどういう店があるのかもわからずに、あてずっぽうで家で料理するのを決めたり、お総菜をもとめて街に繰り出したら、とても15分で用意はできないだろう。

 つまり、「作戦」というのは「勝算」を算段するものなのだ。

 

 ところでこのミッションは、「15分後に料理ができている」ということだ。しかし、これはあくまで「軍事的ミッション」に過ぎない。実はこのレイヤーの上に「大戦略」あるいは「政治的ミッション」というのがある。この「大戦略」によって、今回の選択肢①②③のどれを選ぶのが最適かというのがまた変わってくる。

 たとえば帰ってくる家族というのはお父さんと息子2人、スポーツ大会の帰りでとにかく空腹でがっつり食べたいということがわかっているとする(この場合、あなたはお母さんであるとしよう)。腹ペコに違いないその家族を満足させる、というのが「政治的ミッション」だとすると、ちまちま小皿を並べる③はあまり満足度の高い結果に結びつかなそうである。②も悪くはないが、子供のひとりがグリンピースが嫌いだとする。チャーハンにはグリーンピースが入っている。お父さんともう一人の息子は問題ないが、ただ一人の息子のためにグリーンピースをよけるのはかったるい。したがって、「家族を満足させる」という政治的ミッションに最も近い戦略は、がっつりした親子丼が出る①ということになる。

 

ところが、帰ってくる家族というのは、実はすごく機嫌の悪い妻だったとする。(この場合、あなたは旦那さんだとしよう)。

どんぶり飯や大盛チャーハンを食べるような妻ではないし、コンビニの総菜なんかは見抜かれそうな勢いである。

ではどうするか?

 家に帰ってきた妻に対し、その旦那さんは、車のキーを手にして「ごちそうするから着替えて街に食事にいこう」とやるのだ。

これは「15分後に食事ができている」という「軍事的ミッション」そのものを変えさせる、という「作戦」なのである。

これが成功するには、家に車がある、旦那さんの財布に余裕がある、妻はそういうのに弱い、といういくつかの諸条件をクリアしていなければならない。

が、よくよくみればこれも「情報」と「兵站」と「補給」であることがわかるだろう。

 

そして、そもそも今回の「政治的ミッション」は「家族の満足度が高くなる」ということを思い出してほしい。

仮に、上記の①②③のいずれかを行って15分で食事ができたとしても、妻の機嫌は悪いままの可能性がある。それは、ベトナム戦争のアメリカ軍と同様に「戦闘には勝っているが戦争には負けている」のと同じなのである。

 

それどころか、車のキーを用意して妻の帰りを待つのは、「15分で夕食を用意する」という軍事ミッション、すなわち戦争を回避して勝利を手に入れる、という「戦わずして勝つ」孫子の兵法ばりの作戦である。

「作戦」は、「軍事的ミッション」だけでなく、「政治的ミッション」を達成するためにひもづくということがわかるだろう。

 

 なお、ミッションを遂げるにあたってはこの事態を構成するものが何かを見極める必要がある。今回のミッションでいうと、料理を用意するあなた、帰ってくる家族、冷蔵庫の中の食材、家の近所の中華屋やコンビニ、自家用車、用意できるおカネ、などがある。これらひとつひとつのアイテムを「ノード」という。

これら「ノード」は「連結線」で相互につながっている。たとえば、「あなた」というノードと、「冷蔵庫の中の食材」というノードは、「あなたの料理のスキル」という連結線でつながっている。あなたの料理スキルが高ければ高いほど、この連結線は堅固であり、あなたが料理はからきしダメということになればこの連結線は脆くなる。

つまり、事態は「ノードと連結線」で構成されているのである。そうすると、「情報」「兵站」「補給」はすべて、「ノードと連結線」でいうところの「連結線」であるというのが重要な点だ。「家族の心理状況がわかっている」「あの材料とこの材料で何が作れるか知っている」「お店の事情を知っている」「家とお店の位置関係がわかる」というのはすべてそれぞれのノードとの関係性の中で浮上してくる話なのだ。

物事を成し遂げるとき、登場人物や道具立てを「ノード」、それらの関係性を「連結線」ととらえることで、作戦が見えてくる。

 

したがって、「作戦」というのは「連結線」をどれだけ把握しているかということなのである。

しかも、この「連結線」は常に確保できるかといえばそうではない。その日はお店が休みかもしれないし、冷蔵庫のたまねぎが切れていたかもしれないし、旧に大雨が降ってきてとても出掛けられないかもしれない。すなわち、つねに最新の情報を把握していなければならないのだ。

 したがって、「戦略」と「戦術」はどれだけ手数を持っているかということが大事になるが、「作戦」に関してはどれだけ柔軟に対応できるか、ということが重要になることも留意したい。

 


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