七七ブログ

タダの詩人「七七」による人心体実験の記録 

「落とし天狗文の」第十一回

2007-12-01 01:06:25 | カットアップ
 兵器としてのウィルスや化学薬品などレベル3の極めて危険な物質を送るときは、全員がテーブルの下に身を伏せた。彼方の女が懸命に手と顔で合図する。地下鉄でよく見るようなケバい化粧してるけど顔立ちは間違いようもなく美人。彼女は「猫寄せ婆さん」と呼ばれていた。「早く生ゴミを出せえ」と、わめいているのである。国文学をやっていて、原稿を書くのに疲れ、安逸をむさぼっていると女性の顔は白痴化し、大きく口をあけて「うわあ」と吐息を洩らす。
 受付に走り寄った彼女は一応の確認をする。だが待っている間に気がかわって、すでに隣室には布団が敷かれている和室へとおれたちを案内させた。おれはやっと気がついた。
「メスの個体数が少いようだ」
 彼女が行ってしまうと、わが家には鼠とゴキブリがどっと増えた。パーティーみたいなもんや。おれは出口に飛びつき、泡を吹いてひくひくと痙攣している。あないにしあわせやったこと、ないわ。倒れている女や刃物を持った男のすぐ傍にいることにはまったく気づいていない。コンピュータを頼りにし過ぎたのが悪かった。税金込みで五十万円なんだ。金がなくなればまた水銀を売りに行くという生活を続けるうち、夢では逆に友人たちを奢ってやって散財し、この場所へ女を立たせてとか、でっかいアイデアってものは必ず、浮かれたままの足取りで劇場の階段を降りていき、何を言ってるのかわからん。注意されないとなかなか自分じゃ、気が弱くて立派な態度をとれないのは、失礼いたしました。
 ある日男連中が集まり、たちまち口吻を尖らせておれの裸の胸にとびつき、気ちがいじみたことを小声でぼそりと言う。
「ハト コイ コイ」
「これは『ほかの空』だ」
「ダニ水をくれ」
 叩き潰すのは簡単だが、仲居に命じ、いろんな嫌がらせをする。息を吸ったり吐いたりしてみれば、顔面にいろんなものが降りそそぐ。同席している教授連がまた悪い連中で、自分の興味と好奇心で本人の苦痛を長引かせようとする。
 よたよたと廊下の中ほどまで進み、やっと彼方にわが書斎の灯が見え、中は便所のようだった。こうなればやけくそ。善い悪いよりも、小便をしていこう。さいわい息を吹き返した。なんとなくぶつぶつとした泡状の汚れがあちこちに散在しているのだ。おれはいわば廊下の末端を机にして仕事をしていたらしい。案外正しいことなんじゃないでしょうかねえ。周辺の汚れを落しただけで、態度も毅然としてくるだろう。やくざ連中は家に入ってこようとする。一杯やりながら歓談した。よりよき話し相手となるであろうことはおれが保証する。われわれの仕事を手伝ってくれないかと言ってきた。うっとりした表情の細い眼でおれを見上げるので、おれはうなずいた。真面目な人物なのである。快楽を禁止することによって成り立っている。よくコーヒー飲みに行くじゃないですか。食卓の上の食器をぺろぺろと丁寧に舐め、豹の毛皮だって返したりはしないのである。これは精神分析の言う通りである。ならばおれは最近健康と思ったものの、いつまでも死ななかったらどうなるかを考える。妻は両手を上にさしあげたまま「やめて、やめて」と叫ぶのみである。自分まで同類と思われてはかなわないという脅えからであったろう。死は存在しない。実はそれは事実なのである。身をよじり、「ひいー」などともだえている者もいる。そんな感じに、ねちゃらくちゃらと、困ってしまう。そう言ったにもかかわらず、時にはそのまま死ぬこともある。彼は口笛を吹いた。

「落とし天狗文の」第十回

2007-12-01 01:05:37 | カットアップ
 長電話の癖がある友人から電話がかかってきた。彼と結婚しようなどと思う女性はひとりもいない。のろのろとしか動けないのである。裏道に停めてある車の助手席から強盗のひとりに撃たれてしまった。そのままにしている。女将は万事心得ていて、丹前の袖口みたいな分厚い真っ赤な唇に、全員がわーっと泣き出した。周囲の者も、「恐あい!恐あい!」絶叫しはじめた。
 これによって腸運動を司る神経筋肉機構は刺戟を受け、未練がましくとことん過去にさかのぼって辻褄あわせをえんえんとやる。あまり腹が立つので同僚十数人と示しあわせ、誰も本人に教えてやらず、だがそのためにしばしば机の端から転落し、そしておれは片目となった。
 今でも、司馬遼太郎氏は、食べものの夢ばかり見て、いったん家に戻ってボク同様叱られ、家に入れて貰えなかったのであったか、そのまま雨の中を泳いでさらに上へ、上へ。負債が五百兆円になったという理由から、やがて攻防戦が始まった。星新一が死に、川流土左衛門は座棺桶に入れられて土葬にされた。驚いて電話すると、当然親は怒っていて、「たしかに、いやだよねえ」と船越さんも言う。それから嬉しげに笑みを浮かべたままの表情で眼球だけをくるりと裏返し、そうやって下品にいじくりまわしているうちに、息子がグレるのはむしろ当然ともいえます。もともと教養があるところへもって、時間さえかければ、そのろくでもなさを、家族にも隠してひそかに大喜びしている連中がいる。人間には完成なんてありゃあしないんだよ。まだ骨ができていず柔らかい、のちに読売新聞大阪本社の文化部長になった人だ。
 またまた、日本はアメリカと内密に協定を結んだ後、クライマックスを迎えた。カルバン・クラインとはこのことか。すべての芸術家に共通する現象である。おかげで家だけは守ることができた。次の日、ついに煮立たせた油を撒いたので大惨事となり、犬になったあの若い男がおれの尻にとびついて、やがて彼は大声で叫んだ。
「やはり原則的には人間の頭脳しか頼れないのだ」
これはしかたあるまい。そう言うとあなた怒るけど、アホのヤングのアベックが、しこたま儲けたドルをキャッシュで分配し、ぶっ倒れ、よく「東大以外は大学ではない」と言っていたらしい。地球は巨大な牧場であり、誰かが生け贄となり、その他さまざまな発見があり、次いで単純なことばが出てこなくなり、最近はどうじゃ。いかなる名優だって、その表面は艶やかになり、特に直腸内において集結し、帰ってこなかったのである。
 だがそのあとに、ふたりは会う。この話はパリ中の評判となり、これなら相手は納得してくれるかもしれない。もしかするとおれだって、人殺しだってそうだ。ところが今日はどうした加減か、カチンコチンとなり、出ようとして身もだえた。その頃は「千里山」が阪急千里山線の終点であり、このままでは街の中心部からどんどん遠ざかるばかりではないか。寝ようとしたが、興奮して起きあがり、あれからえらいことになった。以下省略→烏賊跳躍。肉やら魚やらエビやら何やらかやら。禅寺のあちこちにあらわれた。友人は気の毒そうにおれに言った。
「お好みの子を選んでください」
ユーモアとも思えず、文壇でちょっと評判になった。

「落とし天狗文の」第九回

2007-12-01 01:04:34 | カットアップ
 秘書があわてふためいて社長室に駈け込んできた。片目を強く閉じてウィンクし、わけもわからぬまま平安朝時代へ行ってしまった。なかなか可愛い娘で、考えることすらできません。コンピューターに頼り切って仕事のすべてをまかせ、ちゃんとベッドに入って、一日中ぼんやりしていることがあるでしょう。
 ある百人ほどの会合で、やっと談合成立。いい気になって眼を見開いたおれの瞳孔に太陽光線が焦点を結んだ。いきなりでっかいのがドーンとくることもあるよ。男性で言うなら陰嚢のつけ根と肛門の間、夢にまで出てきた野外音楽堂の片隅のビタミン・ドリンクの空き瓶。本来性から切り離されて複数の意味を持つようになる。不適切なことばで代用してしまうことはわれわれの日常の会話でもよくあることですが、ぼくはそれにじっと耐えている。相手の倍の速度ですべてに対応できるなら、あとは闇に葬られてもよいものであろうか。かの血に鎮座まします慕わしき卵白太政大臣にはいつになったらおしゃもじを噛んで踊っていただけるのか。
 何ほどのものでもなかった。夢を見るだけである。どこで間違えたんだろう。やはりことばが出てこない。小説が書けなくなり、ついにはズボンのベルトをゆるめて股ぐらまで拭いはじめた。この様子を見ていた者がいて噂は広がり、もうそういうことはしないようにという意味の手紙を、アナウンサーが喋りはじめた。このままでは国家の滅亡とまで言われるようになった。 
 一方SF界では、目玉のやたら大きい異様な風貌のアンタレス星人たちが好奇心にあふれ返った表情でおれを注視している。宇宙規模の平和条約会議とかであるが、これだけでは面白くないからと、屁が燃えるかどうの議論となり、かくて日本国家滅亡の危機は危ういところで免れたのであった。彼らの話に注意を向けているうち、彼らから声をかけられたという。そしてこの日は最初から狂気の大騒ぎを始めた。打電=電気を殴ること……あれえっ。
「うん。本当に鳴りますよ」と、これを鳴らしながら宇宙を創ったロック奏者がいわゆる神である。がらがっちゃがっちゃ。これはあべこべである。そこでは多くの論理が焦げついていて成分そのものは蒸気となり入道雲に同化していく。光のようなものが走るんだが、彼らは互いに、酒席で、組み立て、踊りまくるのである。相当に高度の知能を有している証拠である。これが十数回くり返されたため、寒うて寒うて寝てられへんよってに当然徹夜や。と、いうことをえんえん原稿に書き続けるのだが、完全に表現できないことがわれわれの存在の事実なのだ。家の中のどこを捜しても見あたらない。いまだにわからない。由美は答えられなかった。たとえエンターテインメントであっても、実際はこんなにうまくは行かなかったのであるが、無意識まで表現できるわけがなく、相手もずいぶん驚いた様子である。そこにぼんやりと立っている旦那の姿。自分だった。おれを見て微笑した。いつまでもいつまでも、こんなところにあったか。
「綺麗なお花畑が見えてきた」
ふたりはおそるおそる、天麩羅とざる蕎麦を注文した。