七七ブログ

タダの詩人「七七」による人心体実験の記録 

「落とし天狗文の」第七回

2007-11-29 00:58:12 | カットアップ
 地下トンネルの中ほどで動けなくなってしまった。ここはもうだいぶ奥ですね。出てきたところを見た者はいない。
「ねえ。なぜ人を殺しちゃいけないの」
いささか気落ちした様子で、吹き出しの形で喋るのだ。だから彼は文書係として重用されていた。もし行くつもりなら自分も一緒につれていってくれと申し出てきた。小便したくなりゃあ、詰問する。気づいているようだ。自信が生まれ、慕われるようになった。
 鉄蓋を跳ねあげて三十九階へ出て見れば、複体蟹の恐怖を世間の人が噂している。電車は車止めを通り越して、被害者は瀕死の重傷を負うなどの事件があったものの、酒を飲んで酔っぱらい、その味の背後からは複雑系の客体蟹が別の物語の味を背負って出現する。金魚が口をあけたまま、深夜ひとりで納戸へやってきた。そのうちもっと無茶苦茶になってきて、パンティをひきずりおろし、腹の中では「アホやっ。アホやっ」と思い続けている。会議を中止または延期にしようかという話になったが、なあに大丈夫大丈夫。警察内部にも私どもの仲間がおるから、あなたは何に利用されるわけでもなく、この中からどれでも、免疫過敏症になって効果は次第に上昇する。その日に限ってなかなか見えてこない。だが、やらなければならない。おれも相手もついにふらふらになってしまう。彼のいた場所や歩いたあとはいつも紙屑でいっぱいだ。死んだ人間の霊魂を食べている。そして見すぼらしい身装りをしている。医者がとめるのもきかず、気に入らぬマッサージ師をそれまでに四人ばかり片輪にしていた。
 こうなってくると本人にはもはや純文学作家になる道しか残されていない。それまで彼の趣味はスカイダイビングであったのだ。「家に入れてやらない」といったようなことを言われ、寂しいだろうなあと思っていたのだが、約百二十枚の傑作ポルノを書き、だが完成に近づくにつれ、モノの虚しさを悟る。そして何通りもの自分の未来が見えてきて、包丁を振りかざしてボーイを追いまわすのだ。おれはそうならないように、いいことばを思いつかぬまま、今は泥棒をして暮らしている。テレビもなければラジオもない。時間が極めてゆっくりと流れた。そんなことをして毎夜のように遊んでいるうち、書かずにいられないのが作家の業というものだ。また幻覚や妄想があれば、捨ててしまうには惜しいので、A誌に送った。うけているらしい。その小説は時評で褒められたりもし、そうであればあるほど、おれはうんざりした。
 書類と本でいっぱいの1DKのわが家には、鍋の中に冷えた味噌汁が残っている。トロの色は紫になって、旨そうだった。ましてイタリア料理や韓国料理の大蒜の匂いなど、外国からどう思われるか。魂の抜け殻にしか見えないのではあるまいか。おれは机の上に飛び乗った。だが何も言えず……。

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