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緩和ケアで行こう

へなちょこ緩和ケアナース?!のネガティブ傾向な日記です。

うるさい!

2007-12-28 15:52:27 | 患者さん
 
 いつも怒られっぱなしの患者さんがいます。
 河合さん、82歳、腎臓がんの患者さんです。脳梗塞の既往があります。

 この河合さん、「おかげんはいかがですか?」と声をかけても「うるさい!」、「体を横に向けますね」と声をかけても「あっち行け!」と怒ってばかりです。
 看護師には本音で接しても、医師には「いい顔」をする患者さんって結構いらっしゃるものなのですが、担当医が声をかけても「何をゆうとんや!」とぷいっ!とソッポを向いてしまいます。
 河合さんは入院してからまだ1ヶ月も経たないのですが、担当医を含め、スタッフはどうしてあんなにいつも怒っているのかな?と頭を抱えました。

 そこで、ご家族にお話を伺いましたところ、怒りやすくなったのは数ヶ月前からだ、とのことでした。脳梗塞を発症したのは数年前で、以前の脳梗塞の発症が直接的な原因ではないことは明らかでした。それまでは温厚な方だったそうです。

 スタッフは、ベッドで過ごすばかりではメリハリのない生活になってしまうと考え、お茶会やイベントがあれば河合さんをお連れするようにしています。
 先日のクリスマス会にも参加していただきました。
 クリスマス会が盛り上がる中、河合さんの近くにいたスタッフは、「もし、怒られたらどうしよう…。」とハラハラしていたのですが。
 河合さんは無表情のまま、車椅子で過ごされていました。スタッフ一同、ほっとしました。
 そして、クリスマス会が終わり、お部屋にお連れして、車椅子からベッドに移乗していただこうと「ベッドに移りますよ~~」と声をかけながら、私が屈んで河合さんの靴を取った途端。

 「何するんや!」

 …と、蹴りが入りました。
 
 「およよ~~~~~!」(私の衝撃)

 クリスマス会のときは、あんなに普通(無表情だったけどさぁ)だったのに…。クリスマス会、お気に召さなかった????
 そばにいた助手さんも目がテンでした。

 河合さんが怒りやすくなっているのは、体に何らかの変化が起こったからなのでしょう。けれど、大勢の人の中で過ごされている時には、ごく普通に過ごされているようにも見えました。きっと、そのあたりは社会性やら体裁というものは河合さんにちゃんと存在しているのだろう…と思いました。外面がいいのも普通の人間性!!

 初めてお会いした時、河合さんが「あっちいけ!」といいながら手が飛んできた時にはびっくりしました。今は、怒っている河合さんそのものを河合さんだと受け止めるようにしてます。
 がお~~~!っと怒られても、これが今の河合さんの普通の受け答えなんだと思うと、怒られないと拍子抜けしちゃったりもします。

 ところで。精神科のスペシャリストの先生なら、どんな風にアセスメントしてくださるのかしら?
 

個展へ

2007-11-27 17:46:09 | 患者さん
 
 増山さん(仮称)が当緩和ケア病棟に入院して、3ヶ月が経とうとしております。
 先日、増山さんの娘さんの個展に行ってまいりました。

 増山さんのお部屋に、あるポストカードが貼ってあったのをみかけたのがきっかけでした。
 娘さんは、大学院で写真を専門にしていらっしゃるので、修了のために個展を開くとのことでした。

 写真好きのポンとしましては、「ぜーーーったい、見に行きたい!」という気持ちに駆られました。

 友人のお部屋をポラロイドカメラで撮った写真には、部屋の住人のコメントが書いてありました。
 雑誌などに出てきそうな、とてもきれいなお部屋、というよりは、生活感の溢れる、日常がそのまま残っているようなお部屋が写真に写っていました。
 
 増山さんのご主人さんは、「あんなくだらん写真!」と話しておられましたが、私にはとても刺激的でした。
 すごく素敵なシーンを選ばなくても、被写体が日常の中で、すぐそばで溢れているんだと思えただけで、とてもわくわくしました
 あーーー、あたしって、やっぱり写真が好きだわ、とあらためて感じました。

 できれば、ご家族は増山さんとともに見に行きたかったに違いありません。娘さんもそれを望んでいたに違いありません。
 意識状態が悪化して、呼びかけても返事のない増山さんに、「娘さんの個展を見に行ってきましたよ~~。」とちゃんと報告しておきました

生きがいは食べること

2007-11-22 19:56:28 | 患者さん

 人にとって、「食べる」ということにはどんな意味があるのでしょう。
 飽食の時代とあって、人間が生きることに欠かせない営みと感じる人は少なくなっているかもしれません。けれど、再び、食べることの大切さが見直されており、体にとっていいものを選びたい、そう思っている人も多いことと思います。
 けれど、食べることの意味合いに大きく占めているのは「楽しみ」や「生きがい」といったものではないでしょうか。

 井口さん(仮称)は77歳の女性です。
 井口さんはまさに、食べることは生きがいだーという意味を教えてくれました。

 井口さんは、がんによって肝臓の機能が低下してしまっていました。普通、肝臓の機能が低下してくると、食欲がなくなってくる方が多いのですが、井口さんには全く当てはまりません。井口さんの食欲は、オリンピックに出場することができるマラソン選手の持久力並みに素晴らしいのです。

 あまりに素晴らしい食欲がゆえ、体重もあ!っちゅう間に増えてしまって、膝に負担がかかり痛みがでてきているので、われわれスタッフは、考えました。
 がんの終末期に日常生活動作ができなくなるのは、著しく生活の質を低下させます。現に、井口さんは自分の体重を自分の足で支えることができず、ベッドからトイレに降りるのがやっとでした。さらに、膝の痛みが動くこと自体を億劫にさせ、動かなくなることで足の筋力が低下し、悪循環に陥っていました。

 スタッフで話し合い、井口さんに間食の制限をすることにしました。しかし、間食を制限したストレスで、さらに食べる量が増えてしまいました。
 
 またまた、スタッフで悩みました。そこで、よーく井口さんのお話に耳を傾けてみましたところ、「私は、少々足が動かなくなっても、思いっきり食べる方がいい!!それで死んでもいい!」と話されました。
 スタッフで、井口さんの病状も加味しまして、「食べ続けるのも井口さんの生き方だ!」と決心しまして、井口さんの間食の制限をするのをやめ、好きなものを好きなだけ食べていいよ、とお伝えすることにしました。

 それまでも、それ以降も井口さんは食べ続けました。特に、夜間にベッドに横たわったまま間食をするので、看護師がラウンドの際に部屋に行くと、枕元がとろろ昆布や都昆布まみれになっていることがしばしば。ある日は梅干の種を気道に詰まらせて、胃カメラで取り除くといったエピソードまでありました。

 もう、ここまでくると、これは食べることは井口さんの生きがいなんだ、と誰もが認め、それを支えてあげようと思わざるを得ません。

 井口さんの肝臓は、がんの進行によって、どんどん悪化しました。意識も朦朧とすることが頻繁になりました。それでも、井口さんは言います。
 「鮎寿司が食べたい…。」

 好きなものを口にした井口さんはさらにいいます。
 「あー、幸せ。」
 その顔は万遍の笑みをみせてくれます。

 ベッドで過ごす時間が多くなり、健康な時のように生きがいとして、あれをしたい、これをしたいと思っても、思うように実現できなくなるのががんの終末期です。
 井口さんのように、普段の営みに生きがいを見出せるのはとてもラッキーなことかもしれません。けれど、それならば、とことんその生きがいを支える姿勢で患者さんを見守ることは看護師の役割です。

 大食いのポンとしましては、将来の自分を見ているような気もしております。
 ははは。