「あと、3日、待ってほしい…、いててほしい…。」
一般病棟でお手伝いをさせてもらっていた、藪下さん(仮称)の病状はどんどん進行して、うとうとする時間がとても長くなっていました。「しんどい、しんどい・・・」、そういい続けていた時間から幾分、解放されるようにはなってきたものの、あと、何日生きていてもらえるのだろう、そんな時期になっていました。
奥さんに病状をお伝えするとともに、いろいろとお話をしました。
「あと、3日したら、誕生日なんやけど…。いててくれたらええけど、私はあかんかもと思います。もう、覚悟できてます…。」という奥さん。
私はそれを聞きつつも、「私はいててもらいたいから、お祈りするわ…。」とお伝えして…。
その日の日勤の夜、早速、病棟にあった色紙でバースデーカードを描きました。
バースデーカードを作ったのは、誕生日にいててもらいたい…、そんな願いを込めて。21時に仕上がったカードをもって、一般病棟に駆け上がっていって、スタッフにメッセージを書いてほしいとお願いしました。
その翌日。
藪下さんは旅立ちました。
なんだか一回りくらい小さく見える奥さん。
号泣する娘さん。
ありがとう…と涙を流しながらお礼をいっているお孫さん。
みんなに囲まれて、藪下さんは逝きました。
看取りにはなんとか私は間に合ったものの、お見送りの時には、どうにもこうにも業務が忙しくて、立ち会うことができませんでした。
しかも、バースデーカードも渡せてないまま…。
短い間だったのですが、藪下さん自身の生き方に、ご家族も、私たちも支えられていたような気がしています。
ちゃんとお礼も言いたかったし、お祝いもしたかったし・・・、なので、悔やまれました。
「間に合わんかってん。カードも渡せんかったし、見送りにも間に合わんし…。」
そう緩和ケア医に呟いていたところ…。
「そりゃー、そこまで心を込めてカードを作ったんやったら、どうにか届けんとー。」と言ってもらい…。
バースデーカードを、誕生日である今日、燃やして思いを届けることにしました。
さてはて。
日が落ちて、真っ暗になった時間帯に、バケツに水を汲んで、周りに木がなくて、燃やしても安全な場所に行こうと準備してましたが…。
ひとりで火を扱っていたら、怪しまれると思って、緩和ケアのせんせに一緒にいってもらいたいとお願いしました。
けれど、男女の二人で火を扱っていても怪しいぞなーとのことで、その場に残っていた緩和ケア病棟のスタッフがついてきてくれることになりました。
緩和ケアのせんせも、スタッフも、藪下さんとは面識がないのですが、快く付き添ってくれたこと、とっても嬉しかった…。
3人で、寒さに震えながら安全な場所(駐車場でした…)に歩いていき、バースデーカードを祈りと感謝を込めて、燃やしました。
寒さの中、炎のそばにいると、足元がとても暖かかったのが印象的でした。
事を終えて、帰ろうとしたところ、遠くから副院長が駐車場に向かっきてました。
「おつかれさまー。」と声をかけてくれたのですが、面子を見た副院長は、
「なにかの、儀式ですか?」
といい…。
3人とも、「いえいえ」なんていいつつ、「緩和ケアのスタッフは怪しい」と思われたのではあるまいか…、と苦笑いしてました。
「実際には、儀式やってんけどなー。」と、ぼそっと呟きつつ…。
さっさと退散、退散。
こんな笑い話も藪下さんとの思い出に加わり…。
今は、お手伝いをさせていただいた藪下さんへの感謝の気持ちでいっぱいです。