緩和ケアで行こう

へなちょこ緩和ケアナース?!のネガティブ傾向な日記です。

行こうよ(1)

2009-03-29 18:49:55 | 患者さん

 池畑さん(仮称)の体調は、このところ、日増しに悪化していました。ご本人だけでなく、それは、私たちから見ても、明らかでした。

 池畑さんは、ご自分の病気について、すべて知っておられます。とても病気が厳しい状況にあっても、前向きです。本当に頭が下がるくらい。
 
 「できることがやりたいこと」

 そう、おっしゃる池畑さんは、これまでに、ご自分の体調が許す限り、「やりたいこと」をこなしてこられた方です。
 「できることがやりたいこと」という池畑さんの思いには、「やれることはやり遂げたい」、という思いがあるのだと、日々のかかわりの中で感じられます。


 その池畑さんは、ある週末の同窓会に出席したいとご希望されました。
 出席するためにできることはさせていただくのが常である私たちは、そこに異論を唱えることはまったくなかったのですが、問題は、池畑さんの体調でした。

 予定の同窓会の数日前、池畑さんは、もう、トイレにいける状態ではありませんでした。体を動かすと痛みがでて、痛み止めを使う、といった状況で、明らかに病気が進行していると思われました。

 同窓会の数日前、私は池畑さんの部屋に行き、問いかけました。

 「今度の、同窓会、どう?」


 病気によって体力が急激に落ちてきたということは、私たちよりも誰よりも、池畑さんが一番、わかっていることです。
 池畑さんはいいました。

 「この同窓会は、私のために開いてくれているようなもの。この前の外出だって、必死だった。それで、家族も、私がよくないということはわかってもらえたはず。ここで、諦めてしまうと、私、これからすべてのことを諦めないといけないと思う。がくっときてしまうと思う…。」

 涙を流される池畑さん。

 私は、思いました。池畑さんは、命がけだと。

 私は、そこで、すぐに言ってしまいました。
 「私、一緒に、行こか?」

 私は、池畑さんの同窓会の日はお休みだったのですが。私が一緒に行くことで少しでも安心してもらえるなら…。
 もう、行くしかないでしょ。
 そう、思いました。

 池畑さんは、
 「いいのー?本当に?ポンさんが来てくれるなら、100人力~~。」
 (ほんまかいな)
 
 そうおっしゃってくださいました。
 涙のお顔がちょっぴり晴れた瞬間でした。


 私は、とにかく、池畑さんが当日に、同窓会に向かえない状況であっても、向かえる状況であっても、病院に向かうと決めました。

 
 入院している患者さん全員のご希望を、こうやって、看護師が自分の時間を削ってかなえなければならないの?
 そんな疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。池畑さんだけ、看護師が同伴するなんて、不公平だ、と。
 
 そうですね。
 不公平です。
 すべての患者さんのご希望を、勤務時間外まで、スタッフが同伴して叶えることは不可能です。でも。
 じゃ、不可能です、無理です、のままでいるのか。

 私の考えは、妥当かどうかはわかりません。不適切かもしれません。
 しかし、不公平だの云々といっている間に、患者さんの病気や体調はどんどん変化します。
 だから、できる範囲で、できそうなことをやる、それが私の考え方です。
 
 池畑さんの同窓会に同伴すると決めたのは、21時近くのことでした。私は、すぐさま、担当医と病棟のボスである師長さんにも連絡しました。
 
 師長さんは、「あとのフォローはするから」と快く、私の決断を受け入れてくれました。

 
 池畑さん、行こうね。同窓会に、行こう。
 一緒に行くからね。
 現地にたどり着けなくても、チャレンジすることに意義があるというなら、そのチャレンジをお手伝いさせてください。

 こう、自分の気持ちが固まりました。
 

「できそうな気がする」

2009-03-22 13:36:33 | 

 今、コーチングを受けています。

 今のポジションで仕事をしていく上で、とても行き詰っていました。私、本当にスペシャリストとして活動していていいのかしら。本当は、向かないんじゃないかな?
 スペシャリストって、スタッフよりも「卓越」してないといけないわけで…。
 私にはそんな「卓越」したものなんか、ない、ない、ない、ない…。

 実はバーンアウトしたこともありますし、びぇーーーびぇーーーーっと泣き明かした時もあります。

 
 コーチングは、私の背水の陣です。
 
 まず、ふたつの選択肢を準備しました。
 選択肢は至ってシンプル。今のポジションで仕事をすることを「続ける」「辞める」。このふたつ。
 どちらかを選択すると何が問題で、その選択を自分がどう思うのか、とにかくブレインストーミングで書き出していきました。
 
 そして、至った結果が、とりあえず、続けながら、今後のことを考えよう。辞めるという選択もあり、あり、あり、として…。

 コーチングは、菅原裕子氏によると、「ある人間が最大限の成績をあげるために、その人の潜在能力を解放すること」というものです。
 その人がもともと持っている能力を引き出して結果を作り出していくというものです。

 私は、もともと考え方が固くて、ネガティブです(ああ、こうやって自分のことを書くだけで凹みそうやー)。

 よく、教授からも言われてました。
 「あなたーーー、考え方が固いのよーーー。」
 

 
 コーチは、とにかく、私に「やれる」「こうなればいいと思うことを思い続けよう」というメッセージをくれます。
 小さなことから行動を起こして、成果をあげ、課題をみつける。そして次に繋げる。今、それを繰り返しています。

 以前とは自分の気持ちの持ち方も変わってきたので、毎日が楽になってきました。

 コーチングを受けていてつくづく思うのは、
 「何とかなるさ」
 「きっと、できるって」
 という気持ちを持つことがとても大切だということ。
 この気持ちを持っていると、目の前の現象が以前とは違って見えてくるものなんだな…、と実感しています。
 「できそうな気がする」という気持ちをコーチングで養っています。
 
 こう思えるまでに、前向きになりたいと思って、いろいろな本も読んだし、いろいろな人と話もしたし…。まー、時間がかかった、かかった。

 まだ、今の状態はよちよち歩きの感がありますが、もう少し、がんばってみようと思います。
 

 

リンパマッサージ

2009-03-13 22:59:02 | 患者さん

 最近、毎日、日勤が終了した後の時間、そうですなー、20~21時くらいの間にある患者さんの部屋に毎日訪問しています。

 本田さん(仮称)、女性。
 本田さんの足はリンパ浮腫でパンパンになっています。

 リンパマッサージは、普通のマッサージとは方法が違っているために、肩こりの方へのマッサージのように「ぎゅっ!ぎゅっ!」と揉むことはできません。
 最近は、お金を払ってマッサージを受けたことがある人も多く、リンパマッサージを受けてもらうと、「なに?これ?」と、リンパマッサージに物足りなさを感じる方がいらっしゃいます。
 
 本田さんは、結構、マッサージ経験が豊富な方。旅行先でもラグジュアリーなマッサージを受けたことがあると聞いていたので、
 リンパマッサージを受けてもらう当初は、「リンパマッサージにがっかりしてもらうこと」(あまりにもマッサージの際の手の圧が軽いので)から始めました。
 
 本田さん、最初にリンパマッサージをさせていただいたときは、

 「え~~~~~!」

 っと、その物足りなさに驚いていました。


 月日は流れ、本田さんの体調は、ディープインパクトを受けては安定し…、という状況です。
 マッサージを継続してきたことと、本田さんの足の状態によるのですが、
 本田さんは、徐々にリンパマッサージに「快」を感じてくださっています。

 

 リンパマッサージを行う時間帯は別にいつでもいいのですが、リンパマッサージが気持ちいいと感じていただけるのであれば、夜の方がいい。夜に眠りやすいから。
 本田さんの病状を考えると、リンパ浮腫を増強させない!という実際的な目標を持つよりも、体調が許す限り、「快」を感じることができる状況を優先させる方がいい、そう思います。

 自分の仕事が定時に終わることなど100%なくて、仕事が終わった後に行くほうが、自分にもゆとりができて、心の余裕を持ってマッサージさせていただける…。

 そうは思いつつ、毎日、遅くの時間まで残ってマッサージをやるのも、「しんどいぞー。」と思うこともしばしば。

 
 でも、どうして毎日、続けられるのか。

 それは、マッサージの時間に本田さんとの会話の時間が、とても貴重だから。

 マッサージ中に得た情報が治療の内容を変えることもしばしばなのです。


 私は、マッサージをさせていただく患者さんに冗談で、こう言います。

 「任せといてください。なんたって、私は100人の患者さんにマッサージをしたことがありますから。あ、あくまで、延べ人数ですけど。」

 くすっと笑う患者さん…。



 今夜も、本田さんのマッサージをリンパマッサージを行いました。
 今日も、お話しながら、けらけら~~っと笑いつつ、うとうとと眠っていただきつつ。

 
 ああ。リンパマッサージが、うちのスタッフにもできたらいいな。
 素地は十分できあがっているのだけど。
 まだ、自発的に「やってみよう!」というスタッフはいなくて(残念)。
 
 でも。

 私しかリンパマッサージができないから、自分が患者さんのもとにいって、マッサージをしながら、お話を伺うことはできるからいいかー。
 でもなー、私が休日だと、誰もリンパマッサージをすることができないんだよな。

 スタッフがリンパマッサージに取り組める機会を作らないと。
 リンパマッサージに対する思いは深く。



 本田さんのリンパマッサージを行いながら、本田さんの病状や今後の治療方針だけでなく、ケアの提供の仕方まで考えています。

 リンパマッサージのために、毎日、毎日、帰宅時間が遅くなるのは、体がしんどい。

 でも、本田さんとのリンパマッサージをやっている最中のやりとりは、かけがえのないもの。少しでも「気持ちいい~」と感じることによって、自然な眠りを持っていただきたい。
 
 
 何より、本田さんの体に触れさせていただけるということに感謝しています。
 そして、本田さんの体に「触れている」時間に、いろんな話を伺えることも、感謝しています。


 神さまに感謝しているのではありません。


 本田さんに感謝しています。

 

 マッサージの機会を持たせていただいていること自体に感謝しています。