緩和ケアで行こう

へなちょこ緩和ケアナース?!のネガティブ傾向な日記です。

行こうよ(4)

2009-04-26 19:51:23 | 患者さん

 介護タクシーに乗り込み、しばらくは、みんな少し、気持ちが高揚しているようでした。
 
 池畑さんは、
 「こうやって、歩けなくなっても、外出できるって、素敵。本当に、ありがたいわー。一昔前は、こんなことできなかったしね。」と、おっしゃってました。
 同窓会に行くことを試みる。
 これだけでも、その時の池畑さんの体調を考えると、チャレンジでした。チャレンジが成功したことを感謝していらっしゃるようにも思えました。
 
 何より、気分が高揚していたのは、池畑さんのご主人さん。
 ご主人さんは、仕事が朝に終わってから病院に駆けつけたというのに、運転手さんとご機嫌さんでお話をしまくってました。

 池畑さんは、「ちっとも寝ーへんなー。」と、にやっと笑いつつ、顔をしかめてました。
 ご主人さんにとっても、チャレンジが成功したことが嬉しかったに違いありません。


 そして、私は、というと。
 同窓会に行くことを試みる、ということだけで終わらせたくないという気持ちが一層強くなっていました。
 「何とか、会場にたどり着いてみせるわよ…
 そう思っていたので、往きの車中では、なるべく池畑さんが余計なエネルギーを使わないように、(私も気持ちはうきうきだったもので)あまり話しすぎないように気をつけることにしました。

 そして、会場に着く15分前。
 少しでも会場で楽に過ごしていただくために、モルヒネのレスキュードーズを使いました。
 池畑さんの痛みや吐き気は増強することなく、会場にたどり着くことができました。

 会場では、池畑さんの同級生3人がエントランスで待ってくださっていました。
 
 「よっしゃーっ!来たでーーーっ。」
 と思っていたのは、私だけではないと思います。

 実は、私は前日に、会場付近を通りがかりました。
 で。うちの主任さんとおでかけしていたので、主任さんとともに、会場であるホテルのエントランスやエレベーターの場所、段差、通路などの広さなどを下見しておいたんです。
 
 おかげさんで、おろおろすることなく、会場である日本料理のお店にたどり着くことができました。
 同級生のみなさんも、ナイスなアシストをしてくださり、トラブルは全くありませんでした。

 んん~~、完璧

行こうよ(3)

2009-04-10 19:35:41 | 患者さん

 ザリ子ちゃんのお話を挟みまして、池畑さん(仮称)の同窓会に同伴したお話に戻ります。


 池畑さんが同窓会に向けて病棟を出発する予定時間は10時。9時過ぎに病棟に着いた私は、池畑さんの今朝の様子を確認しました。
 スタッフから、「今、お化粧してるところよー。」と聞いてほっとしました。
 
 よし、いける…!と。

 池畑さんの体力はこのところ、急速に低下していました。
 最後まで、おトイレは自分で行きたいとのご希望があって、トイレに工夫をしたり、トイレに行くためにトイレ以外の動作に必要なエネルギーを節約してもらったりしてました。
 しかし、次第にトイレに歩けなくなり、ベッドの上で排泄を行っていたのですが、それもとても体に負担になるくらい、しんどくなってきてました。

 スタッフから聞いたことのもうひとつは、
 「バルン(=おしっこを出すために尿道に入れる管のこと)を入れてね。池畑さんもそれでいいって言ってくれて。そのおかげで、昨夜はとってもよく眠れたって。バルンを入れてよかったっていってたよ。」

 
 バルンを入れることを受け入れるということは、自分が「動けない」ということに直面せざるを得ないわけで、とてもつらいことだと思います。
 けれど、池畑さんは、動けなくなったことを受け入れ、「同窓会に行く」という目的のために体力を温存することを選ばれました。
 正直、池畑さんはすごいな…と思いました。

 池畑さんは、前日まで、ご主人さんと同窓会に着て行く衣装やらかばんやらを選ばれてました。この日のために準備した物。身につけること自体が気分を晴れやかにするものだと思います。

 が。
 着替えをするために体を横に向けたりする体力すらなくなってきている池畑さんは、ここでも体力温存を選ばれました。
 上半身にカットソーを纏い、首にスカーフを巻いて…。
 「後は、もう、パジャマでいいわ。」と。
 確かに、毛布をかぶれば下半身はわからないことです…。
 

 そして、リクライニング付きの車椅子に移乗し、介護タクシーに乗り込み、同窓会の会場に向けて、病院を出発しました。
 
 

 私は、出発までに自分が付いていくなら、ありったけのものを準備しました。大きな紙袋に3つ分ほどになりました。
 
 ・・・・・・帰りはきっと疲れてしまうだろうから、ちょっとうとうとしながら帰ってくるのもいいかも… ・・・・・・

 アタPのアンプルも準備物品のなかに追加しました。

 
 早朝の空とはまた違った青空のもと、介護タクシーは走り出しました。
 
 とにかく、チャレンジしたいという池畑さんの思いは叶いました。
 車の中で私は池畑さんに言いました。
  
 「ここまで、来たねー。」

 池畑さんも穏やかに、
 
 「来たねー。」

 と話されました。

 
 チャレンジできたことがまず、成功っ!今使っているお薬や紙袋に入れてあるお薬を調整して、車の中で足の位置なんかを調整して…。
 絶対会場まで行きますとも!と自分の心に呟きながら、池畑さんご夫妻とともに会場に向かいました。
 

ザリ子ちゃん

2009-04-05 11:22:05 | 緩和ケア病棟

 わが緩和ケア病棟では、ザリガニを飼っています。

 昨年の11月ごろ。ある患者さんの子どもさんが、当院のお庭にある小川で、ザリガニを捕まえてきたのでした。その患者さんの奥さんであるおかあちゃんは、家でそのザリガニを飼うことを猛反対いたしまして、当緩和ケア病棟が世話をすることになったのでした。

 残念ながら、その患者さんはお亡くなりになったのですが、お子ちゃまたちがまた、病棟にザリガニちゃんを見に来れるように…、という思いもこめて、飼うことにしたのであります。

 うちのクラークさん曰く、そのザリガニちゃんはメスだそうで(へ~~~~、どうやって見分けんの?)。
 私は、ザリ子ちゃんと呼んでます(呼んでいるのは私だけー)。

 そのザリ子ちゃん、もう春が来たということで、近くの川に、もともとの活動拠点?に戻してあげようという話が持ち上がりました。

 
 このザリ子ちゃんのいる水槽は、以前、「ゾメタ」(こてこての医療者がつけました!ちゅう、名前っ!)という名前の出目金が住んでいたのですが、ゾメタちゃんが死んでしまってから、水槽は緩和ケア病棟のカウンターから撤去されておりました。
 ザリ子ちゃんのおかげで、またカウンターには水槽が復活。
 
 このザリ子ちゃん、ゾメタちゃんのように、かなり、病棟のスタッフの人気者です。
 ゾメタちゃんが調子悪くなった時には、ICUと称したバケツを作って、手厚い看病をしてましたからー。水槽を突っつくと、ひょこっとこっちを振り向いてくれたような気がして…。気のせいかもしれない(そうに間違いない)けど、愛着があったんですね。

 ザリ子ちゃんも然り。

 ザリ子ちゃんをこよなく可愛がっているのは師長さん。そして、溺愛+過保護をきわめているのは、ドクター。
 ザリ子ちゃんのために、ザリガニ用のえさを買ってきて。ここまでは普通。
 ザリ子ちゃん用の小屋?なるお皿のような陶器、食いちぎられるたびに、新しい藻を購入、そして、えさをなるべくザリ子ちゃんのいる付近に落とせるようにストローを小細工?。

 一日1回は、この御二方、必ず水槽を眺め、ザリ子ちゃんに癒されている人々です。眺めなれることにはなかなか馴れることのないザリ子ちゃん…。

 
 ドクターによると、ザリ子ちゃんは師長さんを仲間だと思っているそうです。
 
 ちなみに。
 ドクターによると。

 ザリ子ちゃんは、私のことを「食われてしまう」と警戒しているのだそうです。

 
 んな、あほな。
 

 ザリガニって食べれるとか言い出したのはドクターの方やし。
 ザリ子ちゃんが大きくなって、美味しそうなえびらしくなってきたな、と思うのくらい、普通の?ことやないの。
 

 
 そして、ザリ子ちゃんのお別れ計画が立てられました。ドクターは、近くに川の安全?そうなところを見つけてきて、ここに放してやろうと考えておりました。


 この計画に「待った!」をかけたのは師長さん。

 ザリ子ちゃんにとても癒されているので、ザリ子ちゃんと別れるのはさみしい…、と。
 
 …そこまで、ザリ子ちゃんを愛しておったのか…。
 ほーーー。


 そこで、ドクターが考えた案は、今の「初代」ザリ子ちゃんは川に放してやって、2代目ザリ子?ちゃんを春になったら飼おう、というものでした。
 「空騒ぎのメンバーみたいに、2代目を連れてくる」案に師長さんも納得。


 最近、大きくなってめっきり小屋にこもりきりのザリ子ちゃん。

 以前は、水槽を脱走したこともありました。

 夜勤のスタッフが真っ暗な廊下でのそのそ動く「物体」を発見し、「ぞぞぞわーーー」っと物の怪???を感じていたところ。
 よく見ると、ザリ子ちゃんだったのです。
 ザリ子ちゃんの腹は、埃まみれになっていたんだとか。

 憎めないやつ…。
 廊下のお掃除、ご苦労さん。


 まだ、2代目ザリ子?ちゃんをいつ迎えるかは未定ですが、決まればまたお伝えしますね。
 
 …どうでもええことかな…。

 

 

行こうよ(2)

2009-04-01 21:00:38 | 患者さん

 池畑さん(仮称)の同窓会の当日がやってきました。
 前日の夜に、病棟に連絡して体調を確認したところ、池畑さんは、リクライニングの車椅子なら、同窓会に参加できる状態でした。

 当日の朝、夜間に緊急の連絡がなかったので、昨晩と同じ状態なのだろうな、と私は推察しました。

 池畑さんが出発する時間は10時。

 その前に、私がやっておきたいことがありました。

 それは、ある、街の郊外にあるお寺にお参りすること。

 
 そのお寺は、池畑さんが私に教えてくれたお寺です。

 「あそこのお寺の地蔵さんは、地元でも絶対、ご利益ある、なんかあるっていわれてるの。私も何度かお参りに行ってね。やっぱり、効くわ。ポンさんにこそっと教えてあげるわ。ああ。また、話しちゃった~~。」

 という感じで、池畑さんは、私に『秘密の』お寺のお地蔵さんの存在を教えてくださったのでした。
 私は、「願い事が叶いそうな」物事にはとても興味がある人なんですねー。
 そのお寺の存在を聞いたときには、思いました。
 「いい人とめぐり会えますようにーってお願いしようかな?」なんて。

 池畑さんが何度か行ったことのあるお寺です。
 池畑さんの思いを知っているお地蔵さんがいるお寺です。

 出発当日の朝は、私が、池畑さんの代わりにお地蔵さんにお願いをしに行こう、そう思いました。
 早起きが苦手なポンでありますが。


 当日の朝は、晴れ。しかし、気温は道路わきの温度計によると5℃。久々にバイクを飛ばして、自宅からはちょいと離れたところにあるそのお寺に向かいました。気温5℃となると、バイクで走るにはまだ肌寒くて、バイクに乗ってきたことを後悔しそうな気温でした。

 無事にお寺に到着。

 お地蔵さんにもお会いできました。


 お地蔵さんに話しかけました。


 私、神頼みは「他力本願」だからって嫌うことは全くありません。「他力」の「他」は、仏教でいうと「阿弥陀さん」の「陀」なので、全くをもってすべてを他人に預けるということではないということを聞いたことがあります。
 それにしても、私は神社仏閣では、「○○したい」という風に願望をお伝えすることはありません。むしろ、決意表明(=~します、~したいと思っていますって感じで)をして、最後に見守っていてください、とお伝えします。
 今回も然り、で、

 「池畑さんと同窓会に行きます。池畑さんが行きたいというなら、行きます。池畑さんがいけないというのなら、それはそれで受け止めます。どうか、見守っていてください。」

 そう、例の?お地蔵さんにお伝えして、お寺を後にしました。

 病棟に、バイクで向かうまでの間、私は朝ごはんを食べていたのに、またお腹が空いて、パン屋さんによりました。
 ちょっと、気持ちがリラックスしている証拠だったのだと思います。


 そして、私は、何があっても、池畑さんの今日の行動を支えよう!
 そんな気持ちをさらに固めて、病棟に向かいました。

 万年睡眠不足による眠気に襲われつつ…。
 朝の時点では、池畑さんとともに、同窓会にいけるような気がしていました。