仕事帰りに、伊達さんが、店に寄った。
「お久しぶりね」冬子さんが、声を掛ける。
ドア横のハンガーに、オレンジ色のコートを掛けながら、お久しぶりですと、伊達さんが、応えた。
カウンターに腰を下ろした伊達さんに、マスターが、「年度末で、忙しいんじゃないの?」と、話しかけた。
マスターの出してくれた水を一口飲んだ後に、「急に、転勤が決まったんです。」と、話し始めた。
冬子さんも、傍に寄って来て、「引っ越しなさるの?」と、尋ねた。
「引っ越しは、しないんですけど、勤務先が、遠くなっちゃって、大変なんです。」と、説明した。
前任者が、突然辞めてしまって、急に、伊達さんに、辞令が、降りたそうだ。
今の図書館には、10年近く勤めていたので、移動があっても、おかしくはなにのだけどと、言いながら、疲れた表情を浮かべた。
冬子さんが、伊達さんの背中をさすりながら、「それは、大変ね。」と、優しく慰めた。
マスターが、ミルクたっぷりの甘ーいココアを、そっと置いた。