突然の訃報  131

2022-02-08 07:00:37 | 小説

「マスター、悪いね、塩を撒いてくれないかね」

喪服姿の加藤のおじいちゃんが、入り口に立っている。

「どうなさったんですか?」

「星の母親が、突然なくなってね、婿と一緒にお別れしてきたところなんだよ。」

「星君は、一緒にいらっしゃらなかたんですか?」

加藤のおじいちゃんは、疲れたような足取りで、カウンターの高イスに腰かけた。

「誰に、似たのかね、あいつの頑固なところ・・・。」

マスターに勧められて、コーヒーを一口飲んだ後、深いため息をつく。

「私も、家族も、説得したんだが、自分の母親は、今の母(空の母)だけだって言ってね。

ついに、行かなかったんだよ・・・。」

「私に手紙をくれた時には、余命先刻されていたらしいんだ。」

「星君の気持ち、分からなくは、ないけど・・。」

肩を落とし、疲れのにじみ出た加藤のおじいちゃんを目の前にして、マスターは、なにも言えなくなった。

星の気持ちも、痛いほど分かる。

普段は、誰よりも思いやりがあって、大人の対応もできる彼が、頑なに母親との別れを拒んだ理由も・・。

暖房が、十分効いているはずなのに、この凍てつくような寒さは、何なのだろう?

 

 

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