goo blog サービス終了のお知らせ 

読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

篠田節子著「廃院のミカエル」

2012-02-07 | 篠田節子
異国の地ギリシア・アルバニア国境の小さな村を舞台にくり広げるホラーサスペンス。
商社現地社員の美貴は、ギリシャで口にしたクリーム状の蜂蜜にビジネスチャンスを見出し、通訳の綾子や偶然知り合った壁画修復士の吉園とともに産地の村を目指した。だが途中、廃院となった修道院に迷い込んでしまう。
そこにはかつて多く居た修道士たちは死に絶えたという。 独居室の壁に描かれた大天使ミカエルの絵。
無人のはずの聖堂に響く祈りの声等・・・・。
なんとか逃げだし街に戻った後も綾子の異様なふるまい、相次ぐ村人の死、積み重なる家畜の死骸など次々と奇妙な事件が起きる。この村に蔓延する死は、聖なる祈りを破って現れた悪魔の仕業なのか?かつて廃院に何が起こったのか?
ギリシャ正教的悪魔や天使や廃院修道院やイコンは、なじみのない日本人には解りにくいので怖さも余り感じなかった。
途中動物病理学者が出てくるあたりから結末も予想でき、いかにも自信ありげな無心論者の主人公の女美貴や
病的な綾子にも感情移入できず不完全燃焼気味の読後感でした。
「私には神も仏もない。だから悪魔もない。信仰にも道徳にも縁がない。ということは悪魔もとりつきようがないはず。」(P284)


2010年11月集英社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」

2011-09-27 | 篠田節子
高性能の猿型ロボットにつきまとわれる女性の恐怖とドタバタをコミカルに描いた表題作他3編収録。
駿河湾で揚がった巨大ウナギを食べた人間が食中毒にかかった。原因は、レアメタルのパラジウム。どういうわけか、ウナギの体内にパラジウムが残留していたのだ。非鉄金属を扱う会社の社員・斎原は、そのウナギが日本の資源確保の切り札になると確信し、パラジウムウナギの生息地を追って・・・太平洋の海底にレアアース。レアメタルが体内に濃縮されたウナギの目が不気味・・・『深海のEEL』。
マンションを建設しようとしたら人骨が大量に出てきて困った地主、そして蘇生した縄文時代の寄生虫が・・・、生肉による食中毒事件を思い出した・・・『豚と人骨』。
63年がかりでトンネルを掘削する男の悲喜・・・『エデン』。
最新の科学技術に著者の想像力が加味されて生み出された現在進行形ともいえるSF3編の短編集。科学技術発展の先に人類の幸福は可能?いや警鐘か?テンポよく進む展開にいろいろ考えさせられた。
私的には人生・幸福について考えさせられた「エデン」がよかった。
「故郷は家族だ。すなわち家族のいるところはどこでも故郷だ。」(P299)

2011年7月 文藝春秋刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「スターバト・マーテル」

2010-03-31 | 篠田節子
Stabat Mater、とは「悲しみの聖母」「聖母哀傷」と約され26歳で亡くなったナポリ派の天才ベルゴレージの死の間際に書き残した曲=作中で車の中で2人が聴くクラシックCDから。
乳癌を機に、生と死を見つめるようになった彩子。
乳癌と診断されながらも、除去手術で完治したように見えるなか、再発の陰に怯えて不安定な日々の彩子は夫から勧められた会員制プールに通い始める。
そこで声をかけられたのが、中学校時代の同級生・光洋だった。
早熟で独特の雰囲気を放っていた男との30年ぶりの思わぬ再会に彩子は、心の奥底にしまっていた、あの「過去」を思い出す。
さらに夫のなにげない言葉が、時を隔てた再会に微妙な色合いを与えて・・・。
40代になり子供のいない主婦の“静かな哀しみ”の心理を丁寧に描いた前半と違い後半は
匠の技術の海外流出や産業スパイがらみのミステリーサスペンスの様相で吹雪の逃避行の2人の成り行きに俄然面白さが増す。
表題作の他、マレーシアでのリゾートでの友人の結婚式での騒動をコミカルに描いた「エメラルド アイランド」を収録。
2010年2月 光文社刊


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著 「砂漠の船 」

2009-12-28 | 篠田節子
雑誌「小説推理」に「ノスタルジア」で連載改題
大沢幹郎、山洋運輸会社の多摩営業所の配送係、家族はデパートに勤める妻由美子と中学生の茜の三人でニュータウンの団地住い。
ニュータウン近くの公園でのホームレスの老人の凍死事件おき、娘が学校で警察から事情聴衆をうける・・・。
凍死事件の真相をミステリーに主人公に降りかかる問題、娘の問題、地域の問題、家族の幸福や夫婦の浮気。
女性の著者が男の夫の視点で物語が語られるが後半の結論は女の立場妻の視点で終わる不満が残るが、重いテーマの小説です。
企業のリストラや出向等の風潮の中で単身赴任を一種の「出稼ぎ」ととらえ『蒸発=急速な経済成長と切り捨てられた農村の貧しさ出稼ぎと言う就労形式が生み出した悲劇。』
とし、『家族の別居や共同体からの離雑が人々の心から安定と最低限の倫理麻痺も奪っていった。』
著者は、『長すぎる寿命と長すぎる結婚生活の中で人は様々に揺れ、流れていく家族も地域の人々もほんの小さなきっかけではばらばらになりまたどこかで合流する。
人生を自然や蒸発といった破滅的な形で終らせないために、そして流されていくのもいいのかもしれない。』
最終章で『守るべき世界などはじめからなかった。生身の人間が巡り合い守ってきた小さな場。ホログラムの幻の三次元映像のように実体のないものであった。
共に一定の期間を生き、分かれ再び巡り合う場だけだった。』と結論する。
2004年10月 双葉社刊 ¥1600
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「ブルー・ハネムーン」

2009-10-11 | 篠田節子
主人公は、29歳自称結婚詐欺師・姉小路久美子。
美貌とスタイルのよさを駆使して騙しの数々は、知的スリル満点。
南国サイパンを舞台に、福井の富豪美男子御曹司をターゲットに選んだが・・・
騙しあい騙しあいのスリリングでユーモラスでパワフルなサスペンスミステリー。
1997年 光文社文庫  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「薄 暮」

2009-09-04 | 篠田節子
新潟・長岡に合併された小さな町で、地元の人たちに愛されてその地方で一生を終えた、忘れられた天才画家・宮嶋哲朗。
「閉じられた“天才”画家」の画が没後、雑誌に掲載されたエッセーで紹介されたところから物語は始まる。
雪国に厳しい冬の訪れを告げる一瞬の美しい光をつかまえた絵画は画家を献身的に支えてきた才色兼備の妻との夫婦愛から生まれた。
そして、その夫婦を物心両面で援助し“わが町の文化”と誇りにしてきた町の有力者たちの存在。
しかし、画家の封印が解かれることによって、のどかな田園地帯を欲望と疑心がむしばみ始めます。そして露わになる意外な真実とは・・・。
献身的に画家を支えた妻が、宮嶋のある作品群をニセモノ「贋作」とかたくなに否定する理由は何かが謎として展開されます。
作品にひかれ、画集を制作することになった出版社の橘も絵を巡り蠢く人々の人間関係の渦に巻き込まれていく。
頒布会を組織して作品を購入した地元の人々や、あやしげな画商、画家が制作のために滞在した寺や、地方進出をねらう新興宗教、それぞれの思惑が複雑にからみあいリアル。
出版社、役所、宗教団体、美術商などの裏情報の話も面白い。
展開は行きつ戻りつイライラするように進まないが最終章で明らかになる真実は我慢して読み通したものだけが味わえる愛憎、欲深さ、業の深い人間ドラマは印象深い。
2009年7月 日本経済新聞社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「コンタクト・ゾーン」

2009-09-03 | 篠田節子
主人公はいやな性格をしている三人の女である。三人の女性たちに共通しているのは、30代半ばで未婚。
日々の生活に半ば嫌気を差しながらも、心の中にぽっかり空いた穴を、他の何かで埋めようと躍起になっている。
そんな彼女らの楽しみは年二回の海外旅行だったが今回はいつもと違った。
旅行先の東南アジアのビーチリゾートが、国の政変で過激な革命運動に巻き込まれてしまったのだ。
まばゆいラグーン、豊かな熱帯雨林に恵まれた島・バヤンにあるホテルが襲撃された。暗転の休日。
戦場と化した島に出口はない。漂流、無人島体験、ゲリラ組織との対決、村への潜伏といった、豪快でスリリングな冒険を繰り広げる。
その女たちが村の人々に感化されてどんどん変貌してゆく様が面白い。“生きろ。何があっても”。
異なる価値、異なる秩序がせめぎあう村で、その混乱と戦乱の場を彼女らがサバイバルしていく過程で、日本では見いだせなかったユートピアを見いだす展開がいい。
・・・自分が今まで行ったビーチリーゾートを思い出しながら自分も彼女達と一緒に行動しているようなスリリングな体験を味わえた冒険小説でした。
2003年4月毎日新聞社 刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「天窓のある家 」

2009-08-21 | 篠田節子
仕事と家庭に悩む女性を主人公にした短編集。
こんなはずではなかった。何故、こんなふうになってしまったのか。
気づかぬうちに日常に巣食う焦燥感、人生に疲れた女の心をかき乱す隣人。
幸せを願いながら、いつのまにか何を求めていたのかよく分からなくなってしまった。壊れてしまえばいい! 
闇に沈むガラス窓めがけて食べかけのケーキを投げつけたおさえきれない衝動がリアルに怖い表題作他8編。
仕事でも家庭でも頑張る女性がふと陥る都会生活に疲れて精神的に追い詰められた
女性達の叫びに果たして救いはあるのか・・・
心もからだも不安定な中年世代の欲望と葛藤をあぶりだす短編集。

2003年実業之日本社 刊
2006年新潮文庫
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「インコは戻ってきたか」

2009-08-14 | 篠田節子
ギリシャとトルコの紛争地帯の南北分断国家キプロスが舞台の冒険小説。
39歳女性誌の編集員の響子と偶然変更になり参加したフリーのカメラマン檜山正幸が飢えと殺戮には無縁ながらも、
息苦しく果てのない日常を背負った一対の男女が噛み合わなぬ会話を交わしながら他国の紛争に巻き込まれるという物語。
偶然が運命を変えた6日間の恋の物語。
題名のインコは作中に自由と希望のシンボルとしてキプロス島で出会った少年と共に描かれている。
2001年 集英社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「百年の恋」

2009-08-13 | 篠田節子
貧乏でオタクのフリーライターの男と、バリバリのキャリアウーマンのエリート銀行員の女との出会いと、電撃結婚。
この意外な組み合わせちっとも噛み合わない二人の結婚生活の珍妙さの可笑しさや、家族や周りの過剰な反応、等々がいきいきと語られていて、また、男と女の本音の結婚観が垣間見え面白く、かつ、大いに笑える。
妊娠誕生子供が生まれた後半は少子高齢化の日本社会での問題点を育児日記を挿入して提起笑えない現実にいささかペースが違ってくるが何とかしないと高齢化社会はもうすぐ側に来てると問題提起小説。
2000年 朝日新聞社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「秋の花火」

2009-08-10 | 篠田節子
1997年~03年までに「オール読物」等に発表された短編5編が収録されている。
楽団のセカンドバイオリン担当の主婦の目を通じて指揮者やメンバーとの交流を描く表題作の他に、
30過ぎの孤独な男女の出会いを描いた「観覧車」
演奏会直前のピアニストの心境を題材にした「ソリスト」
義母の介護に疲れた女の哀愁を描いた「灯油の尽きるとき」
在アフガニスタンにの日本女性とアフガニスタンに取材に訪れた男達の「戦争の鴨たち」。
女性の立場でそれぞれの女性心理を緻密な取材で描いた短編でそれぞれ面白い。
  2004年  文藝春秋 刊 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「静かな黄昏の国」

2009-08-08 | 篠田節子
短編集。表題の「静かな黄昏の国」は50~60年後の日本。経済大国を自認したかの国もは繁栄を謳歌するアジアの国々に囲まれ貿易赤字、財政赤字、膨大な数の老人、科学物質に汚染されて草木も生えなくなった老小国の未来小説。
「リトルマーメード」は熱帯魚ブームと美食ブームを皮肉った小説、96年二月「小説すばる」に発表された東野圭吾のプラスチックを食べる観賞魚「エンジェル」に似ている。
他に「陽炎」「エレジー」「刺」「子羊」「ホワイトクリスマス」「一番抵当権」の8編のホラー風アイロニーたっぷりの短編が・・・
別れた妻が復讐する「一番抵当権」が私的には怖かった。
2002 年 角川書店 刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子 著「第4の神話 」

2009-06-08 | 篠田節子
ゴーストライターの小山田万智子は、33歳で処女作を書き上げて
文壇デビュー後、数々のベストセラーを世に残し享年42歳で逝った女流作家「夏木柚香」の5回忌の特集記事の執筆を依頼された。
彼女の生前の関係者から取材を続けていくうちに今まで世間が抱いていた
彼女の神話の実態が次々に変って来ることに興味を覚え将来自分の名前で出版する為に独自の取材を敢行する。
華やかな姿ばかりが目に付く彼女だったが、その裏側には想像を絶する孤独があった・・・
第1の神話は評判通りの華麗で奔放な女性作家。
第2の神話はけなげに家族に愛をそそぐひとりの女性。それが真実のはずだった。
それで終わりのはずだった。しかし、第3、第4の神話は・・・
1998年 角川書店刊 角川文庫
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「仮想儀礼」上・下

2009-05-09 | 篠田節子
「The Seisen-kai Cace」
不倫が原因で会社を辞め、ホームレス同然になった矢口誠。
その矢口に乗せられ、作家になる夢を追い、家族と職を失った元都職員の桐生慧海こと鈴木正彦。落ちぶれたふたりは、9・11の自爆テロをきっかけに、金儲けのために始めたのがネット宗教の「聖泉真正会」。
「救い」を商品に金儲けのための新興宗教。しかし集まって来た信者の抱える心の闇は、ビジネスの範疇を超えていた。
家族から無視され続けた主婦、愛人としてホテルで飼われていた少女、
実の父と兄から性的虐待を受ける女性、いじめられている少年・・・居場所を失った彼らたちが集う教団は、次第に狂気に蝕まれて・・・。
日本には今『宗教法人登記185000件 教祖140万人 信者日本の人口の50倍 』(本文より)あるそうです。
この本を読んでオウム真理教やカルト教団、70年代の「千石イエス」を思い出してしまった。
教団内部から教団を見るインチキ教祖だが一番冷静で客観的な鈴木正彦の視点ので語られる。普通のバランス感覚の持ち主である彼は、あくまでビジネスとして新興宗教を始めたので自分たちの教えが偽物だと、一番よく知っている。
しかし、その教えにすがる人々の悩みは真剣であった、ビジネスとして始めた宗教が一時は経済界から受け入れられ大きくなったがやがて破綻し残った少数で再開し始めたが今度は信者からトラブルに巻き込まれ再び破滅への道に向かう。
人間の理性が無くなっていく様がリアルで怖い。トランス状態の神がかりはバリ島で見たファイヤーダンスを思い出した。
上下巻900ページを越える大作。
後半信者たちの暴走にブレーキが効かない状況、どう落とし前をつけるのか予測出来ないスリリングな展開に時間を忘れて一気に読みました。
2008年12月新潮社刊  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子著「ハルモニア」

2009-01-25 | 篠田節子
チェロ奏者の東野秀行は精神障害者の音楽療法を手伝っている時、脳に障害を
負っているが絶対音感を持ち超感覚的知覚保持者である「浅羽由希」に対する
チェロのレッスンを依頼される。
始めは乗り気でなかったが脳に障害をもつ由希が奏でる超人的チェロの調べと
その才能に圧倒される。
名演奏を忠実に再現してみせる由希に足りないもの、それは「自分の音」。
彼女の音に魂を吹き込もうとする東野の周りで相次ぐ不可解な事件が起きる。
ホラー仕立ての展開と「天上の音楽」にすべてを捧げる二人の行着く果ての
結末がミステリーになって、演奏者の心理状態がくわしく書き込れた作者の
力量で、最後まで一気に読めます。
1998年   マガジンハウス 刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする