メランコリア

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心の中のベストフィルム~『東京物語』(1953)

2014-08-02 16:14:20 | 映画
『東京物語』(1953)
監督:小津安二郎 出演:笠智衆、東山千栄子、原節子、山村聡、杉村春子、三宅邦子、香川京、東野英治郎、中村伸郎、大坂志郎 ほか

trailer

感想メモは「notes and movies」カテゴリーからの抜粋

先日の『Tokyo-ga』でヴェンダースが絶賛し、国内外で認められたのも納得。

黒澤作品のダイナミックなエンタテイメント系とは対照的に、昭和の日本の1家族をじっくり撮り、
観た目以上に完璧主義者だったという映像へのこだわりは、一切ムダを省いた貴重な資料にもなる原風景と暮らしの映像ばかり。
平凡な日常ながら「家」と「家族」の原点を描き、日本人なら心を揺さぶられずにはいられない。

現代では忘れられ、これからも、もしかして戻ってはこない日本人の姿がある。
懐かしくて、哀しくて、でも、どこまでも人情味の溢れた小津ワールド。
当時30代だったという笠智衆さんの驚きの老演技、
『白痴』で見せた悪女とは全く逆の姿を見せた原と、まだ幼さが残る香川との共演。


老夫婦が、大人になった子どもたちを訪ねる、『みんな元気』を思わせる話。
夫婦は決して物見遊山が目的ではないのに、仕事と家庭をもち、経済的な余裕も、時間もなく、
心ない子どもたちのはからいにも「有難う」と頭を下げる。

経済発展途上の真っ只中、人々の心にはまだ戦後の傷痕が生々しかった。親子の会話に敬語や礼儀があった時代。
私の親が娘、青年で、祖父母らがまだ少し若かった頃を、タイムトリップして覗いているような感覚。
ここには、今は田舎にかすかに漂っているにすぎない、まだアメリカナイズされる前の秩序、格式、尊厳みたいなものが残っている。

きっと人々はさらなる発展、便利さを求め、人や家のしがらみを拒み、見ぬフリをして、ここにあるような生活に戻ろうとはしないだろう。
このきょうだいらが面倒がっていたように、親に手紙を書いたり、なんでもない話で電話をかけたりしなくなったり。
そうなることで親も寂しい反面、子どもの自立した生活に安心するのかもしれない。こうして人は何世代もつないできたんだろう。

「私らは幸せなほうだろう」
「ええ、ええ、幸せなほうですよ!」

長年連れ添った夫婦の会話がイイ。
地方のアクセントが入った上品な会話の端々に大切な心が隠れている。
尾道の自然、船がゆっくりいく様子も、モノクロながら美しい。


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