メランコリア

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福音館文庫 S-69 犬のバルボッシュ パスカレ少年の物語 アンリ・ボスコ/作 福音館書店

2024-08-10 18:16:24 | 
2013年初版 天沢退二郎/訳 ジャン・パレイエ/画

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


昔は自然豊かだった村も、樹は伐られ、道はならされ
家もそこに住む人々も移り変わるのは世の常

50年も前の景色がそのまま残っているはずないのに
甥を連れて、自分の若い頃の面影を頼りに旅を決行する叔母

老女と少年の旅は冗長な文章で語られて、飽きてしまいそうになるが
犬のバルボッシュ、謎のロバの存在が気になって、先を読み進めると
後半からラストにかけてはスピーディな展開で引き込まれた

時にオカルトともとれるような怖さを感じて
旅の終わりには切なさが残る

同じ家族を描いた別の物語があるらしく
そちらを先に読んでいたらもっとキャラクターに奥行きを感じただろうか?



【内容抜粋メモ】

●旅のしたく
一人息子パスカレを心配する両親をうまく丸め込んで
マルチーヌ叔母はピエルーレ村に住む
パスカレのいとこであるグロリオ家までの旅の許可を得る

マルチーヌ叔母:私は子どもの頃、あそこで暮らしていたのだよ


●乗合馬車で
マルチーヌ叔母は『夢の鍵』という本を持ち歩き
その日の夜に見た夢診断をするのが常

両親のすすめに従って乗った乗合馬車で
パスカレはバランスを失って他の客に迷惑をかけて
2人は気まずい状況で過ごす

飼い犬のバルボッシュが馬車を追いかけて来てしまったのが見えて
馬車を停めて呼ぶが姿を消してしまう

バルボッシュは羊飼い用に訓練された優秀な牧羊犬で
パスカレもマルチーヌ叔母もとても愛しているため心配になる







●ソーゼットの駅
馬車を降りて、1時の汽車を待つ間、ランチを食べて
納屋のワラで昼寝をする2人

マルチーヌ叔母:汽車ってのは遅れるものなんだよ

寝つきの悪いパスカレは、いろんな馬車が通るのを夢のように見る

1頭のロバが「あの山まで行こう」と誘い、その背に乗りかけるが
バルボッシュが注意喚起の吠え声をあげると姿を消す

マルチーヌ叔母は彼らは「カラク」で
ほうぼうを旅しながら人をさらうことがあると話す

マルチーヌ叔母:
私が娘時代に見たもの、今はもう見えないものをお前は全部見るんですよ
だって、私の目は年をとってくたびれちまったものね


農夫が来て、もう20年も前にここは廃線になったと教える
彼は薬草を集めていたが、カラクの谷がある森の中には絶対入らないと忠告したにも関わらず
マルチーヌ叔母は洞窟で野宿することに決める








●森
ロウソクを灯してマルチーヌ叔母は夜の間は見張ると言いながら先に寝てしまい
パスカレは夜中に獣の気配を感じ、バルボッシュが守ってくれているのが分かる

空にはたくさんの星々が輝く

“生きるということは、たぶん、夢なのだ”

イノシシが扉をぶち抜いて、その先に進めるようになる2人


●朝から夕方まで
夕方に大きな街道に出るが、ならした道などにはなんの楽しみもないため
わざわざ旧道を歩く


●マルコンバの宿
柄の悪い宿屋しかなく、2人は納屋のワラに隠れて泊まることにする

マルチーヌ叔母:
これはきっと密輸のタバコだよ
眠るのは食事の代わりって諺にあるじゃないか

パスカレはまたカラクのキャラバンを中庭で見る
ロバが哀願の目で見て、扉から消えたため
パスカレはマルチーヌ叔母に早く出たほうがいいと教える







谷に逃げると、犬たちが追いかけてきて
バルボッシュが襲いかかり、パスカレは石を投げ
マルチーヌ叔母はハサミで刺して、なんとか追い払う


●ふるさと
食べ物が底を尽き、目指すピエルーレまではあと4km

マルチーヌ叔母:
近道を行けば時間がもうかることもある
でも時間をもうけて何になる?

叔母は村の入り口にたつ樹齢千年のニレの木について語り
パスカレはうっとりと聴き入る

2人とバルボッシュははまたワラ塚で眠る







村に入ると、ニレの木が根こそぎ引き抜かれてしまったのが分かり
マルチーヌ叔母は悲しみのあまり額に3本の深いシワができ二度と消えなかった

マルチーヌ叔母:見さかいなく木を切るものは、最後の審判の時に思い知るぞ

1軒の小さな別荘を見つけ、2人はそこでひと晩過ごすことにする
マルチーヌ叔母は、50年前に建っていた店について詳しく教える

マルチーヌ叔母:
私は村には入らないと決めた
だからバルボッシュと一緒にいるよ
お前は行っておくれ
何でもよく見て、聞いて、覚えて、戻ったら全部私に話して聞かせるんだよ
最後にラ・サチュルニーヌを探すこと
私たちの古い親戚のグロリオ家だよ
私は年をとってしまった 今はお前が私の若さなのだから

パスカレは1人で村に入ると、またあのロバが現れては消える
店のあった建物は崩れ落ち、パン屋も小間物屋もすべて見る影もない







教会のがれきを越えて、新しい家々からは物音がして、少女の笑い声が聞こえる
1人の少女がメロンの前に座り、歌をうたう

♪あまいメロン 私のお口のお友だち

パスカレにナイフで切ってくれと頼む

さっきバカにしたように笑ったのは彼女で
魔法をかけられたロバは子どもを盗むと話し
ラ・サチュルニーヌまで案内してあげるという

パンスミヌー:
イヤサントの事件後、誰も住んでいないのよ
あの家の人たちはみんなとても悲しくなって旅に出たの

パンスミヌーはロバを見るなり怖くなり
いつかパスカレのガージュ屋敷に遊びに来てと約束して別れる
パスカレ:さよなら! 君のメロン、とても甘かった! 忘れないよ!







別荘に戻ると、村がすっかりゴーストタウンになったとは言えずに
ラ・サチュルニーヌのこと以外は長々とつくり話を聞かせる

マルチーヌ叔母は夜中に起き出して、路地に入り
すっかり廃屋になった村を見る
パスカレはその後ろを追ったが、叔母が戻る前に別荘に戻る

翌朝、マルチーヌ叔母は美味しいコーヒーを淹れてパスカレが起きるのを待っていた
別荘へのお礼に大切な『夢の鍵』を置いていく

マルチーヌ叔母:
私にゃもう必要ないんだよ
もう二度とどんな夢も見やしないんだから


●帰り道
パスカレは叔母に頼まれて何度も村の話をして
そのたびに間違いを指摘されては訂正する

叔母は夜に村を見に行ったことを話さず
2人とも相手を思って優しいウソをついた

途中で老人が2人を馬車に乗せる
老人は村のことなら何でも知っていて話して聞かせる

マルチーヌ叔母:
昔は私はここの出身でした
でも今は生まれ変わってしまってね、年ですよ

老人:あんたを見て思い出した人がある わしの従妹でマルチーヌ・・・
叔母:違いますよ 私の名はアガート・フランション 残念ね

パスカレは昔、2人は愛し合っていたのに
思い出したくない叔母がウソをついたと思う
2人を下した後も老人はずっと見送っていたが、叔母は街道を見つめたまま

叔母:お前は返事をしないけれど、それでいいんだよ、パスカレ

行きの道ではあんなにイキイキと村について話してくれたのに
帰り道は叔母は悲しみに暮れ、2人とも無口になる







お宿・おっばい亭の主人アルフレッドと奥さんは
2人がそれほどお金を持っていないから食事は少しでいいというのに
今日はおごりだといってご馳走をふるまう

アルフレッドは超自然が大好きで、ワインを飲んで
森の秘密を大いに語って聞かせる

アルフレッド:
近くにある魔術師の領地からクマも感動しそうな歌が聞こえる
殿様は2匹の雌オオカミを連れて歩くんんだそうです

屋根裏部屋で眠る2人
パスカレは馬車に乗った殿様と2人の美しい娘を見る

殿様:何ものかがわれらを盗み見してるとは思わぬか?
御者:いずれあすこは燃やしてしまわねばなりますまい

パスカレは馬車に友人の兄弟ガッゾが乗っているのを見かける



2人は道の途中で雷雨に遭い、納屋で雨宿りする

後ろから来た男が、この先7里は村は1つもないから
近所の知り合いの老人の家に寄ったほうがいいとすすめる


●思い出
ガージュ屋敷に帰り着いた2人とバルボッシュ
いろいろ聞きたがる両親に適当に面白い話だけをして安心させる

その後も叔母に何十回も村の話をしなければならず
そのたびに食い違いを直される

パンスミヌーのことだけは話さずにいたのに
マルチーヌ叔母:誰がそこまで案内してくれたの?
パスカレ:パンスミヌー!

それから少女について全部話して聞かせる

マルチーヌ叔母:
パンスミヌーが歌ってくれた歌を聞かせておくれ
この歌には私の子どもの頃がそっくり全部入ってる
私だって、パンスミヌーだったのさ

叔母は泣いていた それは幸福の涙だった




訳者おぼえがき
少年パスカレを主人公とした小説5篇4冊のうち
本書は『少年と川』『島の狐』に続く3冊目にあたるが独立性が強い

アンリ・ボスコ
1888年フランス生まれ 87歳で死去

マルチーヌ叔母のモデルとなった叔母と一緒に少年時代を過ごした
33年間、学校で古典文学を教える

一躍世に知られたのは『ズボンをはいたロバ』

『イノシシ』
『ル・トゥレストゥラース』
『シヴェルグの住人』

『イヤサント』
『イヤサントの庭』

『テオティーム屋敷』は本書と深い関連がある作品
『マリクロワ』


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