メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

少年少女学研文庫 トランクから出た少年 エウゲーニー・ベルチストフ 学研

2024-08-08 14:34:18 | 
1975年初版 飯田規和/訳 E.ミグノフ/画

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


SFの児童小説
エアカーなどのSFでお馴染みな機械があっても
子どもたちがサーカスやサッカーに夢中になる姿は変わらないのはホッとする

先日読んだ『セリョージャはひとり』や
最近ハマってるリオン・ガーフィルドの名前が急に出てきてビックリ

男の子がウソを重ねて、街を淋しくうろつく様子も
別のロシア作家の小説『ビーチャといたずら友だち』と重なる

この時代にはまだスマホやAIはなかったと思うけれども
ヒトと友だちになれる機械とはまさにAIだし
ビデオ通話もSF小説じゃなくなったし

作者も言う通り、科学は猛スピードで進んでいるから
SF小説も追いつかなくなってる感ある


■日本の若いみなさんへ
作者が避暑地に行った際、他のトランクを間違えて持ってきてしまった体験からアイデアを思いついた
小説を書いているうちに、最新技術はどんどん古びていってしまった


サイバネチクス
人工頭脳学。精密な電子計算機と人間の神経系統を比べて
人工的に頭脳を作るのを目的にした学問


【内容抜粋メモ】

登場人物
グロモフ博士
エレクトロン
セルゲイ・チーズクン
ボブ 学者と呼ばれる秀才くん
マカール ケンカが強い



●グロモフ博士のトランク
グロモフ博士はサイバネチクス会議に出席するためにやって来た
頭上にはエアタクシーやヘリコプターが飛び交い
ホテルではリラクゼーションの香りが漂う

みんなを驚かせるために、機械の少年エレクトロンをケースに入れて持ち歩いていた
エレクトロンを充電して、ビデオフォーンでスベトロフ教授と話していたら
電圧が違うことを忘れていたため、強力な電気が流れて
エレクトロンは窓から飛び出して行方不明になる








●白衣か、公式か
セルゲイ・チーズクンはどこにでもいる13歳の少年
将来はコンピューターのプログラマーになろうかと思うとすぐに気が変わる







教室で隣りの席は“学者”ことボブ
前の席はケンカが強く体の大きいマカール
マカールはいつも“チーズクン”という名前をからかう


●選手はだれだろう?
母親からパンを買うよう言われて外に出る
町角を曲がると、いきなり陸上競技のチャンピオンに祭り上げられて胴上げされる

人がきをこっそり抜け出して土手に来ると
プラグがついたジャンパーを着て、チーズクンに瓜二つの少年エレクトロンに出会う
競争で信じられない記録を出したのはエレクトロンだった

電気で動く友だちができて嬉しくなり、町を案内するチーズクン







●スーパー手品師
町のカーニバルは賑わっている
青い風船を持った少女を見て気になる

エレクトロンは手品ができると言ったので、ステージに上がって見せてくれと頼む
電子オルガンを動かしたり、銀の輪を自在に操ったりして観客を魅了する

観客の時計などをもらって、飲み込み
再び強い電流が流れて、そのまま走って行ってしまい
盗まれたと騒ぎになる


●ロボット少年のおいたち
スベトロフ教授はグロモフ博士を尊敬していて
エレクトロンがどう生まれたか経緯を話してもらう

最初につくった「赤いキツネ」は「ストップ」という言葉に反応して止まる仕組みだが
ものすごい速さで走るので、逃げたまま行方不明になった








友人の外科医ニコライが人間の脳は自然がつくりだした完全なものだと誇張するので
機械にも脳と同じだけの情報を入力すれば
自分で考えるようになることを証明するために研究をはじめた

人工筋肉の研究をしている化学者ロギノフは、エレクトロンに足をつけた
世界的に有名な人形師スメホフはエレクトロンに顔を与えた

モデルになったのは、雑誌のグラビアに載っていた少年チーズクン
グロモフ博士はエレクトロンと名付けて、子どものように可愛がった







●エレクトロン、勉強をはじめる
出来たばかりのエレクトロンはまるきりの無知だった
さまざまな形を見分けたり、大量の本を読んだり、歩き方も練習した

警察からビデオ電話があり、エレクトロンがリレー競争で優勝したと分かる


●レントゲンではなにも見えない
レントゲン検査をしたら、飲み込んだ品はなく、とても健康な少年だと分かる
チーズクンはエレクトロンを部屋の洋服ダンスに隠して
博士らには何も知らないとウソをつく








●秘密
エレクトロンに合った電圧の冷蔵庫のトランスを持ってきてあげて
自分の宝物を見せたり、本を貸したりして、すっかり仲良くなる

チーズクン:
きみ、ぼくの代わりに学校へ行ってくれないかい?
これは僕たち2人だけの秘密だ
この秘密を洩らしたら、壊されても構いませんと誓ってくれよ

(ドラえもんとのび太君みたいな関係だな








●プログラマー・オプチミスト
サイバネチクス学園の壁新聞『プログラマー・オプチミスト』は
文章の中に式や記号を入れて、皮肉などを隠しているのが人気

図画の時間にエレクトロンはスキーヤーを描く代わりに
彼らの運動を正確に数式で表したため、先生は風邪をひいたと思い
スパルタクは見事な文章だと褒めて、新聞記事を書くよう頼む


●天才エレクトロン
数学のタラタル先生はピタゴラスの定理について問題を出し
エレクトロンは25種類の証明の仕方を見事に答えて驚かせる
生徒たちはチーズクンだと思い込み、褒め上げる

チーズクンは公園で昼寝をして、ペラペラな二次元の人々の夢を見る
少女アンカはカゴにいろんな微笑みを入れて売り歩いているが
ペラペラの人たちは無視して歩いている

三角と四角でできた“定義の番人”に対して冗談を言って混乱させるチーズクン
彼らは立体や球体が理解できず、チーズクンを「監獄へ入れろ!」と責め立てる








●さいしょの失敗
チーズクンはエレクトロンにいくつかの宝物を渡して
他の子どもたちとより面白いモノに交換する遊びをさせるが
エレクトロンは一番つまらないものと交換してきてショックを受け
慌てて、とんちや空想力を駆使して取り戻す

風船の少女が通りかかり、チーズクンはエレクトロンに名前と住所を聞いてくるよう頼む
エレクトロンが唐突に聞いたため怪しまれ、マヤの住所は分かるが気まずくなる

エレクトロンはサーカスの切符を1枚もらったため、それで入る
チーズクンは入り口でブラブラしてると
背の高い男性アントンが1枚入場券をくれる

アントンは調教師で、ステージでアシカやクマと寸劇をして笑わせる
動物たちは急にエレクトロンのそばに来て、なにやら話している様子
エレクトロンは動物の声も学習して喋れると分かる








●ガチョウとヘビ使い座の話
チーズクンはエレクトロンに両親の小言を黙って聞き流すよう頼む
母親がせっかくチーズクンを褒めても自慢しないエレクトロンをフシギに思う

宇宙の話になり、チーズクンは変そうしてヘビ使い座人を演じて見せる
エレクトロンは宇宙言語学という学問があることを教える







チーズクン:
生きている人間そっくりで、ぼくの親友で、兄弟でもある
その人間の名はエレクトロン!

エレクトロン:ありがとう 君は本当の親友だ 僕にはそのことが分かるよ


●犬が喋らないことは幸せだ
エレクトロンが犬とも話せるか実験しようとして
近所の“きちがい犬”を連れて来ると、エレクトロンに激しく吠えたてる


●やっぱりぼくは人間だ
エレクトロンはマカールの襟をつかんで持ち上げたため、マカールはすっかり負けを認める
エレクトロンはみんなから尊敬されるが、チーズクンはひどいウソつきになった

いつでも泥棒のように辺りをうかがい、ウソがバレるのを恐ろしくてたまらなかった
突然、自分が数学に惹かれていることを発見したのに、授業をサボってるお陰で遅れてしまった








●考えるとは、どういうことか?
タラタル先生は助手の学習機械を持ち込んで
「考えるとは、どういうことか?」と生徒に聞く







タラタル先生:
新しい考えはどのように生まれるのか?
発見はちゃんとした統計学の法則に基づいてなされている

先生は確率論について話す

タラタル先生:
自然界には私たちの分からないことが無数にある
それらの秘密は解き明かさねばならない

もう35年間も教師をしていて、卒業の時期になると
いつも説明しようのない淋しさに取りつかれるタラタル先生


●学習機械との勝負
タラタル先生は生徒を1人ずつ呼び、学習機械が出す式を解くよう言う

タラタル先生:
私は君たちに百科事典のようになれと言っているのではない
広い知識を持つと同時に、もっともよい解決の道を選びだす力を身につけてほしい


エレクトロンは難しい計算式を数秒で答えたため、タラタル先生は戸惑う


●リストの公式
ボブは祖母のピアノのレッスンが苦手で
エレクトロンを家に呼べば中止になるのではないかと思うが
エレクトロンは自作の曲を演奏して、祖母は卒倒し、大音楽家になれると褒める

エレクトロン:
可聴限界(人の耳に聞こえる音の限界)の公式を教えてあげるよ
公式通りに弾くにはたくさん練習するほかない


●タイムマシンがあったら
チーズクンはビクビクして過ごすことに疲れ
遠い所に行って消えてしまおうと考える
そこに車輪が傷だらけになった赤いキツネが来て、また逃げ去ってしまう

チーズクンは汽車(未来に汽車?)の切符を予約して
数か月分のエレクトロンの生活を細かく指示する

マヤに電話して、旅に出ることを伝える
マヤ:私は化学学園の7年生だけど、化学は好きになれない
チーズクン:ぼくらの学校においでよ!
マヤ:本当に私とお別れの挨拶をしたいなら、質問日の催しにいらっしゃいよ


●質問日はじまる
3か月に1度、児童会館にみんなが集まり
いろんな質問を集めて、有識者に答えてもらうイベント
サイバネチクスに関する質問が一番多くて、スベトロフ教授が答える

スベトロフ教授:
人間に代わって働くロボットや、人工心臓などで利用され
今では国全体の生活が数式やグラフで表されている
サイバネチクスはほかの学問と協力してこそ万能となる

グロモフ博士は今日みんなにサプライズで見せようと思っていた
エレクトロンが行方不明になったと話す


●とびだしたチーズクン
エレクトロンがチーズクンとして壇上に上がろうとすると
チーズクンが駆け込んで来て、自分が本当のチーズクンだと明かす







●エレクトロンがわらった!
タラタル先生:君はみんなの前で本当のことを言うだけの勇気をもっていたんだ

児童劇団が入ってきて、主演女優マヤを紹介される

グロモフ博士:エレクトロンには感情表現がない それは私の失敗でした
チーズクン:みんな、エレクトロンを笑わしてやろうじゃないか!

みんなで可笑しなことをして、とうとうエレクトロンは笑い出す

タラタル先生はエレクトロンを学校に残していってくれないかとグロモフ博士に頼む
マヤもサイバネチクス学園に移ることに決めた


●それからの物語
チーズクンはその後、数学者となった

エレクトロンは学園で最初に出会った親友の話を聞かせる
今ではサッカーも、笑いころげることもできる




あとがき
SFは科学や技術の進歩を前提とした空想物語

コンピューターは人間の肉体的労働の代わりをするための機械だったが
考える機械を作りだし、人間と友だちになれる機械を考えだすようになった


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