原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

途上国の司法事情

2011-01-20 | 日記
今日は,「海外司法事情セミナー」(参加は任意)なるものに参加しました。ベトナム,カンボジアの法整備支援に関わった裁判官の方がお話をしてくれる,というものでした。

まさに「途上国の常識,日本の非常識」です。例えば,ベトナムでは「監督審制度」というものがあって,何と,確定した判決を3年間は職権で破棄できるのです。法的安定性がないにもほどがある,日本で法律を勉強しなたらば誰でもそう思うでしょう。その他,民事事件では,職権で審判を始める制度等もあったそうな(金銭消費貸借契約の債権者は特に返還を求めていないのに審判が始まる,というイメージ?)。その他,「この家から出ていけ」との判決を求めた事件において,下された判決は,「なら,アンタは被告が新しく住む家を探せ!」というもの,とか。申立て事項と判決事項の不一致も甚だしいですね(笑)

日本で言うなら,お奉行様の時代の裁判に近いものがまかり通っていた,そんなところだと思います。で,日本の法律家の力を借りて法整備をしていく,そのプロセスについて話してくれました。クリエイティブで面白そうな仕事です。学者,裁判官,検察官,弁護士,様々な立場の人が関わってやっていくものだそうです。法律家として経験を積んで,そうした仕事をしていくのも面白いかもしれません。希望する人も増えているのだとか。

その後は,懇親会。私はある若い裁判官の方と同席させてもらったんですが,今日,印象に残ったのは,

事実認定は,動かぬ点を確定してそれを線でつないでいくもの。線が引けないのは,点の数が少ないからだ。線がうまくつなげないなら,どの部分の点が足りていないのか,それを考える能力を磨くことが重要

ということ。点は「事実」を意味し,線は「その事実(点)の評価・分析」のことです。

これ,司法試験のいわゆる「あてはめ」に通ずるところがあります。あてはめが苦手だと思う受験生は多いでしょうし,「あてはめがうすい」という添削をされる方も多いでしょう。そういう場合,要は,しっかりを「線」が引けていないことを意味します。なぜ,線が引けないのかと言えば,「点(事実)」の数が少ないから。法的に意味ある「点(事実)」を抽出し,それをしっかりと「線(評価・分析)」でつないでいく。それが上手になればとんでもない「あてはめ」や,不適切な「あてはめ」は少なくなるでしょう。

そして,どうすればその作業が上達するか,といえば,それは「先人たちが築いたノウハウは大事にする」ことが重要だそうです。過去に司法試験でも出ている問題で言えば,共同正犯か幇助かの認定の際に,「報酬を受け取っていた」という点(事実)があれば,「自己の意思として行う意思があった」→「共同実行の意思が認められる」という線(評価・分析)が引けることになります。かつて,このブログで「あてはめの上達のためにはどうすればよいか」というご質問があった際に「典型判例の判旨から学ぶべき」,そして,「合格ライン労働法」で「百選の解説部分の事実評価・分析のコメントの部分を読む。その際にどの事実(ここでの表現なら「点」)が決めてになっているかに注意する」という旨を述べましたが,これらは「先人たちが…」を具体化したものであると理解していただいてよいかと思います。

明日,刑事裁判修習最終日です。今日はこの辺で。

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