原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

不合格者のパターン

2011-01-31 | 勉強法全般
今日から,検察修習です。…といっても,今日は開始式・あいさつ回り・オリエンテーション・講話などで,まだ全く何もしていないので,ここで紹介するネタはございません。おそらく,検察修習だけだと思うのですが,検察修習では「導入教育」なるものがあり,最初の一週間はほとんど講義です。刑事裁判修習では,最初からいきなり傍聴に行き,模擬裁判をやって,起案をして…。これはどっちがいいか難しいところかと。とりあえず実戦に放り込まれた方がいいような気もするし,ちゃんと教育されてからの方がいいような気もするし…。

我々の班は,クリスマスイブに「問研起案」(←模擬試験のようなもの)という素敵なプレゼントがあり,ならばバレンタインはどんなプレゼントがあるのだろうと期待していたら,ありました,素敵なプレゼント。「刑務所見学」です。「女性の方は,絶対にスカートで来ないでください。パンツ(ズボン)で来てください」という注意付き。刑務所にいる方々は女性と全く接する機会がないので,(若い人が多い)女性修習生の足でも見えようもんなら大変なことになりかねない,そういうことだそうです。女性受験生の皆様,修習にはパンツスーツで行ってください。

さて,某修習生と少し話をしていて,思い出したこと。司法試験に落ちる場合,それは色々な落ち方があるのですが,「1科目(1法系統)でズドン」という場合は少なくありません。私も,平成20年,論文・民事でズドン…。短答で落ちる場合も,ある1つの法系統でズドン,という場合があるのではないでしょうか。

もちろん,これは「得意・不得意」に関わる問題なわけですが,この得意・不得意が分かれやすいのが,公法系と民事系かな,と思います。そして,この2つの法系統は一方が得意だと他方が苦手,というパターンが多いのではないでしょうか。つまり,「公法が得意だが民事が苦手」「民事が得意だが公法が苦手」という受験生は世に多く存在すると思います。

で,強調したいのは,「失点を防ぐことは得点をするより容易であり重要」「司法試験で『1科目(1系統)のズドン』を挽回するのは至難の業である」ということです。論文の採点は標準化(偏差値化)して行われるので,「大ハネ・ホームラン(←他を大きく引き離す高得点)」はすごく難しいのです。ホームランを狙うのではなく,堅実にヒットを重ねていく,これが合格のために最も効率的な方法です。

その意味で,もし不得意科目があるなら,しっかりとそれを埋めること,それがこの時期に大事なことです。得意な人は「無意識」でできることも,不得意な人にはできない。例えば,行政法の訴訟選択。ここを間違えると,以降の検討がなし崩し的に「見当違い」になるので,「ズドン」の原因になる典型的な点です。

平成18年の出題趣旨・ヒアリング等に「取消訴訟中心主義」という言葉が出てきます。この意味をどれだけ理解しているかが大事。一言で言ってしまえば,「原告の希望を叶えるために何が一番いいか」ということなのですが,不得意な人にはピンと来ない。ですから,丁寧に整理しておく必要がある。行政庁の行為(アクション)を時系列順に並べてみて,それぞれ,①取消訴訟が可能か,②可能であるとして目的が達成できるか,③取消訴訟では目的不達成・不十分であれば他の訴訟形態で争うことができるか,それが効果的か,という思考を経ます。そして,大切なこと,理解を示すために重要なのは,「その思考過程を簡潔に書いておくこと」です。例えば,②取消訴訟が可能であってもそれでは目的が達成できない場合には,取消訴訟で勝訴した場合の効果を「法令から」考察して,それでは原告が望む○○は得られない,と一言書いておくのです。これでずいぶん印象が変わるように思います。

例えば,迷惑・違法建築物を除去したい場合,まずは建築確認(建築基準法6条)の取消訴訟を検討します。これが本筋。ですが,建築確認は適法に工事を開始する地位を与える効果を有するものなので,すでに工事が始まっていたならばそれを止めることはできない。そこで,工事の中止命令を出してほしいことになりますが,それは取消訴訟ではできないので,義務付け訴訟をする必要がある。でも待てよ,中止するだけではすでに出来上がった部分は残ってしまうので,除去命令の義務付けにしなくてはいけないはず…。こんな感じで,勝訴判決を取った場合の「効果」を常に意識しながら考えていくのです。

この過程(「効果」を考える過程)で,いわゆる仕組み解釈というか,法令の構造をしっかりと押さえて検討する必要も生じます。もし,建築基準法に,「建築確認の効果が失われた場合には,工事を中止し,すでに工事をした部分は除去しなくてはいけない」という規定があったとしたら,建築確認の取消訴訟をすれば事足りるのです。個別法全体の仕組み,これは「効果」を意識しながら把握していくのです。

こういった部分が把握できていないと,苦手意識を感じるものです。

1月も終わり。受験生の皆さん,さらなるペースアップを!合格する人ほど,この時期は精神的・肉体的にしんどいのです。精神的・肉体的にしんどいのであれば,それは合格の前段階ですから,負けてはいけません。

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7 コメント

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Unknown (りんご)
2011-01-31 22:16:27
はじめまして。京都で先生の講義を聴いている未修2年の者です。講義もそうですが、ブログも大変わかりやすく毎回楽しみにしています。こんなにためになるブログには初めて出会いました。昨日と今日の憲法の話と行政法の話は、私の不理解の点だったので特に有意義でした。すっかり先生のファンです!

記事と関係のない質問なのですが、先生は修習が終わったらすぐに講師に復帰なさるのでしょうか?その場合はやはり東京となってしまうのでしょうか?勝手なお願いなのですが、大阪や京都でぜひゼミをやっていただきたく思います。先生に対面で教わったら絶対に受かるような気がして。。。

修習ネタも興味深く大変面白いのですが、先生ほどの講師が1年も仕事ができなくなってしまうのはもったいないですよね。。

先生は弁護士としても多忙を極めるのだと思いますが、関西でも是非講義をして頂きたいと強く思います。よろしくお願いします。

乱文失礼致しました。
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Unknown (はら)
2011-02-01 00:49:23
りんごさん,はじめまして。ご受講,ありがとうございます!

さて,ご質問の件ですが,まず私自身は修習が終わったら早期に(直ちに)教壇に復帰したいと思っています。もっとも,出講「契約」ですから,あくまでも当事者双方の意思の合致があって,の話になります。修習が終わるのがだいぶ先になってしまうので,色々と構想はあれど,具体的にいつ,どこで,何をするか,という点についてはまだ白紙としかお伝えできません。

関西でも,と言っていただけるのは大変うれしいです!もともと私は予備校講師時代に,あっちこっちで仕事をしていたので,少々遠くても何とも思いません。広島まで来てしまったので,関西は近く感じる(?)といったところです。お話があれば,ぜひやってみたいと思います(不可能でない限り断らないと思います。関西好きですし。特に,通天閣あたりで串カツ…:笑)。

何か決まって,公表して良い時期になったら,ここでも発表します。記事も頑張って書いていきますので,ちょいちょいこのブログをチェックしてください!
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民事系 (はせにゃん)
2011-02-01 11:27:32
先生、検察修習お疲れ様です!検察志望の私にはとってもうらやましい!ですが。
 さて、行政法についての着眼点、とても参考になりました。個人的には民事系(特に悲しいかな民法)が苦手なので、今度同様の視点から民事系を語って頂けたら嬉しいです!
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Unknown (はら)
2011-02-01 18:33:36
はせにゃんさん,お久しぶりです~。はせにゃんさんは,検察志望でしたね。検察官は,単独で国家意思を表現できる,日本でも数少ない存在です。やりがいがあると思いますよ~。

民事系の話,了解しました。3月下旬から民事裁判修習なので,そうしたら民事系の話が中心になるんじゃないかと思います。それ以前にも書いていきましょう。

期末試験の時期ですか?頑張ってください~!
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ありがとうございます~ (はせにゃん)
2011-02-01 18:47:57
御察しの通り・・・期末試験が始まります~
刑事実務の試験もあるので、先生が以前アップしてくださった公判前整理手続は参考にさせていただき、また図書館で三井・酒巻「入門刑事手続法」を借りて参考書代わりに使っています。民事の話、楽しみにしています。あとネタに困った時にでも、新3年生が残り1年どう過ごすべきか、的なアドバイスも助かります!ではとりあえず試験を頑張ります・・・・
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Unknown (りんご)
2011-02-01 21:36:50
原先生、関西の講義ぜひよろしくお願いします。期待しています!

私も新3年生がどうやっていくべきかをすごく聞きたいです。特に春休みにどのようなことをすべきなのかについてアドバイスいただけたらと思います。

お願いばかりで申し訳ありません。。。
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Unknown (はら)
2011-02-02 21:16:54
はせにゃんさん,りんごさん,了解しました。新3年生向けの内容も積極的に書いていきます。

まずは,期末試験,頑張ってください!できる限り楽な状況で3年の後期を迎えるためにも,今回の期末は大事です!
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