原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

【スタ短特訓】講義補足(刑訴法①)の補足

2010-07-27 | 講義関連(講義関連・講義補足など)
今日は土用の丑の日。ですから、うなぎを食べました。吉野家ですが(涙)でも、吉野家好きなんですよね。仮にいずれ弁護士として成功する日が来たとしても、私は吉野家に通うんだと思います(笑)今日から本格的に夏期講習というやつが始まりまして、うなぎでも食べてなきゃやってらんない、そんな毎日に突入致しました。

さて、タイトルの通り、補足の補足です。

刑訴法の答案を書く上での基本的な考え方・指針は、「比較衡量」「バランス」です。刑訴法と言えば、「真実発見」と「人権保障」と言われるわけですが、まさにそのバランスこそが大切です。捜査にしても「どこまでやっていいか」が問われるわけで、証拠法にしても「どこまでの証拠に証拠能力が認められるか」、また訴因変更も「どこまでだったら変更なしでよいのか」、ようはこの限界を画するのが刑訴法で、それを問うのが刑訴法の論文です。問題文は「グレー」であり、それに答案で「白」「黒」付けていきます(他の科目もそうなのですが、刑訴法は特にそれが顕著)。

真実発見と人権保障の比較衡量。

この視点が個々の論点を貫く、基本的な考え方。レジュメ16頁に「任意捜査の限界」を検討する際の考慮要素を並べてありますが、これはあくまでも「考慮要素」にすぎないのであって、もっと大きな視点で見れば、(真実発見の)「必要性」「緊急性」と(人権保障のための)「相当性」の比較衡量ということになります。前者が大きければ、後者は緩やかに判断される。逆に前者が小さければ、後者は厳格に判断される。

捜索・差押えの実質的要件である捜索・差押えの必要性についても同じです。真実発見(犯罪の重大性、証拠の重要性、代替手段の有無など)と人権保障(捜索・差押えに伴う不利益)の比較衡量の視点から、結論を導く。

こうした観点が重要です。ここをいかに具体的に検討できるかどうかが点数を左右する、そういう科目であるといえます。その意味では、講義でもお話したように、単に「人権」と考えてはならず、どのような性質の人権であるか、という視点も持っておかなくてはいけない。

えらくくどい書き方になってしまいましたが、よく噛みしめて頂きたいと思います。そして、この観点からレジュメ48頁に掲載されている判例(最決H10.5.1,百選25事件)を読んでいただきたいと思います。特に、保護されるべき人権(権利)は何か、PCとフロッピーという単なる財産権か、あるいはその中の情報か、そうだとしてそれはどの程度保護されるべきものか、という点ですね。保護されるべきが情報だとしても、ここに記録されている情報はプライバシー情報など強く保護されるべき情報ではない、という点も(こそ)ポイントです。「組織的犯行を裏付ける」情報ですから、保護の程度は大きくないといえ、包括的差押えもOKという結論が導けるでしょうか。仮に企業のPCが押収される場合でも、顧客や従業員の情報、あるいは営業に不可欠な情報が入っているPCと、単に商品パンフのデータなどが入っているだけのPCでは、保護の程度が変わってくるはずです。

レジュメ36頁の最決H20.4.15でもお話したように、「実質的な」「具体的な」考察が大切です。1階から4階の部屋を撮影したら何が見えるか、という点ですね。やっぱり主に天井が写り、人が写ったとしても上半身だけでしょうからプライバシー侵害の程度は低いはず。また、1階から見えるところで人は裸でフラフラしたりしないでしょう。甲の容貌が写っても、服を着た上半身、と考えるのが自然で、捜査機関はそのような配慮をしていた、と認定して差し支えないでしょう。

このように具体的場面を映像化して、悩んで、考えて、その過程と結果を答案に表現する。これが新司で求められる「具体的考察」の一端であると私は思います。部屋の中はプライベートスペースだからプライバシー侵害の程度が大きい、と考え悩むことなく表面的にあっさり書いてしまう答案とは「質」が変わってきます。

刑事系では特に重要な視点です。刑事系の論文は得意で、2年連続で140点前後だったんです。「神の領域」「奇跡の大ハネ」の160点台を叩きだすことはできませんが、通常人の限界である140点に届く自信はそこそこあるかなと。こういうコツと、必要な知識でいけます。

時間に追われている時に限って熱く、くどく書いてしまうものですね(笑)

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16 コメント

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講義で気になったことについて (匿名@横浜校)
2010-08-02 18:02:48
横浜校にてVTR講義を受けているものです。いつも内容の濃い授業で、復習が大変ですが、確実に力になっているなと実感しております。

以下、失礼を承知で、気になった内容を書かせていただきます。VTRの関係上、1週間遅れですみません。

講義の中で任意捜査の限界に関して、「①必要性、②緊急性、③相当性」(①②は混ざる)で検討してくださいというお話があったと思います。

百選のアペンディックスを書いている先生方の本や判例解説を読みますと、(具体的状況のもとでの)相当性の判断の考慮要素として①必要性、②緊急性を挙げているようなことが書いてあります。相当性の下位基準として、①必要性、②相当性があげられているような理解みたいです。判例の文言の「考慮して」を忠実の読むと、そういう解釈になるからということのようです。

西口先生・稲村先生も以上のような解釈で任意捜査の限界を検討してくださいとおっしゃっていました。私が法科大学院で習った先生も同様のことをおっしゃっていたと思います。

私の理解が間違っていったら申し訳ないのですが、相当性の考慮基準として①必要性、②緊急性を考慮するという形で答案を書いている者からは少々違和感を感じました。

答案で書くとき

○前者

(3)あてはめ
  ア必要性
  イ緊急性
  ウ相当性
  エ以上より、本件行為は適法。

○後者

(3)あてはめ
  ア必要性
  イ緊急性
  ウ~具体的状況のもとで相当。よって適    法。

のように書き方が少々変わってくるような気がしております。

あまり変わらないといえば変わらないですが、少々気になったので、失礼を承知でコメントさせていただきました。


  
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匿名@横浜校さん (はら)
2010-08-03 01:32:49
ご受講ありがとうございます!そして、ご指摘ありがとうございます。

さて、早速ですが、ご指摘の点についてです。この点、教室の話は田口先生の書き方に従いすぎたかな、と思いまして、ブログ上で補足した次第です。

古来(?)、任意捜査の限界について、「①必要性、②緊急性、③相当性」と3つの視点を並べるのが受験通説だったわけでありますが、これは田口先生の教科書の書き方です(旧版では46頁。新版の頁はすみません、わかりません)。予備校本は恐らく田口先生の本が元ネタなので、どこもかしこもそうなっております。特に疑問視されることはなかったようです。

で、より詳細に検討して、任意捜査の限界につき、

Ⅰ.必要性&緊急性、相当性の比較衡量とみるか

Ⅱ.あくまで相当性判断をするものであって、必要性・緊急性は下位基準とみるか

ですが、おっしゃる通り、判例は厳密にはⅡに近い分析の仕方になっています。高輪グリーンマンションでは、「事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容される」と述べていまして、この「勘案して」に注目すればⅡのように捉えるのが正確です。「事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情」の部分を一言でまとめると「必要性・緊急性」となるでしょうから、判例の規範は、「必要性・緊急性を勘案して、具体的場面において相当と認められる限度」か否か、ということになります。こうした思考を経て、講義では、「必要性と緊急性は一括りのもの」という旨を述べました。

…とここまで書くと気付いていただけるかもしれませんが、、「必要性・緊急性を勘案して、具体的場面において相当と認められる限度」か否か、というのは、要は「必要性・緊急性」VS「相当性」の比較衡量を行っているわけです。どうしてこういう作業を判例がしているのかといえば、真実発見と人権保障、要は比例原則的視点を具体化した、といえるでしょう。

とすると、ⅠもⅡも本質的には同じことをしているわけです。「相当性」という一つの大きな枠の中で必要性・緊急性を考えるか、必要性・緊急性を先に検討してそれと(手段の)相当性を検討するか、の順序というか線の引き方の違いです。やっていることは同じなので、結論は変わりません。

ではどうして講義やココでⅠの説明をしたかというと、より実戦的であるから、というわけです。スタ論を添削していて感じたのは、「下位規範として」「考慮する」というのがどうもしっかり理解できていない。これを抽象論としてではなく、実際に答案で検討する時に「書ける」かたちで理解してもらうためにはⅠの説明の仕方の方がよかろう、というわけです。

必要性・緊急性が大きければ相当性は認められやすい(手段として多少の逸脱までは許容される)、逆に、必要性・緊急性に乏しければ相当性は認められにくい(手段としての相当性は厳格に判断される)、ということなのですね。大切なのは、①必要性、②緊急性、③相当性、がそれぞれ肯定されれば任意捜査としてOK、というような単純な判断枠組みではないということです。

以上の次第で、Ⅰ・Ⅱは本質的に同じと考えて差し支えないと思います。このあたりをじっくり考えると、むしろ理解が深まるかもしれません。

いかがでしょうか?

気になる点があれば、またどんどん指摘してください。私としても教授法の研鑽のために、多くの疑問点を聞きたいと思っております。
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Unknown (@北海道)
2010-08-03 17:00:06
質問者ではないのですが、大変理解が深まりました!

先生は、すごく勉強されているのですね。受験生の答案もよく分析されているのですね。

東京以外で講義をする予定はないのでしょうか?ぜひ、ライブ講義を受けてみたいです。
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@北海道さん (はら)
2010-08-04 01:31:40
勉強しないとなかなかしゃべれないですよ~。受験していた時よりも深く勉強しているかもしれません(笑)

東京以外での講義の予定は、今のところありません。これも私が決定することではなく…。もし機会がありましたら、ぜひ受講してください!
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いまさら (ジャ)
2010-12-13 22:15:29
お世話になっております(スタ短特訓講座)。

ジャです。
以前質問しっぱなしで大変失礼いたしました。
失礼をお詫びした上で、可能であれば再び質問をさせてください(修習中で差支えがあればスルーしてください)。

スタ短特訓講座の復習がやっと刑事訴訟法まできました。
そこで刑事訴訟法「レジュメ集1」の56頁の「15捜索・差押え・検証」の表です。

一番右の「検証→身体検査」の縦列で、法222条が112条~120条を準用していないというのはどういう理由からでしょうか。
222条を何度も読んでもそのように読めず苦戦しております。

どうかご教授ください…
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Unknown (はら)
2010-12-19 23:54:00
書き込みのあることに気づきませんでした。すみません!

おっしゃる通り,「222が112~120を準用していない」とは言えないのですが,手元にスタ短特訓の資料がございませんで,即答はいたしかねます。年末に帰った時に確認しておきますので,その時にもう一度,お答えします。

煮え切らない書き方ですみません…。
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Unknown (ジャ)
2010-12-20 15:17:17
お忙しいのにもかかわらず、ご丁寧にコメントありがとうございます。

先生のブログが更新されることで私は元気がでます。
質問の件有難うございます。

わたくし事ではありますが、先生の記事に触発され、私も受験地をロー所在地ではなく、異郷広島の地で受験をすることにしました。

偶然にもハラ先生のおられる広島で受験することになり、縁を感じているところです。

コメントへのお返事ありがとうございました^^
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Unknown (はら)
2010-12-20 20:46:58
広島で受けるのですか~!受験者数自体は仙台とほぼ同じだと思いますので,たぶん,私が受けた時と同じような環境になるのではないかと思います(会場自体は知らないのですが…)。

異郷で受けて合格を得られると,その地に特別な感情を持ちますよ。私とは逆のパターン(受験:広島,修習:仙台)なんてのもまたいいのではないかと。

水曜,木曜は厳しいかもしれませんが,受講生の方が少なくとも2名は広島で受験されるようですので,土曜もしくは日曜は応援に参ります。試験終了から帰りの新幹線までは余裕があるはずですので,日曜の夕方に,お疲れ様の一杯もいいでしょうね。

あと5か月,頑張って勉強してください。質問の件は,年末に確認します。
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Unknown (ジャ)
2010-12-21 22:56:02
日曜日の夕方ですね。

余裕をもって帰りの新幹線を予約しないといけませんね!

会場で先生にお会いできるのを楽しみに残り5ヶ月間勉強に励みます!

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任意捜査の限界において、第三者の不利益を考慮して良いか。 (おつ)
2011-11-30 02:12:02
任意捜査の限界において、被処分者以外の第三者の不利益を考慮して良いか疑問に思っています。
今まで、被処分者の不利益はどのくらいかという視点から、手段の相当性を考える思考をしてました。
このとき、第三者の不利益を、例えば、写真撮影によって写真に写り込んだ第三者のプライバシーといったものも考慮しても良いのでしょうか。
よろしくお願いします。

上のコメントの相当性の説明はわかりやすいですね。僕もどちらが正しいかという視点で悩んでいました。受験生がつまづく点なのだなと感じました。
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