原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

【答案の一例】(新)司法試験(H18・民法)

2016-01-01 | 民法的内容

あけましておめでとうございます。大晦日・元旦と少し時間があるので,過去問分析をしていました。H18・民法の時系列が非常に複雑で,また,「ぶんせき本」の答案例ががっちりしたものではないので,書いてみました。

 

【時系列表】

 

 15.10. 6  AB間基本契約

 16. 9.13  XA間貸金契約(3600万)

           XA間譲渡担保設定契約

           債権譲渡登記

 17. 1.20  XA間貸金契約第1回弁済期(800万) ← 弁済

 17. 5.20  XA間貸金契約第2回弁済期(800万) ← 弁済

 17. 6.14  AB間第1回売買(500万)

 17. 7. 8  X→Z,AB間第1回売買代金債権売買

 17. 7.11  A→B,上記内容証明で通知

 17. 7.15  AB間第2回売買(1200万)

 17. 8. 1  X→Z,AB間第2回売買代金債権売買

 17. 8. 3  A→B,上記内容証明で通知

 17. 8.10  AB間第3回売買(1500万)

 17. 8.20  X→Z,AB間第3回売買代金債権売買

 17. 8.22  A→B,上記内容証明で通知

 17. 9. 5  AB間第4回売買(400万)

 17. 9.12  X→Z第4回売買代金債権売買

 17. 9.14  A→B,上記内容証明で通知

 17. 9.20  XA間貸金契約第3回弁済期(800万) ← 遅滞(期失)

 17. 9.21  B→Z,第1回売買代金弁済

 17. 9.22  B→Z,第4回売買代金売買につき,異議なき承諾

 17.10. 8  X→A,譲渡担保実行通知

           X→B,通知

 17.10.19  B→A,第4回売買解除意思表示

 18. 1.20  XA間貸金契約第4回弁済期(800万)

 18. 5.19  XA間貸金契約第5回弁済期(400万)

 

 【答案の一例】

 

第1 設問1

 1 譲渡担保の法的構成

   請求原因事実として,①~④の事実が必要になるか否かの検討の前提として,本件の譲渡担保の法的構成が問題となる。

   本件譲渡担保契約は,AがBに対して取得することになる代金債権を,担保賢者であるXに譲渡する形式をとる。すなわち,担保設定者から担保権者に権利移転することを内容とするものであるから,いわゆる所有権的構成(権利移転的構成)が採用されていると見るべきである。

   以下,これを前提に検討する。

 2 ①~④の事実が請求原因として必要か否かについて

 (1)まず,所有権的構成を前提とすると,担保権者は自己に移転した権利を行使することになるので,債権譲渡における譲受人が権利行使する場合と同じ構造になる。すなわち,担保権者としては,譲受債権の発生原因事実と,譲受債権の取得原因事実を主張・立証することになる。

    具体的には,AB間売買契約の事実と,XA間譲渡担保設定契約の締結の事実を主張・立証すべきことになる。

 (2)①本件貸金債権の発生原因事実

    譲受債権の取得原因事実として関連する事実ではあるが,本件では,XA間の譲渡担保設定契約の締結の事実でもって譲受債権取得原因事実として足りるため,請求原因事実としては主張・立証は不要である。

 (3)②債権譲渡登記をしたこと

    これは,第三者対抗要件具備を意味するが(特例法4Ⅰ),第三者対抗要件の不具備が権利抗弁事由であり,第三者対抗要件の具備はそれに対する再抗弁となるため,請求原因事実としては主張・立証は不要である。

 (4)③譲渡担保を実行する旨の通知をしたこと

    これは,担保権行使の意思表示を意味するが,所有権的構成をとる場合には,既に譲渡担保設定契約締結時に権利は担保権者に移転しているため,担保権者は担保権実行の意思表示をするまでもなく,権利行使が可能である。

    したがって,これも請求原因事実としては主張・立証不要である。

 (5)④登記事項証明書を交付して通知したこと

    これは,債務者対抗要件の具備を意味するが(特例法4Ⅱ),債務者対抗要件の不具備が権利抗弁事由であり,第三者対抗要件の具備はそれに対する再抗弁となるため,請求原因事実としては主張・立証は不要である。

 

第2 設問3

 1 ①XA間の法律関係

 (1)XとAは,平成16年9月13日,AB間基本契約に基づく将来の売買によって発生する代金債権を,AからXに譲渡する旨の合意をしている。これは,いわゆる将来債権譲渡担保契約である。

    いわゆる将来債権譲渡担保契約は,法が明示的に認めたものではないため,その有効性が問題となる。

 (2)まず,将来債権は,いまだ発生していない債権であるから,理論上,担保に供することはできないはずである。

    しかしながら,将来債権を担保に供することのニーズは現に存するところであり,特に,そのニーズは主として担保を探求する担保権者にあるのだから,担保権者の負担において未発生の将来債権を担保の目的とすることは許容してよい。

 (3)次に,担保目的物(目的たる権利)としての特定性が問題となるところ,確かに,担保目的物が特定できない場合にも集合債権譲渡担保を認めることになればその担保の範囲をめぐって紛争が生じる可能性があるから許容することはできない。しかし,かかる紛争を防止しうる程度に特定ができていれば,有効な担保活用の見地から許容しうると考える。

    本件においては,AB間の基本契約に基づく一切の売買代金債権が担保の目的とされているため,担保の範囲は明確に画されている。

    よって,特定性はみたす。

 (4)したがって,本件のXA間集合債権譲渡担保設定契約は有効である。

 2 ②について

 (1)XのYに対する請求

   ア 第1回売買代金債権

     Xは,Yに対する保証契約に基づき,AのBに対する500万円の売買代金を請求することが考えられる。これに対してYは,BがZに500万円の弁済をしたことをもって,売買代金債権は消滅したと反論することが予想される。かかるYの反論は認められるか。

     この問題は,債務者対抗要件の具備の問題であるから,Xによる債務者対抗要件の具備と,Bによる弁済の先後によって,Bの弁済の有効性が決せられる。

     本件においては,Xが担保権実行通知をして債務者対抗要件を具備したのは平成17年10月8日であり,Bはそれに先立つ平成17年9月11日にZに対して500万円を弁済している。

     よって,Bの弁済は有効であり,それにより第1回売買代金債権は消滅しているから,XはYに対して,第1回売買代金を請求することはできない。

   イ 第2回・第3回売買代金債権

     Bは未だ第2回・第3回売買代金の支払をしていないところ,Yとしては,Zが第三者対抗要件を備えていることを理由に,Xの請求を拒絶することが予想される。

     この問題は,第三者対抗要件の先後の問題であるから,Xによる第三者対抗要件の具備と,Zによる第三者対抗要件の具備の先後により,Yの反論の当否が決せられる。

     本件においては,確かにZは第2回売買代金債権につき平成17年8月3日に,第3回売買代金債権につき平成17年8月22日に第三者対抗要件を具備しているが,Xはそれに先立つ平成16年9月13日に債権譲渡登記を備えることにより第三者対抗要件を具備している(特例法4Ⅰ)。

     よって,Xの第三者対抗要件の具備が優先し,Yの主張は認められず,XはYに対して,第2回・第3回売買代金の請求をすることができる。

     なお,Xは,Yに対して,第2回・第3回売買代金債権の合計額である2700万円を請求することができるが,自身の有する被担保債権額である2000万円を超える部分については,Aに清算しなければならない。

   ウ 第4回売買代金債権

     Yとしては,第4回売買の目的物に瑕疵があることを理由にBが契約を解除した(商526Ⅱ)ことをもって,第4回売買代金債権は遡及的に消滅していると主張し,Xの請求を拒むことが予想される。

     ここで問題となるのが,Xによる債権譲渡の通知が平成27年10月8日であり,Bによる解除の意思表示が平成17年10月19日であるため,Bの解除は,「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」(民468Ⅱ)にあたらず,B及びYはこれを譲受人たるXに対抗できないではないか,ということである。

     しかしながら,解除原因自体は,第4回売買の目的物の納品時(平成17年9月12日)から存するのであるから,「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」にあたるといえ,B及びYは解除をもってXに対抗することができる。

     なお,Bは,Zに対して第4回売買代金債権の譲渡につき異議なき承諾をしているものの,これは,Xに対してなされたものではないので,Xに対する関係で抗弁権を切断することはない。

     よって,Yによる解除を理由とした請求の拒絶は認められ,結果,XはYに対して第4回売買代金の請求をすることはできない。

 (2)XのZに対する請求

    Xは,Zに対して,第1回売買代金である500万円を不当利得(民法703)として,その返還を請求することが考えられる。

    既に述べたように,Xは,Zによる第三者対抗要件の具備に先立つ平成16年9月13日に第三者対抗要件を具備しているから,XがZに優先することになり,XのZに対する不当利得返還請求それ自体は認められる。

    問題は,ZはAから第1回売買代金債権を450万円で購入しているところ,おくらの範囲でXのYに対する不当利得返還請求権が認められるかである。

    この点,ZがAから第1回売買代金債権を450万円で買受けた事実は,あくまでもZA間の債権契約上の問題にすぎないため,Zの利得は500万円全部であり,XはZに対して,500万円の不当利得返還請求をすることができる。

    なお,XがZから500万円の返還を受け,結果,Xが被担保債権額を超える金員を取得した場合には,Aに対して清算しなければならない。

以上

 

 

 

 


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