原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

最決平成24年3月28日(平成24年重判・商法3)

2013-11-01 | 商法的内容

【事案の概要】

第1 当事者

   申立人(抗告人):Y社の株主であるX1・X2

   相手方(相手方):Y社

第2 事件の経過

 1 Y社は、大証二部に上場しており、同社株式は、株式等の振替に関する法律(以下、「振替法」という)所定の振替株式であった。

 2 Y社は、業績不振であったため、いわゆるスクイーズアウトの方法によって訴外A社の完全子会社となる方針を決定した。

 3 平成21年3月、訴外A社はY社株式の公開買付を実施し、その目的を達したことから、Y社は、同年6月29日、株主総会においてY社普通株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更の決議(以下、「本件定款変更決議」という)をし、取得対価として、1株あたり0.000000588株の割合をもってA種種類株式(残余財産分配請求権につき優先権ある株式)を交付する旨の決議をした。

   なお、定款変更の効力発生日は、同年8月4日とされた。

 4 X1は、定款変更決議に反対する旨の議決権の行使をした。

   X2は、定款変更決議がなされた総会の基準日である平成21年3月31日時点で、保有する株式を第三者に貸し付けており、議決権の行使をしなかった。

  (注)株式を貸し出していたために反対の議決権行使をしていないX2が株式買取請求をすることができるかという論点があるが、本件では判断不要のため、判断されていない。

 5 同年7月11日、X1は、その当時(下部に詳述あり)保有する7万3000株について、X2は、その当時保有する8万7000株について会社法172条1項に基づき、全部取得条項付種類株式の取得価格決定の申立てをした(以下、「<別件>取得価格決定の申立て」という)。

   なお、この点を詳述する。

   総会基準日である同年3月31日の時点で、X1は、5万9000株、全部取得の基準日である同年8月4日の時点で44万1000株を保有していた。X2は、総会基準日である3月31日の時点で2万8000株を第三者に貸し付けており、全部取得の基準日である8月4日の時点で29万5000株を保有していた。

   X1・X2は、<別件>取得価格決定の申立てを行い、これについては、許容されているようである(2353頁以下の「申立理由要旨」参照。おそらく、定款変更決議(6月29日)の時点において、X1が7万3000株を、X2が8万9000株を保有していたのではないかと思われる。そして、その後、X1・X2ともにY社株を買い増したようである)。

 6 同年7月30日、X1は、その当時保有する44万1000株について、Y2は、その当時保有する29万5000株について、会社法116条1項に基づき、公正な価格で買取ることを請求した(以下、「買取請求」という)。

 7 同年8月4日、全部取得の効力が生じ、Y社株は、振替機関による取扱が廃止された。

   X1・X2は、振替法154条3項所定の個別株主通知をしなかった。

   なお、この時点でX1・X2は、Y社普通株式の株主の地位を失った。

 8 同年9月30日、X1・X2は、会社法117条2項に基づき、買取価格の決定の申立てをした(以下、「買取価格決定の申立て」という)。

   本件は、この事件の許可抗告事件である。

 9 Y社は、X1・X2は、個別株主通知をしていないので、買取価格決定の申立ては、不適法であると主張して争った。

【争点】

1 会社法116条1項に基づく株式買取請求を受けた会社が、会社法117条2項に基づく買取価格決定の申立ての審理において、同請求をした者が株主であることを争った場合における、個別株主通知の要否

2 会社法116条1項に基づく株式買取請求をした者が、当該株式を失った場合における会社法117条2項に基づく買取価格決定の申立てをすることができるか

【原審・原々審の判断】

第1 原々審(徳島地裁平成22年3月29日決定)

   棄却

   ∵全部取得条項付種類株式の取得価格決定の申立て(会社法172条1項、事案の概要5)を先に申立てながら、反対株主の株式買取請求(会社法116条1項、事案の概要6)をすることは相矛盾する行為であり、前者を先にした以上、もはや後者の申立てはできない。

第2 原審(高松高裁平成22年12月8日)

   却下

   ∵X1・X2の申立てに係るY社普通株式は、8月4日の効力発生の時点で全てY社が取得したのであって、X1・X2は、普通株式の株主たる地位を失った。これにより、X1・X2は、申立適格を失った。

【決定要旨】

第1 主文内容

   棄却

第2 決定要旨

 1 振替株式について株式買取請求を受けた会社が、同請求をした者が株主であることを争った場合、その審理終結の時までに個別株主通知がされていることを要する(最高裁平成22年(許)第9号同年12月7日第三小法廷決定)。この理は、振替株式について買取請求をされた会社が同請求をした者が株主であることを争った時点で既に振替機関の取扱廃止がされていた場合であっても異ならない。

   よって、個別株主通知を欠く本件申立ては、不適法である。

   ∵会社としては、個別株主通知以外の方法によって株主であるかどうかの判断をする方法はなく、また、株主としても振替機関の取扱廃止を予見し速やかに個別株主通知をすることができるから、株主を害することにもならない。

 2 会社法116条に基づく買取請求をした者が、当該株式を失った場合には、会社法117条2項に基づく買取価格決定の申立てをすることはできない。

   ∵株式買取請求の効果は、その代金支払いの時に生ずる(会社法117条5項)。他方、全部取得条項付種類株式の取得の効果は、取得日の到来によって生ずる(会社法173条1項)。そうすると、本件では、8月4日に全部取得条項付種類株式の取得の効果が発生しており、その時点でX1・X2は、株主たる地位を失ったので、買取価格決定の申立適格を欠くに至った。

   *会社法172条1項の趣旨は取得対価に不満のある株主の保護で、会社法116条1項の趣旨は会社からの退出の機会の保障であるから、取得価格決定の申立て(会社法172条1項)をしたからといって、直ちに株式買取請求(会社法116条1項)が不適法となるわけではない。

【判決の射程・意義】

第1 最決平成22年12月7日

   上記事件は、会社法172条1項に基づく、全部取得条項付種類株式の取得価格決定申立事件であった。そして、この事件では、株主が同申立てをし、会社が同請求者が株主であることを争った時点においては、個別株主通知をすることが可能であった事件である。

   最高裁は、同申立事件の審理の終結までに個別株主通知をしない場合には、株主には申立適格なしと判断した。

第2 本決定の意義

   本決定は、会社法第116条1項に基づく、反対株主の株式買取請求でも、審理終結までの間に個別株主通知が必要であるとした点に意義がある。

   また、振替株式について株式買取請求をした者が株主であることを争った時点で既に株式について振替機関の取扱が廃止されていたとしても、それ以前に個別株主通知をしておく必要があると明言した点にも意義がある。…(*)

   さらに、全部取得条項付種類株式の取得価格決定の申立て(会社法172条1項)と反対株主の株式買取請求(会社法116条1項)は併存しうるという点も、最高裁としての初めての判断である。 

 (*)…振替機関の取扱が廃止された場合には、会社法の原則に戻って、株主資格の確定は名簿書換を対抗要件とするとの考え方もありうるが、本決定は、あくまでも個別株主通知が必要であるとした。そうすると、個別株主通知が可能なタイミングはかなり限られてしまうことになるから、この点については、法改正が検討されているようである。

【関連事項等】

第1 株式振替制度と株主の権利行使

 1 総論

   平成21年1月に、「社債、株式等の振替に関する法律」(振替法)が成立したことにより、上場会社は全て同制度に参加し、株券を廃止した。

 2 振替株式の権利行使の方法

   振替株式については、株式の譲渡のたびに株主名簿の名義書換が行われるわけではなく、会社は、以下の振替機関(株式会社証券保管振替機構。いわゆる「ほふり」)による通知に基づいて、株主を確定する。

 (1)総株主通知(振替法151条1項)

    会社が株主総会の開催や剰余金の配当を行うため、権利行使者を決めるための一定の日(会社法124条の基準日や会社法180条2項2号の効力発生日)を定めたときは、振替機関は会社に対し、当該一定の日の振替口座簿に記載された株主の氏名等を速やかに通知しなくてはならない。

    総株主通知を受けた会社は、通知事項を株主名簿に記載・記録する。これにより、当該一定の日に株主名簿の名義書換がされたとみなして(振替法152条1項)、株主の権利行使が行われる。

 (2)個別株主通知

    株主が会社に対して少数株主権等(振替法147条4項参照)を行使しようとするときは、自己が口座を有する口座管理機関(証券会社)を通じて振替機関(ほふり)に申出をすることにより、保有振替株式の種類・数等を会社に通知してもらうことができる(振替法154条3項~5項)。

    この場合、当該株主は株主名簿の記載にかかわりなく(振替法154条1項)、当該通知の後4週間以内に少数株主権等を行使できる(振替法154条2項、同法施行令40条)。

 *株主名簿への記載は、株主たる地位の会社への対抗要件である(会社法130条1項)。振替株式発行会社ではない通常の株式会社の場合、株主名簿の書換えは随時行われるが、振替株式発行会社の場合、総株主通知(年2回)が名義書換のタイミングとなり、いわば「書換え空白期間」が生ずる。そこで、振替法は、株主が少数株主権を行使する際に、株主たる地位を会社に示す個別株主通知制度を創設した。個別株主通知は、名簿書換と同じく、株主たる地位の会社への対抗要件であると一般に解されている。

<振替法>

(総株主通知)

第百五十一条  振替機関は、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、発行者に対し、当該各号に定める株主につき、氏名又は名称及び住所並びに当該株主の有する当該発行者が発行する振替株式の銘柄及び数その他主務省令で定める事項(以下この条及び次条において「通知事項」という。)を速やかに通知しなければならない。

 発行者が基準日を定めたとき。 その日の株主

二以下 (略)

(株主名簿の名義書換に関する会社法 の特例)

第百五十二条  発行者は、前条第一項(同条第八項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の通知を受けた場合には、株主名簿に通知事項及び同条第三項(同条第八項において準用する場合を含む。)の規定により示された事項のうち主務省令で定めるもの並びに同条第五項(同条第八項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定により示された事項を記載し、又は記録しなければならない。この場合において、同条第一項各号に定める日に会社法第百三十条第一項 の規定による記載又は記録がされたものとみなす。

2以下 (略)

(少数株主権等の行使に関する会社法 の特例)

第百五十四条  振替株式についての少数株主権等の行使については、会社法第百三十条第一項 の規定は、適用しない。

 前項の振替株式についての少数株主権等は、次項の通知がされた後政令で定める期間が経過する日までの間でなければ、行使することができない。

 振替機関は、特定の銘柄の振替株式について自己又は下位機関の加入者からの申出があった場合には、遅滞なく、当該振替株式の発行者に対し、当該加入者の氏名又は名称及び住所並びに次に掲げる事項その他主務省令で定める事項の通知をしなければならない。

 当該加入者の口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式(当該加入者が第百五十一条第二項第一号の申出をしたものを除く。)の数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項

 当該加入者が他の加入者の口座における特別株主である場合には、当該口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該特別株主についてのものの数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項

 当該加入者が他の加入者の口座の質権欄に株主として記載又は記録がされた者である場合には、当該質権欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該株主についてのものの数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項

 加入者は、前項の申出をするには、その直近上位機関を経由してしなければならない。

 第百五十一条第五項及び第六項の規定は、第三項の通知について準用する。この場合において、同条第六項中「第三項及び前項」とあるのは、「前項」と読み替えるものとする。

第2 スクイーズアウトについて

 1 二段階買収

   買収者が、被買収会社の株式の全部取得を目指す場合、まず、公開買付(TOB)によって被買収会社の支配権を取得できるだけの株式を取得し、その後に別の方法(株式交換等)で未取得株式を取得することにより、被買収会社を完全子会社化する買収方法。

 2 スクイーズアウト

   二段階買収を行う際の二段階目の手続。買収者がTOBにより、支配権を行使しうるだけの被買収会社株式を取得した後、被買収会社の普通株式を全部取得条項付株式に変更した上で、これを被買収会社が全部取得し、その対価として小規模株主には別の種類の株式の端株を交付することによって、既存小規模株主を締め出し、完全子会社化する方法。

   なお、端株の交付に代えて、株式競売代金を交付することもできる(会社法234条1項2号)。ちなみに、二段階目の手続において、株式交換ではなく全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトを採用するメリットは、税制上の点にある。株式交換は非適格組織再編とされ、株式交換完全子会社(被買収会社)が一定の資産について評価替えを強制され、評価益に課税されてしまう(法人税法62条の9)。

第3 全部取得条項付種類株式の取得と少数派株主の保護

 1 普通株式を全部取得条項付種類株式(会社法108条1項7号)として取得するには、①普通株式を全部取得条項付種類株式に変更する定款変更決議がなされたうえで、②その全部取得条項付種類株式を会社が取得する決議(会社法171条1項)が必要である。

   上記①と②は、別々のタイミングで行うこともできるが、通常、本件のように同時に行って少数派株主を締め出す。

 2 締め出される株主で、異議あるものは、①定款変更決議の反対株主として株式買取請求をする(会社法116条1項2号、事案の概要6)、②取得決議の取得価格に不満を申立て取得価格決定の申立てをする(会社法172条1項、事案の概要5)ことができる。

 3 原々審は、上記2②を先に申立てていたX1・X2が上記2①をすることは相矛盾するため不適法としたが、本決定は、傍論ではあるが、それぞれ趣旨が異なるため不適法ではないとした。

 4 もっとも、全部取得条項付種類株式を発行する旨の定款変更決議に対して株式買取請求がされた場合、買取の効力は代金支払時に発生する(会社法117条5項)。そのため、買取代金支払前に株式取得が実行されると、株主の手元から株式が失われることになり、もはや株式買取請求もその後の買取価格決定の申立てもできないことになる。すなわち、会社法116条1項は、実際上機能しない場面が多いことになる。

   この不備については、法改正の方向で議論が進んでいるようである。

<会社法>

(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)

第百七十一条  全部取得条項付種類株式(第百八条第一項第七号に掲げる事項についての定めがある種類の株式をいう。以下この款において同じ。)を発行した種類株式発行会社は、株主総会の決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる。この場合においては、当該株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

 全部取得条項付種類株式を取得するのと引換えに金銭等を交付するときは、当該金銭等(以下この条において「取得対価」という。)についての次に掲げる事項

 当該取得対価が当該株式会社の株式であるときは、当該株式の種類及び種類ごとの数又はその数の算定方法

~ホ(略)

 前号に規定する場合には、全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項

 株式会社が全部取得条項付種類株式を取得する日(以下この款において「取得日」という。)

(略)

(略)

(裁判所に対する価格の決定の申立て)

第百七十二条  前条第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、次に掲げる株主は、同項の株主総会の日から二十日以内に、裁判所に対し、株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをすることができる。

 当該株主総会に先立って当該株式会社による全部取得条項付種類株式の取得に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該取得に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

(略)

 (略)

 *取得価格決定の申立てを行うためには、会社法171条1項の決議をする株主総会の時に株主であり、取得価格の決定の申立て(株主総会の日から20日以内)をする際にも株主である必要がある。

【参考文献】

 ・平成24年度「重判・商法3事件」(有斐閣)

 ・ウエストロージャパン 新判例解説 第949号 など


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