すると節は、「千吉さんの本心を聞いて欲しい」。甘えてくるかのように上目遣いに美代を見据える。
(千吉とやらも難儀な)。
そう言えばこの三人、宵越しの四方山話で節は、「あたしゃあ、寂しい。若い男と暮らしたい」。竹は、「好いている男がいるが、どうにも根付けの趣味が気になって」。そんなことを言っていたのを思い出していた。
聞いてみれば、竹の根付けの男は竹を好いている訳でも、言い交わした訳でもないらしい。「だったら根付けの心配よりも先があるだろうに」。美代は二人のお気楽振りに呆気に取られたのだった。
美代は渋々ながらも承諾し、家の食い物がなくならないうちに三人を返すのだった。
「あんたが千吉さんかい」。
千吉は、由造に伴われて美代の家の座敷に上がっていた。美代は川瀬石町でも有名な美人で、美代も知らない者はいないくらいだが、千吉は知っていても美代は千吉を見るのは初めてだった。
「まあ、年増に好かれそうな顔付きだね」。
千吉は年の割には幼く見える。何よりおっとりとした物言いが好感を持てるのだった。
「あたしにどんな御用でしょう」。
美代が古手を欲しがるとは思えず、何が何やら解らぬ千吉。由造もそれは同じだった。
由造は美代から呼び出され、「川瀬石町の千屋って知っているかい」と聞かれたことから、千吉を伴っていたのだった。
「ああ、そうだねえ」。
美代は気怠い仕草で煙管に火を付けると、
「お節さんのことさ」。
節の名を耳にして、千吉の顔色が変わるのは一目瞭然だった。このところ千吉は節のことで大層心を痛めていたのだ。
(やはりお節さんの一人相撲のようだねえ)。
美代は直感したが、約束どおりに千吉に節への思いを聞いてみた。
「あたしは、お節さんを好いているなんぜ一遍足り共言ったことはありゃしません。言うどころか思ったことさえない。どこかでそんな素振りをしちまっていたんでしょうか」。
すると美代は笑いながら、
「最初からそうだと思ってたよ。でもね、お節さんが後生だから千吉さんに気持ちを確かめてくれって言うんで聞いたまでさ。まあ、お節さんがあの年でも器量良しならなきにしも非ずだけど、まさかねえ」。
「しかし、なんでまたお節さんは千吉が己を好いているなんて思ったんですかね」。
由造がそう言うと、
「ほれ、覚えてるかい。何時ぞやあたしの許嫁だって言う鶴二の仲人を買って出たお武家様」。
節と同じ長屋の住人の濱部主善である。
「濱部様ですかい」。
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(千吉とやらも難儀な)。
そう言えばこの三人、宵越しの四方山話で節は、「あたしゃあ、寂しい。若い男と暮らしたい」。竹は、「好いている男がいるが、どうにも根付けの趣味が気になって」。そんなことを言っていたのを思い出していた。
聞いてみれば、竹の根付けの男は竹を好いている訳でも、言い交わした訳でもないらしい。「だったら根付けの心配よりも先があるだろうに」。美代は二人のお気楽振りに呆気に取られたのだった。
美代は渋々ながらも承諾し、家の食い物がなくならないうちに三人を返すのだった。
「あんたが千吉さんかい」。
千吉は、由造に伴われて美代の家の座敷に上がっていた。美代は川瀬石町でも有名な美人で、美代も知らない者はいないくらいだが、千吉は知っていても美代は千吉を見るのは初めてだった。
「まあ、年増に好かれそうな顔付きだね」。
千吉は年の割には幼く見える。何よりおっとりとした物言いが好感を持てるのだった。
「あたしにどんな御用でしょう」。
美代が古手を欲しがるとは思えず、何が何やら解らぬ千吉。由造もそれは同じだった。
由造は美代から呼び出され、「川瀬石町の千屋って知っているかい」と聞かれたことから、千吉を伴っていたのだった。
「ああ、そうだねえ」。
美代は気怠い仕草で煙管に火を付けると、
「お節さんのことさ」。
節の名を耳にして、千吉の顔色が変わるのは一目瞭然だった。このところ千吉は節のことで大層心を痛めていたのだ。
(やはりお節さんの一人相撲のようだねえ)。
美代は直感したが、約束どおりに千吉に節への思いを聞いてみた。
「あたしは、お節さんを好いているなんぜ一遍足り共言ったことはありゃしません。言うどころか思ったことさえない。どこかでそんな素振りをしちまっていたんでしょうか」。
すると美代は笑いながら、
「最初からそうだと思ってたよ。でもね、お節さんが後生だから千吉さんに気持ちを確かめてくれって言うんで聞いたまでさ。まあ、お節さんがあの年でも器量良しならなきにしも非ずだけど、まさかねえ」。
「しかし、なんでまたお節さんは千吉が己を好いているなんて思ったんですかね」。
由造がそう言うと、
「ほれ、覚えてるかい。何時ぞやあたしの許嫁だって言う鶴二の仲人を買って出たお武家様」。
節と同じ長屋の住人の濱部主善である。
「濱部様ですかい」。
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