大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

のしゃばりお紺の読売余話12

2014年11月09日 | のしゃばりお紺の読売余話
 「また、お前ぇさんかい」。
 お町の住まいを覗き込んでいると、後ろから声がする。振り向けばあの時の豆だ。
 「いってえ何だってのよ」。
 豆、いや太助だそうその男は、お町とおえんの喧嘩騒動の折りにも、住まいを覗き込むお紺を見咎めていたのだった。
 「いえね。お町ちゃんはどうして居るかなと思いましてね」。
 「へっ、お前ぇさん、お嬢さんの知り合いで」。
 「えっ、ええ。昔手習いが一緒だったのですが、あたしが引っ越しちまいましてね。久方振りに深川に足を運んだので、お町ちゃんを思い出したのですよ」。
 つい先日も居た。
 「へえっ。だったら入えったら良いじゃねえですかい」。
 どうやら豆いや太助には幼友だちと言う言葉の印象が強いようで固い態度を和らげる。
 「ええっ、でも本当に久方振りなので、お町ちゃんが覚えているかなぁと思いましてね」。
 「それでこの前ぇも覗込んでいなすったのけ」。
 「はい。それにこの間は取り込み中でしたし」。
 お紺はちらりと太助の顔を覗き込む。その視線を感じた太助は人差し指で鼻の下を擦るのだった。
 「まあ、入えんなよ」。
 入れる訳がない。よしんばお町が忘れていると取り繕ったとしても共通する思い出なんかありゃしないのだ。手習いの師匠の名前だって分かりゃしない。
 「そうですが…。やっぱり出直しますよ」。
 これじゃあ不信者である。





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