大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

のしゃばりお紺の読売余話9

2014年11月03日 | のしゃばりお紺の読売余話
 「悪いけど、あたいの話を聞いちゃくれないかい」。
 (そうこなくっちゃ。聞きますと、聞かせてくおくれな。聞かなきゃ夜も落ち問い眠れない)。
 もはや読売はどこへやら、この金棒引きっぷりが、お紺がのしゃばりと言われる所以である。
 おえんの話は概ねは見たとおりで、夫婦約束をした太助に、頭の娘との縁組みが持ち上がると、そちらに寝返ったというものだった。
 (やっぱりね。男なんて所詮そんなものだ。待てよ、女だって棒手振りと大店の跡継ぎだったら、天秤は大店に傾こうってもんだ)。
 お紺だったら、傾き過ぎて引きちぎれる程だろう。
 「それで、太助さんってえお人は何と言っていなさるんです」。
 「あたいとは所帯は持てないって」。
 「んっまあっ。だって所帯を持とうって言ってなすったんでしょ」。
 おえんの目からほろほろと涙が零れ落ちるが、一向に構わずに鼻を啜り上げるのだった。
 「それは、お町さんと言い交わす前の話だと言うのさ」。
 「前の話…」。
 事の成り行きが若干の狂いを生じ、お紺は思わず前のめりに身を屈め、おえんを覗き込む。
 「なら、おえんさんとは切れて、それからお町さんと」。
 「うえーん」と、おえんが盛大に鳴き声を上げ、その声は長屋中を吹き飛ばすのじゃないかと思える程だ。
 「だって、だって…」。
 声に成らない。
 「ゆっくりとお言いなまし」。
 「あたい、あたい…」。
 「はい」。
 「あたいは、太助さんが、所帯を持つのは暫くまっとくれって言うから…」。
 「だから待っていたのでしょ」。
 おえんは、こくりと頷く。
 「おえんさんを待たせておいて、お町さんにちょっかいを出した。万が一お町さんと巧くいかなかったら、おえんさんに戻る気ずもりだったんですよ。そんな情のない男、熨斗を付けてあげてしまいないさいまし」。
 会った事も見た事もない太助に、お紺は腹立たしさを覚えていた。




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