「悪いけど、あたいの話を聞いちゃくれないかい」。
(そうこなくっちゃ。聞きますと、聞かせてくおくれな。聞かなきゃ夜も落ち問い眠れない)。
もはや読売はどこへやら、この金棒引きっぷりが、お紺がのしゃばりと言われる所以である。
おえんの話は概ねは見たとおりで、夫婦約束をした太助に、頭の娘との縁組みが持ち上がると、そちらに寝返ったというものだった。
(やっぱりね。男なんて所詮そんなものだ。待てよ、女だって棒手振りと大店の跡継ぎだったら、天秤は大店に傾こうってもんだ)。
お紺だったら、傾き過ぎて引きちぎれる程だろう。
「それで、太助さんってえお人は何と言っていなさるんです」。
「あたいとは所帯は持てないって」。
「んっまあっ。だって所帯を持とうって言ってなすったんでしょ」。
おえんの目からほろほろと涙が零れ落ちるが、一向に構わずに鼻を啜り上げるのだった。
「それは、お町さんと言い交わす前の話だと言うのさ」。
「前の話…」。
事の成り行きが若干の狂いを生じ、お紺は思わず前のめりに身を屈め、おえんを覗き込む。
「なら、おえんさんとは切れて、それからお町さんと」。
「うえーん」と、おえんが盛大に鳴き声を上げ、その声は長屋中を吹き飛ばすのじゃないかと思える程だ。
「だって、だって…」。
声に成らない。
「ゆっくりとお言いなまし」。
「あたい、あたい…」。
「はい」。
「あたいは、太助さんが、所帯を持つのは暫くまっとくれって言うから…」。
「だから待っていたのでしょ」。
おえんは、こくりと頷く。
「おえんさんを待たせておいて、お町さんにちょっかいを出した。万が一お町さんと巧くいかなかったら、おえんさんに戻る気ずもりだったんですよ。そんな情のない男、熨斗を付けてあげてしまいないさいまし」。
会った事も見た事もない太助に、お紺は腹立たしさを覚えていた。
ランキングに参加しています。ご協力お願いします。
にほんブログ村
(そうこなくっちゃ。聞きますと、聞かせてくおくれな。聞かなきゃ夜も落ち問い眠れない)。
もはや読売はどこへやら、この金棒引きっぷりが、お紺がのしゃばりと言われる所以である。
おえんの話は概ねは見たとおりで、夫婦約束をした太助に、頭の娘との縁組みが持ち上がると、そちらに寝返ったというものだった。
(やっぱりね。男なんて所詮そんなものだ。待てよ、女だって棒手振りと大店の跡継ぎだったら、天秤は大店に傾こうってもんだ)。
お紺だったら、傾き過ぎて引きちぎれる程だろう。
「それで、太助さんってえお人は何と言っていなさるんです」。
「あたいとは所帯は持てないって」。
「んっまあっ。だって所帯を持とうって言ってなすったんでしょ」。
おえんの目からほろほろと涙が零れ落ちるが、一向に構わずに鼻を啜り上げるのだった。
「それは、お町さんと言い交わす前の話だと言うのさ」。
「前の話…」。
事の成り行きが若干の狂いを生じ、お紺は思わず前のめりに身を屈め、おえんを覗き込む。
「なら、おえんさんとは切れて、それからお町さんと」。
「うえーん」と、おえんが盛大に鳴き声を上げ、その声は長屋中を吹き飛ばすのじゃないかと思える程だ。
「だって、だって…」。
声に成らない。
「ゆっくりとお言いなまし」。
「あたい、あたい…」。
「はい」。
「あたいは、太助さんが、所帯を持つのは暫くまっとくれって言うから…」。
「だから待っていたのでしょ」。
おえんは、こくりと頷く。
「おえんさんを待たせておいて、お町さんにちょっかいを出した。万が一お町さんと巧くいかなかったら、おえんさんに戻る気ずもりだったんですよ。そんな情のない男、熨斗を付けてあげてしまいないさいまし」。
会った事も見た事もない太助に、お紺は腹立たしさを覚えていた。
ランキングに参加しています。ご協力お願いします。
にほんブログ村