大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

ひじ傘雨 第七章 11

2013年05月07日 | ひじ傘雨
 「馬鹿だな。記事にしてください。はいそうですか。とはいかないさ。それに、相手は役人だ。新聞だって損得を考える」。
 「どっちが馬鹿だ宗太郎。新聞とは真実を載せるものだろう」。
 「世の中、それほど甘かないのさ」。
 黙れと、瑾英、宗太郎の頭に拳骨が落ちる。
 「喜之助さん、言い辛いが、宗太郎の伝手でその華族を落としたところで、颯太の恨みとは別の事になってしまいます。新聞は、やはり上から押さえ込まれればお終い。ここはひとつ我らのやり方で如何でしょう」。
 今さっきの牛鬼の様変わりを見た筈。あのような化物に人が食い殺される事を、意図も容易く言い放つ直明に対し、驚きを隠せない喜之助だった。
 「ですが、生きながら食われるのは、御坊様としてお許しになられて宜しいのでしょうか」。
 「旦那さん安堵ください。言葉の綾にございます。晃仙さんは多少、いえ相当に口が悪いのです」。
 瑾英は直明をひと睨みする。ふっと片方の口を上げ、笑みを見せる直明のよこで、
 「真に嫌な物言いにございまする。幾らわらわとて、もはや人を食い殺したりなぞ致しませぬ。第一、血なまぐさくて適いませぬ」。
 口を尖らせた牛鬼に、えっといった表情を送る直明と瑾英だった。
 「あのさ、上総屋さんは何を言っているのだい」。
 事情を知らぬ宗太郎は、きょとんとするが、それが剣呑な話し合いの場を和ませるのだった。
 「瑾英、教えておくれな。人を食い殺すって何の事だい」。
 「聞き違えたのではないか宗太郎。上総屋の旦那さんは、人を食ったような話とおっしゃったのだ」。
 宗太郎、至って単純なれば扱い易い。だが、やはりと言うか当然、気が付いた。
 「そうかな。生きながらって聞こえたような気がしたんだけどな」。
 しきりに頭を捻る宗太郎。
 「宗太郎、お前の方もえげれすの領事とかに話を進めておけ」。
 「はい。兄様」。
 直明に頼りにされたと、満面の笑みを浮かべると、既に剣呑な話は頭から消えたようであった。



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