「親方、親方」。
「なんでえ、騒がしい。また新吉かい」。
善兵衛が連れて行かれたのは、永富町の表長屋の平造宅である。夜もふけ、寝支度の平造が木戸を開けると、新吉と安治に両脇を抱えられた善兵衛がいた。
「こりゃあ、善兵衛さんじゃねえかい。どうしたこったい、おい新吉。お前さん、また呑ませすぎたな」。
「へえ。どうにも」。
と新吉は頭を掻く。すべてを察した平造は、
「言い訳は明日だ。今夜は早く寝な。おい安治、布団のを用意しな」。
「へい」。
「親方、あっしも、その、こんな時間ですし」。
新吉も上がり込んだ。
翌朝、善兵衛がを覚ますと、見慣れない天井が目に入った。
「どうしたんだ。昨晩は新吉さんに誘われて…縄のれんをくぐり…」。
記憶をつなげていく善兵衛。重い頭を枕から引き離すようにもたげ、辺りを見渡すと、これまた見慣れない若い衆が寝乱れているではないか。
すぐ横には、布団からはだけた新吉も。
「そうだ。すっかり酔ってしまって、縄のれんを出てから、わたしはどうしたのだ」。
つなげていった記憶も店を出たところで途絶えたが、察するに、酔いつぶれて新吉と安治に連れて来られたのだろう。
「しかし、ここはいったいどこだ」。
すると、階下から若い女が、
「ほら、みんな早く食べちゃっておくれ。お膳が片付かなくていけないや」。
と朝餉を告げた。正に鶴の一声。威勢のいい声は、二日酔いの善兵衛の頭に響く。今のいままでぐっすり眠っていた若い衆が、寝ぼけ眼でもぞもぞと布団から這い出し、何かに引き付けられるように、階段を下る。
「ほら、そのまんまで、箸を持つんじゃないよ。顔洗っておいでよ」。
若い衆の後尾から顔を出した善兵衛に気付くと、その声の主は、一瞬あれっとい顔をしたが、こんな急な客人にも慣れているのだろう。
「そこのあんたもさ」。
と善兵衛にも声をかけた。
「なんでえ、騒がしい。また新吉かい」。
善兵衛が連れて行かれたのは、永富町の表長屋の平造宅である。夜もふけ、寝支度の平造が木戸を開けると、新吉と安治に両脇を抱えられた善兵衛がいた。
「こりゃあ、善兵衛さんじゃねえかい。どうしたこったい、おい新吉。お前さん、また呑ませすぎたな」。
「へえ。どうにも」。
と新吉は頭を掻く。すべてを察した平造は、
「言い訳は明日だ。今夜は早く寝な。おい安治、布団のを用意しな」。
「へい」。
「親方、あっしも、その、こんな時間ですし」。
新吉も上がり込んだ。
翌朝、善兵衛がを覚ますと、見慣れない天井が目に入った。
「どうしたんだ。昨晩は新吉さんに誘われて…縄のれんをくぐり…」。
記憶をつなげていく善兵衛。重い頭を枕から引き離すようにもたげ、辺りを見渡すと、これまた見慣れない若い衆が寝乱れているではないか。
すぐ横には、布団からはだけた新吉も。
「そうだ。すっかり酔ってしまって、縄のれんを出てから、わたしはどうしたのだ」。
つなげていった記憶も店を出たところで途絶えたが、察するに、酔いつぶれて新吉と安治に連れて来られたのだろう。
「しかし、ここはいったいどこだ」。
すると、階下から若い女が、
「ほら、みんな早く食べちゃっておくれ。お膳が片付かなくていけないや」。
と朝餉を告げた。正に鶴の一声。威勢のいい声は、二日酔いの善兵衛の頭に響く。今のいままでぐっすり眠っていた若い衆が、寝ぼけ眼でもぞもぞと布団から這い出し、何かに引き付けられるように、階段を下る。
「ほら、そのまんまで、箸を持つんじゃないよ。顔洗っておいでよ」。
若い衆の後尾から顔を出した善兵衛に気付くと、その声の主は、一瞬あれっとい顔をしたが、こんな急な客人にも慣れているのだろう。
「そこのあんたもさ」。
と善兵衛にも声をかけた。