どうして、こんなに悲しいお別れが続くのだろう・・・・・・・
今から17年前の2003年、出演していたTBS「はなまるマーケット」のディレクターから一冊の本を渡され、こう言われました。
「今度の特集はその人に美容法を習います。なんでも化粧品のクリスチャンディオールを定年した後、自宅でプライベートエステサロンをやっていて予約は半年待ちだそうですよ。60歳にして初めて本を出版したとのことで、テレビにはまだ出たことがなくて慣れていないだろうから、上手に話を聞き出してくださいね。」
その本のタイトルは「佐伯チズの頼るな化粧品!顔を洗うのをおやめなさい」といいました。
私はそれまでも、数多くの美容家や大手化粧品メーカーの開発者、美容皮膚科の医師などに美容法を取材していましたが、当時は皆口々に「ダブル洗顔」つまりクレンジング剤で化粧を落とした後、石けんでもう一度洗う事を推奨していました。
また多くの女性は、化粧品は高価であればあるほど効き目が期待できると信じていました。
そんなときに、いきなり「化粧品に頼るな!」「顔を洗うのを辞めろ!」というこのタイトルは衝撃的で、私は正直「おやおや、また過激なことを言う美容家が現われたこと・・・」と、少し冷めた気分でロケに向かいました。
ところが、初めてお会いした佐伯チズさんの肌を見て、度肝を抜かれたのです。
・・・なんて綺麗な肌なんだろう!本当にこの方60歳!?
しかも佐伯さんはニコニコと「触ってみて」とおっしゃいます。おそるおそる頬を触らせていただくと、
うわ~!フワフワでやわらかい!赤ちゃんのホッペタみたい!!
ロケでは、水で絞ったコットンに化粧水をしみこませて、湿布のように顔に貼り付けるローションパックのやり方や、
「高価な化粧品を買っても、使い方を間違えると効果が無い。続けてつけても、ただ顔の上でまぜこぜになってヌルヌルするだけ!そうではなくローションパックを3分やって肌への道筋をつけて、美容液で肌の奥まで成分が届くのを3分待って、乳液かクリームで蓋をして3分」などと教わりました。
でも私は正直 心の中で「毎回ローションパックするなんてめんどくさいな・・・」
「いちいち3分待つなんて、忙しい朝にできないよ・・・」と思っていたのです。
ロケが終わって、帰ろうとしたとき佐伯さんがこうおっしゃいました。
「庄司さん、ご挨拶代わりに、私にトリートメントさせていただけませんか?」
「あら!それはラッキー」とばかりに私は、一人残ってリビングの横のプライベートサロンで、佐伯さんのエステを受けることになりました。
フェイシャルマッサージを受けた佐伯さんの手は、それはそれはやわらかくてふっくらモチモチと吸い付いてきます。
あ~なんて気持ちがいいんだろう・・うっとりしちゃう・・・・・
「はい、庄司さん、終わりましたよ」という声で我に返り、差し出された鏡で自分の顔を見た時の衝撃を私ははっきり覚えています。
当時41歳だった私は思わずこう叫んだのです。
「佐伯さん!!私10年前こんな顔していたんですっ!!
鏡の中の私は、目も頬も上がりあごもとんがって、そこにはすっかり忘れていた昔の自分の顔がありました!
「すごいっ!すごすぎる!これがゴッドハンドというものなのか・・・・!」
「お願いです、私も佐伯さんのエステサロンの順番待ちに加えてください!
半年待ちだと伺っていますがそれでもいいです、予約させてください」
すると佐伯さんはいたずらっぽくニカッと笑ってこう言いました。
「庄司さん、エステで1ヶ月に一度人にやってもらうより、毎日自分でやるのよ!」
その日から、私はダブル洗顔をやめて、毎朝毎晩ローションパックをし、美容液やクリームをつけた後はそれぞれ3分間佐伯さんに習ったマッサージをやりました。
当時私は肌荒れに悩んでいて、若い頃にはほとんどできなかった大きなニキビが次々とできたり、細かい湿疹状のブツブツが出たりして、それをかくすため、どうらんのような濃い練り状のファンデーションの上にパウダーファンデーションを重ね塗りするなど厚化粧でごまかしていたのですが、佐伯さんの言いつけを守って手入れするとみるみると肌の調子が良くなっていきました。
ロケから一週間後の生放送では、「佐伯チズさんの言いつけを守ってお手入れをしたら、本当に肌がキレイになりました!皆さん、面倒だと思わずにローションパック、是非やってみてください!!」と、ついつい力が入ったリポートとなりました。
それ以来私は、佐伯チズさんを、「佐伯先生」と呼ぶようになりました。
私にとっては、肌のお手入れを教えてくださる先生だから・・・・
だけど佐伯先生に教えていただいたのは、「肌の手入れの仕方」だけではありませんでした。
「はなまるマーケット」で初のテレビ出演を果たされてから、あれよあれよという間に女性から圧倒的な支持を集めていった佐伯先生。
乳製品大手メーカーのヨーグルトのTVコマーシャルにも起用され、その販促イベントとして、都内の大規模商業施設でトークショーが行われることになり、私が司会をすることになりました。
会場は吹き抜けのオープンスペースで、トークショーは昼と午後の2回行われ、それぞれ先着100名の方には特設会場の椅子に座って聴いていただくことになっていました。
お昼前に私たちがその商業施設に行くと、乳業メーカー、大手広告代理店の担当者、商業施設の店長さんなどが出迎えてくれました。
聞くところによると、開店前からお客さまが行列を作って下さり、用意された整理券はあっという間に無くなったということで、関係者一同ほくほく顔でした。
一回目のトークショーの前に、控え室で打ち合わせをした時です。広告代理店の担当者が司会の私にこう言いました。
「あ、その台本にある『本日、ヨーグルトを2パックお買い上げの皆さんに、佐伯チズさん考案の特性保冷バックをプレゼントいたします』の部分ですが、ちょっとした手違いで、まだそのノベルティグッズが届いていないんです。
午後の回までには届きますが、お昼の回には間に合わないので、お昼はその部分アナウンスしないで下さい。
いやなに、そんなプレゼントなんか無くてもお客様は佐伯さんの姿を見られればそれで満足ですよ~」・・・・
すると、隣で聞いていた佐伯先生が、こうおっしゃったのです。
「つまり、お昼の回のお客様にはプレゼントがなく、午後の回のお客様にはプレゼントがあるということですよね。
それは、お客様に差をつけるということで、一番やってはいけないことです!
また、『予定していたプレゼントなんて無くてもいい』なんて、お客様に対して誠意がないじゃないですか、
あなたは自分の仕事に責任感がなさすぎです!」と・・・。
「しかし、届かないのでは仕方がありません・・・」と取りなす商業施設の店長さんに、佐伯先生は
「すぐに引換券を作って下さい。手描きでいいから、それをコピーして判子でも押せばすぐにできるでしょ。
お昼の回のお客様には、ちゃんと事情を説明して、お詫びしてそれを配るんです。
そうすれば、そのお客様達はきっとヨーグルトを2パック買って下さるでしょうし、
ノベルティグッズが届くまで店内で買い物したり、また改めて明日来て下さったりするはずです。」とおっしゃいました。
私は感動しました。
さすが、クリスチャンディオールで長年、販売スタッフの教育係をなさってきた方です。
ひとりひとりのお客様と誠実に向き合うこと、会場に来て下さったお客様に少しでも喜んでもらえることを何より大切にして、
そして「一人でも多くの方にキレイになっていただきたい」という信念をお持ちでした。
もちろんトークショーは2回とも大盛況で、ヨーグルトは早々に完売しました。
それからも、ご自宅にご招待いただき手料理をごちそうになったり、山形や佐賀や鹿児島に一緒に旅行に行ったりと
公私共々仲良くして下さった佐伯先生は、私に多くのことを教えて下さいました。
「信念を持って誠実に仕事をしていれば、きっと誰かが見ていてくれる」
「いくつになっても夢を実現することはできる」
「苦境に立たされてもあきらめない」」
他にも、いっぱいいっぱいいっぱい・・・・・
「体当たりリポーター庄司麻由里のへのカッパ」を出版したとき、なかなか本屋さんに並べてもらえない事を嘆いたら、
佐伯先生はすぐに「私が帯に推薦コメントを書いてあげるわ!写真も使いなさい!そうしたら少しは並べてもらえるかもしれないでしょ」と申し出て下さいました。
私がパーソナリティを担当していたFM Nack5の「ビューティフルフライデイ・ハナキン」では、破格に安いギャラでお悩み相談コーナーの回答者を引き受けてくださいました。
季節ごとに、「これを食べてキレイになって!」と、めずらしい果物を送って下さいました。
あんなにあんなにお世話になった佐伯先生がご病気になられたと知ったのに、
コロナ渦のため、直接お見舞いすることができず、お電話やLINEでメッセージを伝えることしかできませんでした。
言い尽くせない感謝の気持ちをお伝えしたかったのに・・・・・。
今頃、最愛のご主人様と天国で会っていらっしゃると信じています・・・・・。