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限りなき知の探訪

50年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

百論簇出:(第149回目)『還暦おじさんの処女出版(その3)』

2014-10-02 19:34:12 | 日記
前回

私が読んだ中華書局版の資治通鑑は本文に胡三省の注がついている極めてオーソドックスなものだ。中国本土で出版されているので、当然のことながら、返り点(英語で、diacritic mark という)は一切ついていないが、欧文と同じ句読点 ?, !, :, ;, ,「, 」など(英語で punctuation という)がついている。また、人名や地名にはその横に棒線が、書名には波線がついているので、慣れてくるとこの方が日本の返り点つきの本よりずっと読みやすい。ただ、そのためには少しばかり訓練が必要だが、それは私の本のP.29にも書いた通りである。(下記に該当部分を引用)
その訓練とは漢文の訓読文(書き下し文)を自分でMD(Mini Disc)に吹き込み、それを耳から聞きながら、句点を打ってあるだけで返り点のついていない文章を「眺める」という作業を数ヶ月にわたっておこなったことである。(この作業に用いた文章は、孟子、荘子、韓非子、墨子、春秋左氏伝、戦国策、説苑、文選など。)

この訓練のあとで、中華書局の資治通鑑の文を見ると、無意識の内に頭のなかで訓読の文章が音をたてて鳴り響いた。訓読の文章というのは、そのまま翻訳になっているので、意味が分かる。しかし読んでいて、ときたま分からない個所もあったが、内容を理解する上でほとんど支障はなかったので、その部分は読み飛ばして最後まで読み通した。

ただ、今回のKADOKAWAの出版では、分からないからといって適当にごまかす訳にはいかない。それで、資治通鑑の全文の書き下し文が載っている続国訳漢文大成(全16巻)を買うことにした。この本は20年位前、神田神保町の一誠堂書店の店頭で見かけたことがある。その時は、あまりのボリュームに辟易し、さらに「めちゃ高いに違いない!」と勝手に決めて値段を聞く気にもならず、買わなかった。(その後、この本は2年ほどず~っと同じ位置にあったが、いつしか無くなっていた。)

国訳漢文大成、および続国訳漢文大成は、大正の末期から昭和にかけて出版された漢文籍の浩瀚なシリーズ(全88巻)で非常にしっかりとした内容で有名である。このシリーズは、戦後の昭和30年代にそのまま復刻再版された。日本人が知っているたいていの中国の古典籍はここで見つかる。それどころか、他のシリーズでは滅多に見つからない良書も全文載っている。例えば、帝王学の双璧である『貞観政要』と『宋名臣言行録』の二書が揃っている。とりわけ、後者の『宋名臣言行録』の全文はここでしか見ることができない。(私の個人的な好みを言えば、断然『宋名臣言行録』をお勧めする。)また、『二十二史箚記』『資治通鑑目録』『読通鑑論』など中国史学や東洋史学の学者以外にいったいどこの誰が興味を持つのだろうか、と訝るようなものまで出版されている。(と言いつつ、この三冊の内、最初の二冊は妥当な値段だったので史書を読むための参考図書として購入してあるが。。。)

さて、KADOKAWAの出版が決まりそうだったので、今年(2014年)の初めに続国訳漢文大成の資治通鑑を日本の古本屋サイトで探すと、2セット見つかった。一つは全16巻揃いであるが値段が高い。もう一つは4冊欠けているが、その分、かなり安い。欠けている内の1冊は他の本屋で見つかったので、欠落は3冊になる。それで欠落分は図書館から借りてきてコピーすることにして、とりあえずこの 12冊の資治通鑑を買うことに決めた。

一誠堂書店でガラス越しに見かけてから実に20年越しにようやく訓読本の資治通鑑にご対面となった訳だが、やはり予想通り、胡三省の注が付いていない本文だけの文では読み通しにくいことを確認した。以前に買わなくて正解であったと思った。この本で資治通鑑を読んでいたとしたら、最後まで読み通せずに中途でほうり投げていたであろうと感じた。



私だけの個人的な感じ方かもしれないが、訓読文というのは、荀子、韓非子、荘子のように議論文には助かるが、史書のように文が躍動し、リズム感で読ませる文では書き下し文を丁寧に読むのは疲れる。以前、まだ漢文がきっちりと読めない時に英語式に史記や漢書、後漢書を読んだ時からこのように感じていた。うろ覚えで確証はないが、中華書局の二十四史は毛沢東の指示で中国の幾つかの大学に割り振って出版させたとのことだ。またレイアウトについても毛沢東が細かく指示したようだ。中華書局の標点本も続国訳漢文大成もどちらもフォントがすこし太めなので私は好きであるが、中華書局の本のレイアウトには開放感を感じる。この点では、私は毛沢東に感謝している。

【参照ブログ】
 想溢筆翔:(第5回目)『風、しょうしょうえきすいさむし』

さて、資治通鑑の本の出版がKADOKAWAに決まってから上で述べた国訳漢文大成の安い方を購入し、不足部分は頑張って 1000ページ分をコピーし、自分で簡易製本した。これに加え、和刻本と呼ばれる資治通鑑も購入した。これは、明治期に山名留三郎が胡三省の注も含めて訓点を施して、(多分、活字)印刷したものである。 1884年に鳳文館が出版したが、1973年に汲古書院が復刻した。訓点というのは、返り点と句読点だけがついているもので、送り仮名はついていない。漢文というのは、たまに句点の区切り方が人によって異なることがあるので、私が理解できない部分は念のため国訳と和刻の2つを参照して、納得できる方を採用した。

今までブログに資治通鑑の記事をかなり書いてきたが、この時点(2014年1月)以前には、この2つの本は手元になかったので、私の解釈だけで書いてきた。しかし、今回この2つの本を参照すると、何ヶ所かで大いに理解を助けられた。これから逆算すると、今までの資治通鑑関連のブログ記事で無理やり解釈した所にひょっとして間違いがあるかもしれないと推定される。

続く。。。

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