限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

百論簇出:(第260回目)『日本人の英語の欠陥の特徴と改善案』

2021-01-24 22:12:42 | 日記
英語に上達したいと願っている人は多いだろう。とりわけビジネスパーソンにとっての英語は、会話力というより文章力の方がはるかに重要だと私には思える。瞬間的に消えてしまう会話ではなく、簡単なEmailだけでなく社内文書は長い間残り、英語力のレベルが言い訳のしようのない形で数多くの人の目に触れるからだ。文章力が向上すると自然と、語彙力も会話力も伸びてくる。それゆえ、英語に上達したいと思うならまず、英語の文章力を養うことが重要だ。ただ、そのレベルが日本語を直訳した「英借文」だめなことは以前のブログ、
 百論簇出:(第226回目)『英借文を卒業し、本格的な英文を書こう』
では説明した

私は、割合多く日本人学生、あるいは社会人の書く英語に接してきたと思う。というのは、まず、留学経験があるので、自分の英語力の貧弱さを克服しようと努めた。その後、2008年のCMUJ(カーネギーメロン大学日本校)のプログラムディレクターに就任して、実業界からアカデミアに移った。それ以降、2014年に京都大学の准教授を辞するまでの数年間に、かなり多くの日本人学生の英文を見てきた。というのは、この間に関西大学には非専任講師として、日本人+留学性向けの英語の授業を行ったが、テストは英語で課した。また、京都大学の一般教養授業では、授業は日本語で行うものの、テストは英語で答えを書かせた。さらに、京都大学の日本人+留学生向けの授業(KUINEP)は英語であったので、当然のことながらテストも英語であった。 2012年にアカデミアを去ってからも、某社でのリベラルアーツ講義では、受講者の英語力アップのため、受講者と私のやりとりはすべて英語で行うことになっている。

このように、数多くの日本人の書く英文を見てきた経験から、文法レベルの良しあしは別として、日本人に共通の欠点があるが、ここでは次の2点を指摘し、その対策を考えてみよう。

1.単語が固い。とりわけ一部の単語だけが突出している場合がある。

日本語では漢語が概念を伝達するのに主たる役目を負っているので、その感覚で英語でも固い単語(つまり、ギリシャ語、あるいはラテン語由来の難解語)を据えると意味が通じやすいと錯覚しているのだろう。それで、英文を書くときに、和英辞典を引いて出てきた単語をそのまま使っているケースが往々にしてある。これは、単語の語源に無関心であることに由来するが、それではいつまで経っても、このような悪癖から抜け出すことはできない。易しい単語を使って上手に表現することを学ばなくてはいけない。我々の書くような英語は、とりわけ英語のなかでも土着語(ゲルマン語系統のことば)をうまく使い回すことができれば固さがとれたといえる。それには簡単な英英辞典(開拓者の新英英大辞典やLongman Dictionary of Contemporary Englishなど)を普段から使うことで、自然と身に着く。

2.文章がブチ切れて、粘り強さに欠ける。

英語力が足りないときは、日本語で考えていることでもそれをどう表現してよいかわからないので、自然と、短文をづらづらと並べてしまうことになる。そうなると文章がブチ切れて、粗雑な感じを与える。そうなると、論旨が滑らかにつながっていない印象を与えるので、説得力に欠ける。

このような欠点をどう克服したらよいか? ここでは、次の2点に注意を喚起したい。
 A. 「語感センサー」を磨くこと。 
 B. 英語的なSyntaxを積極的にとりこむ


A. 「語感センサー」を磨くこと。

単語の選択は、つきつめて言えば、「語感センサー」の問題だ。単語に関するセンスが何を意味しているのか分かりにくいのなら、単語の代わりに服装を考えてみよう。私自身は服装に関してはセンスがないと自覚しているが、私のごく身近に、服装のセンスのよい御仁がいて、いつもうるさく注意される。たとえ、同じ服を見ても私の「服装センサー」には何も響いてこないのだが、その御仁の「服装センサー」にはビビッときて、すぐさま「これはセンスがいい。あれはダサい。」と判断できる。

これと同様、人それぞれ英語の「語感センサー」というものがある。英語の動画、たとえばTEDを観てある特殊な単語が聞こえても、全く「語感センサー」が働かない人には、素通りしていくが、「語感センサー」が敏感な人はその単語がビビッと耳にひっかかる。そうして、すぐさまその単語を辞書で調べようとする。たかが一つの単語でも、気にかかればすぐに調べる、という習慣を続けていくと、数年の間には雲泥の差がついてくることはいうまでもないだろう。このようになるには、英語に限らず、日本語も含め、言語・単語自体に興味をもつことが第一歩だ。とりわけ英語では、この第一歩が語源にたいする興味である。語源に興味がでてくると知らない単語を耳にした途端に「語感センサー」がビビッと反応する。

「語感センサー」が磨かれないまま、大量の英文を読み、英語を聞いても、まるでザルで水を掬うみたいに単語は頭に残らない、と私の経験から言える。というのは滞米20年や30年の長期滞在の日本人、それもアメリカ人と結婚している人でも、ブロークンのまま単語力も表現力もまったく低いレベルの人をアメリカ滞在中、よく見かけたからだ。「語感センサー」と同じぐらい重要なのは文法力であるが、文法力が足りないと長期滞在者でも語学力が伸びないことについては下記ブログ参照して頂きたい。

【参照ブログ】
百論簇出:(第77回目)『語学を伸ばすには、若いころの海外滞在が必須』

このブログでは、文法力だけを問題としたが、考えてみると、その根っこにあるのが、「語感センサー」の良し悪しではないかと最近思い当たるに至った次第だ。



それではどのようにすれば「語感センサー」を磨けるのだろうか?

私自身の経験では、やはり単語に関する関心を高めると同時に、単語に対するいろいろな疑問に応えてくれる辞書(漢文の研究では工具書という)を身近に備えることだ。

まず、英英辞典では、American Heritage Dictionary(ISBN:978-1328841698)が良いだろう。それもCollege Editionではなく、本式のものだ。これは、語源辞書もThesaurus辞書兼ねているといえる。これは、かなり大型の辞書で重く、片手で持つと手首を痛める恐れがあるが、非常に役立つ。また、シソーラス辞書単体としては、Roget's International Thesaurusがあり、手元に置くとよいだろう。語源といえば、ギリシャ語・ラテン語の知識(主に語彙知識)が必要なのは今さら言うまでもないことだろう。

また、英単語の意味を覚えても、実際にどのような時にどう使えばいいか、つまり活用の仕方が分からないのが実態だ。英和辞典や英英辞典では、確かに意味は分かるのだが、どうも使い方の痒いところには手が届いていない感が否めない。そのような時には、次の辞典がぴったりだ。
 『新編 英和活用大辞典―英語を書くための38万例』、市川繁治郎、研究社
新本の定価が2万円近くする高価な辞書であるが、思い切って買ってみよう(古本だと5000円位で入手できそうだし、電子辞書 CASIO Ex-word XD-H9100 もあるようだ)。使ってみると、すぐに非常に優れた辞書で、私も実感として強く感じるのだが、英文を書くときには頻繁に参照するが、いつも満足な説明が得られる。

B. 英語的なSyntaxを積極的にとりこむ

今回、「文章がブチ切れる」対策として特に言いたいのはSyntaxへの興味である。 Syntaxとは、文章構成のことであるが、日本語で文章を書くときにはあまり意識しないので、どういった点に気をつければよいのかわからない人がおおいことだろう。一つの例は、「英語では物が主体になるが、日本語では人が主体となる」ケースがある。日本語では絶対といっていいほど現れない表現に気をつけることが、重要だ。一例を挙げれば:

【英語】Heavy rain prevented me from attending the ceremony last night.
【日本語】昨晩は、強雨のために私は祭典に出席できなかった。

このような文に出くわした時に「同じ人間でもこのように感じ方が違うのだな!」と感じることができるかが分かれ目である。「語感センサー」が鈍いとこのような文章でも何も異様に感じ通り過ぎていくことだろう。

さて、Syntaxへの興味は、英語でも必要であるが、他言語(私の場合はヨーロッパ言語と漢文)をする時にはより一層必要となる。ヨーロッパ言語の中では、とりわけ古典語といわれる古典ギリシャ語とラテン語では、「語感センサー」にビンビンとくる。古典ギリシャ語やラテン語の本を読んでいると「なぜ、このような言い方をするのだろう? 込み入った言い方だが、スマートな言い方だなあ!」と感心したり、疑問に感じたりすることが頻繁にある。

例えば、ローマの詩人ホラティウス(Horatius)のラテン語の詩(Satire2-3、320)を取り上げてみよう。
【原文】haec a te non multum abludit imago.
【私訳】この画は実にお前の特徴をよくとらえている
【英訳】This image bears no great dissimilitude to you.
【独訳】Da nimm dir ein nicht unpassendes Gleichnis.


何気ない文章だが、原文のラテン語を英訳を使って語順通りにならべると次の文になる。
 This to you no great dissimilitude-bears image.

びっくりすることに、文頭の this は文末の image にかかっているのだ!つまり、一つの概念であるはずの「this image」が完全に分断されて、一文の両端に位置しているのである。英語だけでなく、広くヨーロッパ語にまで視野を広げて日本語では考えられない文章構成(Syntax)を知るというのは、最終的には「語感センサー」を磨くに大いに役立つはずだ。

【参照ブログ】
沂風詠録:(第324回目)『良質の情報源を手にいれるには?(その29)』

あと、英語に限らず、文章を磨くには、文章を寝かせることが重要であることは、よく知られていることだ。時間をおくことで、自分自身の文章を客観的に分析することができる。

以上、簡単なアドバイスではあるが英語力向上に何らかのヒントを得て頂ければと願う次第だ。
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