★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

同一の色を種々異様に録せる例甚だ多し

2013-10-24 08:23:32 | 文学


 すべて色は温度電力等と違い、数度もて精しく測定し得ず、したがって常人はもとより、学者といえども、見る処甚だ同じからず、予この十二年間、数千の菌類を紀伊で採り、彩画記載せるを閲するに、同一の色を種々異様に録せる例甚だ多し。これ予のみならず、友人グリェルマ・リスター女の『粘菌図譜』、昨年新版を贈り来れるを見るに、Diderma Subdictyospermum の胞嚢は雪白と明記され、D. niveum も、種名通り雪白なるべきに、図版には両ながら淡青に彩しあり。されば古え色を別つ事すこぶる疎略にて、淡き諸色をすべて白色といいし由 L. Geiger,‘Zur Entwicklungsgeschichte der Menschheit,’S. 45-60. 等に論じたり。高山の雪上の物影は、快晴の日紫に見ゆる故、支那で濃紫色を雪青と名づくと説きし人あり(A. Sangin, Nature, Feb. 22, 1906, p. 390)、紫を青と混じての名なり、光線の具合で白が青く見ゆるは、西京辺の白粉多く塗れる女等にしばしば例あり、かかる訳にて、白馬を青馬と呼ぶに至りしなるべし。

――南方熊楠「馬に関する民俗と伝説」