★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

四月馬鹿だけでなく、一年中馬鹿が侵攻しつつあり

2013-10-31 23:02:48 | 文学


 四月一日の朝刊を見ると、「武田麟太郎氏急逝す」という記事が出ていた。
 私はどきんとした。狐につままれた気持だった。真っ暗になった気持の中で、たった一筋、
「あッ、凄いデマを飛ばしたな」
 という想いが私を救った。
「――今日は四月馬鹿(エープリルフール)じゃないか」
 そうだ、四月馬鹿だ、こりゃ武田さんの一生一代の大デマだと呟きながら、私はポタポタと涙を流した。
 そして、あんなにデマを飛ばしていたこの人は寂しい人だったんだ、寂しがり屋だったんだと、ポソポソ不景気な声で呟いていた。
 新聞に出ている武田さんの写真は、しかしきっとして天の一角を睨んでいた。

――織田作之助「四月馬鹿」