その日の正午頃、お前たちは二台の荷馬車を借りて、みんなでその上に家畜のように乗り合って、がたがた揺られながら、何処だか私の知らない田舎へ向って、出発した。
私は村はずれまで、お前たちを見送りに行った。荷馬車はひどい埃りを上げた。それが私の目にはいりそうになった。私は目をつぶりながら、
「ああ、お前が私の方をふり向いているかどうか、誰か教えてくれないかなあ……」
と、口の中でつぶやいていた。しかし自分自身でそれを確かめることはなんだか恐ろしそうに、もうとっくにその埃りが消えてしまってからも、いつまでも、私は、そのまま目をつぶっていた。
――堀辰雄「麦藁帽子」