石井信平の 『オラが春』

古都鎌倉でコトにつけて記す酒・女・ブンガクのあれこれ。
「28歳、年の差結婚」が生み出す悲喜劇を軽いノリで語る。

彼らのうめきを消したものは誰か

2011-03-18 19:05:11 | 社会
石井信平


 大震災のあの日から一年が過ぎようとしている。六千余人の死には、それぞれ個別的な理由と状況があっただろう。未曾有の災害に対し、立ち遅れたり、誤った対応もあった。そのあれこれをあげて反省することは関係各所に任せよう。

 ここでは、唯一点をあげたい。すべてに優先して生き埋めの人びとを救出すべきであった。そのために救急の車輌以外の交通を禁止すること。ヘリコプターを飛ばさないこと。

 その日から、津波のような震災情報がテレビと新聞を通して私たちの上に降ってきた。それらは生き埋めの人びとを救う上で、何んの役に立ったか?昼夜をわかたず現場上空を飛び続けた『取材ヘリ』は、生き埋めの人びとの声を消してまで、何を伝えようとしたのだろう。

 ふしぎなのは、政府の出動の遅れを言いたてるメディアの中から、ヘリコプターの騒音についての検証も反省も聞こえてこないことだ。

 苦痛と孤独の極限で、人がその口から発するものは、もはや叫びではない、ひそやかな『うめき』であったろう。それをかき消す轟々たるエンジン音は、高らかな『報道の自由』の雄叫びであるが、同時に明白な『殺人行為』でもあった。ひそやかにうめきを聴き分けるべき現場を騒然たるものにした過ちが報道の側にあったこと、まずそれを認めるべきではないか。

 いったい、人間の生死をわけたあの数日間、何機のヘリがどのように飛んだのか、報道各社はぜひ『情報公開』してほしい。その上に立って、今度同じようなことが起こったら、大臣の『視察』ヘリも含め、どうすべきか、具体的な提言をしてほしい。

 それがないまま銀行と大蔵省に対して責任追及と情報公開を求めるメディアの論調が空疎にきこえるのは私だけだろうか。

(映像&出版プロデューサー)

1996年1月


妻より:この経験をもとに設けられた、サイレントタイム*が今回の東北地方太平洋沖地震でも実施されましたが、メディアのヘリコプターによりこのサイレントタイムが守られなかったという話を聞きました。メディアは何もこの15年のあいだ学んでいなかったようです。


*サイレントタイムとは:災害や大事故の際に、取材のためのヘリコプターなどの重機の使用を一定期間自粛し、静かな時間をつくること。


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