姉はピアノを売却することを病床から提案してきた。入院費や治療費のことで弟に迷惑をかけたくないという一念だったと思う。姉は左手に麻痺がありピアノを弾くことは出来なくなっていた。でも私としては物凄く迷った。姉の気持ちは嬉しかったけれど、ピアノを弾くことは出来なかったけれど、ピアノ講師として自分の道を切り開いて来た姉だった。幼稚園の教員もしていたが。母の看病で実家に戻ってきた。陶芸の道を志したこともあったが、ピアノを弾くことを生業とすることになった。姉が生きている間はピアノはそのままにしてあげたかった。ピアノを弾くことは出来なくなっていたが、せめて椅子に座って、ピアノに向かって欲しかった。鍵盤に指を置いて欲しかったのである。元気よく力強く、あるいは華麗にピアノ弾き語っていた頃を思い出すのであった。その姉がピアノを手放す、そういう決意をしたのだった。ピアノを買い取ってくれる業者のチラシを見せ、迫ってきた。私は躊躇した、ずっとずっと延ばしに延ばしていた。病院の待合室、ロビィーで口論になって、看護師さんが気遣ってきてくれた。後日、ピアノの業者が来られて、ピアノは跡形もなくなった。姉が座っていたピアノ専用の椅子は暫くおいておいた。メトロノームや楽譜、ブァイオリンは残しておいた。主のいないピアノ椅子はとっても寂しそうだった。それでメトロノームを[on[にした。
やはり、お姉様は、そよかぜさんを想うお気持ち一心、そよかぜさんのためにピアノを役立てたいと思われ決心された事だけが、決意の理由である事以外考えられませんでした。
お姉様のそよかぜさんへの愛情一杯のプレゼントだったと確信いたしました。
そよかぜさんには、充分にわかりきっていらっしゃる事をあれこれ申し上げお詫びいたします。そよかぜさんご姉弟のお互いを想われる愛情一杯の、闘病でのお話に心が熱く、痛みました。
今、お姉様のピアノを弾いている方に、このお話を知っていただきたいと心から思っています。
大切なピアノを手放す決意をされたお姉様、その決意を口論になるほど強く受け止められたそよかぜさんの、「ずっとそのままにしてあげたかった」、という思いは、お姉様にきっと充分伝わっていたことと思います。
ピアノを弾く事ができなくなったお姉様のお気持ち・・どんなにお辛かったかと胸が締め付けられます。
お姉様は、ご自分のピアノをご自分の治療に役立てて欲しいというお気持ちと同時に、きっとその大切な大切なピアノを誰かに弾き続けて欲しいというお気持ちがおありになってのご決意であったのではないかと思います。
メトロノームの音だけが響くお部屋で、そよかぜさんがどんなにお辛いお気持ちであったか・・
でもお姉様はきっと、そよかぜさんがお姉様の決意通りにしてくださった事で、大変安心されたのではないかと思います。