「金魚さん、相合体験傘の上級編を作ったので、体験してみて頂けませんか」
アミューズメントパークのアトラクションを作っている、あの相合体験傘を作った方から言われたのです。
「私は、もう相合傘する歳じゃないですよ」
「良いじゃないですか。今度は男性版も作ったので、それ体験して、感想言って頂けませんか」
「まぁ、私で良ければしますけど」
あまり気乗りのしないのですけど、面白そうかなとも思ってやってみました。
上級編というのでビニールの雨合羽を着けて、傘を持って準備万端。
「近くのコンビニが終点なのでそこまで行って下さい。コンビニで待ってますから」と言われて出発しました。
傘を差す前に空を見ると、青空で日差しが熱いです。
こんな日に雨合羽着て出かけるなんて、じんわり汗が出てきます。
暑いなぁと思いながら、傘を差したのです。
傘の端から薄い幕が下りてきます。
この幕が傘の中と外界を隔離するのです。
幕が下りたと思った瞬間、ピカッと光ったかと思うとゴォーと音がして傘が急に重くなりました。
前の方が重くなって自然と前に傘が傾いてゆくのです。
まるで前から強風が吹いてくる感じで、しかも冷たいのです。
まるでゲリラ壕雨の中にいる感じ。
「怖い」と耳元で女の人の声がします。
腰に手が巻き付くような感じがします。
指向性マイクと雨合羽に仕掛けてある空気チューブを締め付けて、腰に手を回しているような感じさせているのです。
相変わらず上手い仕掛けで、横を見ない限り本当に横に女の人がいる感じがします。
息づかいが荒くなっているのも、聞こえるのです。
「大丈夫、直ぐそこにコンビニがあるから、そこまで頑張ろう」と男の声がします。
女の人に私が応えるのではないので、少し楽です。
私だったら、すぐここでどこかに雨宿りしようって言いますから。
足が重いです。一歩が嫌に重いのです。
そのたびに腰に回した手が、ぎゅっと力を入れるのです。
「寒いわ、寄りかかっても良い」
「ああ、こっちに寄りかかっておいで」と勝手に返事したかと思うと、急に左側から女の人がもたれ掛かってくるような圧迫感がします。
ちょっと圧迫感あり過ぎ。
体格の良い女性のようです。
ぼんやりと周りの様子は見えますので、すれ違う人が何しているんだろうと覗くような人と、危ない人と思ったのか避けてゆく人がいます。
薄い膜で覆われていて、私だと気づかれないだろうと思いながら、
長い100メートルを歩きました。
「ご苦労様」と幕を広げてこれを作った人の顔が現れます。
幕を上げられた途端に冷たい風が止まったので、急に暑さを感じました。
「面白かったけど、こんなの売れるの」
「面白ければ、何でも良いのですよ」
「そうかなぁ、豪雨の中を100メートルも歩かす人とは、付き合いたくない」と言うのが私の感想でした。