きたない紙

近所の商店街を歩いているとき汚い紙が落ちていた。大勢の人が商店街を歩いていたのですけど、その紙の周り１メートル程避けて歩いていくのです。
私も避けて通ろうと思ったのですけど、誰かが踏んで嫌な思いをしたらこの商店街を悪い思い出として覚えることになるだろうなと思い、拾うことにしました。
いつも通っているところが、誰かの心の中に嫌な思い出として残ってしまうことが嫌だなと思ったのです。
でも、とても素手で触ることができなくて、ポケットからテッシュを取り出してその汚い紙を屈んで拾うとしました。
チラリと周りを見ると、露骨に嫌な顔をして私を見ていく女の人がいました。
結構、その紙を拾うのは勇気がいる行為でした。
ところが、その紙をテッシュで包む瞬間、とても綺麗な紙に見えました。
その紙は一万円札だったのです。
小汚い紙だと思っていたのが、一万円だと分かった時、綺麗な紙に見えました。
「おいてけ堀」という怪談話があります。
あるお堀で魚を釣って帰ると「おいてけ、おいてけ」と言われるのです。
恐くて魚をその場に置いて逃げ出すことから、「おいてけ堀」と言われたそうです。
ある侍が「おいてけ、おいてけ」という声を無視して帰ると、木の下でドスンと突然背中に何かが負ぶさってきました。
その重さが、肩にずっしりとのしかかってきたのです。てっきり化け物が背中に負ぶさってきたと考え、逃げ帰るのです。歩く毎に背中に負ぶさっている物が肩に食い込んできて、どんな化け物が乗っているか考えると恐ろしくて背中を確かめることができなかったそうです。
歩く毎に重くなり、背中が冷たく成っていったのです。もうダメだと思った頃、家についたので背中に乗っていた物を思いっきり玄関の地面に投げつけたそうです。
その時、ガチャンと嫌な音がしたそうですが、地面を見るとキラキラ光っていたそうです。
キラキラと光った物が小判だと分かったとき、凄く綺麗な物に見えたそうです。
背中の物が何か分からない間は、重くて冷たい化け物だと思っていたのですが、小判だと分かった瞬間、背中が温かく感じたともいいます。投げつけたときの嫌な音も、後からはチャリンと素晴らしい音になったといいます。
人の気持ちをこんなに変える化け物を、お金というのだそうです。
私もあの時、一万円という化け物に襲われたのでしょう。
こんな化け物なら、もっと大きいものに襲われてみたいと考えていることが、もうこの化け物に襲われているのでしょう