奈良ホテルの続きです。翌朝、朝食に向かう途中、窓からお庭に鹿のファミリーがやってくるのが見えて、思わず顔がほころびました。
朝食の場所は、夕食と同じ”三笠”でした。洋食・和食・茶がゆの3種類があり、私はせっかくなのでここでしか食べられない茶がゆをいただくことにしました。茶がゆは奈良に伝わる伝統的な家庭料理で、各家庭でそれぞれ作り方があるようですが、こちらでは緑茶で炊き上げているということです。
ほどよく柔らかく、おなかに優しく収まる茶がゆは、しみじみとおいしかったです。焼魚、玉子焼き、胡麻豆腐、炊合せ、おひたし、お味噌汁、そして香の物には奈良名物の奈良漬けがついていました。
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食事のあとは、朝9時からの館内ツアーに参加しました。
ツアーは、ロビー”桜の間”からスタートです。ホテルの辻さんという方が案内してくださいましたが、実際に体験されたエピソードを交えたお話は、リアリティと臨場感があってとてもおもしろかったです。鮮やかな話術の中にもホテルに対する誇りと愛情が伝わってきて、心に響きました。
写真右の大時計は、1990年に今上天皇の即位をお祝いして記念に設置したものだそうです。15分ごとに美しい音を奏でますが、両陛下も左に見える2つの椅子に座られて、お聞きになられたそうです。
桜の間にはこのほか、アインシュタイン博士が1922年に演奏したピアノがありました。戦後GHQに接収される前に運び出したまま行方不明になっていましたが、1992年に発見。その後2008年に博士がピアノを弾く写真の原版が見つかって同一のものと確認が取れ、この場所に戻ることができたという、数奇な運命をたどったピアノです。
このほか館内では、昭和初期に所有していたオールドノリタケの貴賓用食器、大倉陶園の特別食器、カガミクリスタルの特別グラスを見ることができました。(写真は大倉陶園の食器)
2013年に館内の倉庫で見つかったという銀食器。鉄道院・鉄道省がホテルを直営していた時代の貴重なカトラリーです。
同じく2013年に倉庫から見つかった謎の食器類。調べていくうちに、ナガサキホテル(1898-1908)で使われた食器と判明したそうです。ナガサキホテルはジョサイア・コンドルによる建築で、当時東洋一と謳われました。おそらくコンドル氏と辰野金吾氏の師弟関係、両ホテルの頭文字(NH)が同じことから、ナガサキホテルの廃業時に継承したと考えられているそうです。
本館入口正面にある赤絨毯の大階段です。絶好の撮影スポットで雑誌の撮影にもよく使われるそうです。撮影のコツも教えていただきました。^^ 館内には歴史を感じる調度品や、上村松園の「花嫁」をはじめ日本画の巨匠による美術品も多く、まさに”宿泊する博物館”とよぶのにふさわしい場所でした。