嵐山石造物調査会

嵐山町と近隣地域の石造物・道・文化財

嵐山町の石仏11 石造物の分類とその概要9 庚申塔

2009年03月11日 | 嵐山町の石仏造立の背景

○庚申塔(こうしんとう)
 嵐山町にある各種の石仏の中で、数多く造立が見られるものに庚申塔がある。庚申塔には像塔と文字塔があり、像塔の主尊として多く見られるのは「青面金剛童子像」である。そのほか像塔には猿田彦大神や帝釈天、釈迦如来、地蔵菩薩などを主尊としたものがあるが、嵐山町の像塔の主尊は青面金剛像のみである。文字塔には「庚申供養二世安楽…」のものや、単に「庚申」とか「庚申塔」と刻するものが多数を占めている。そのほかに「庚申供養塔」、「庚申大神」、「青面金剛」、「庚申尊」、「百庚申」といった文字塔もある。また「三尸塔」も庚申塔の一種である。碑面には「絶三彭仇」の文字が刻まれている。
 十干十二支の干支による組み合わせで、六十日に一度めぐってくる庚申(かのえ・さる)の夜は、眠らずに過ごして無事息災を願うのが庚申信仰の源流である。これは中国の道教にある三尸説によるものである。この説によると、人間の体内には「三尸」(さんし)という虫がすみついているという。その虫は庚申の夜になると、人間が眠っているうちに体内から抜け出て天に昇り、「天帝」にその人が犯した悪事を報告する。天帝はその悪事の軽重により、その人の寿命を左右するのだという。ところが人間が寝ずに起きていれば、三尸は体から抜け出すことができないのだそうである。そのようなわけで庚申の夜は講中の人たちが集まって、経典の読誦や飲食・雑談などをして夜を明かしていた。その行事を「庚申待」とか「守庚申」と呼んでいた。
 庚申信仰は平安時代には主に宮中で行なわれていた。鎌倉時代から戦国時代にかけては武士の間でも広まり、庶民の間に広まるのは江戸時代になってからである。当初は本来の信仰行事が型通り行なわれていたようだが、時代の移り変わりに従い、娯楽的な傾向が強くなっていったようである。講中の人々が集まり、情報交換や農作業の話し合い、あるいは飲食を共にし、結束をかためる場にもなった。また一面禁忌を守り、村の風紀を維持する上で役立ったともいわれている。
 守庚申を三年間十八度勤めれば、体内の三尸は死滅し、延命息災に暮らせるようになると、道教では説いている。庚申塔は守庚申が達成された祈願成就の記念として造立されたのである。嵐山町には広野の百庚申を含め224基が確認されている。最古の造立は1680年(延宝8)の庚申年にあたるものが2基あり、そのうち平沢の1基は青面金剛・三猿を配した像塔で、平沢村の講中各人の名前が刻まれている。また広野にある1基も同様の像容で、広野村の造立である。
 地域別の造立は図4ならびに表2のとおりである。町内での分布を見ると、概して南部地区では数少なく、北部地区では多数の造立が見られる。なお表にある広野の119基の中には、八宮神社入口の百庚申が含まれており、分布図では一ヵ所で記してある。

図4 嵐山町内における庚申塔の分布 準備中

表2 嵐山町内における庚申塔の地区別造立年代 準備中

 造立年代は六十年に一度の「庚申年」に深く関わっており、庚申年である1680年前後の延宝から貞享年間には造立の集中期が見られる。1680年から次の庚申年1740(元文5)の六十年間における造立は、青面金剛像が16基、三猿のみの像が4基、文字塔が8基である。造立は集団によるものが大半で、「村中」が9基、「講中」または「同行」が17基、無名のものが2基である。さらに次の庚申年である1800年(寛政12)に前後して14基が造立されており、この時代まではそのほとんどが集団による造立で、個人の造立はわずかに2基である。江戸時代最後の庚申年、1860年(万延元)には少数の造立で、その後も減少し1920年(大正9)には個人による4基の造立のみとなっている。庚申年以外に造立が集中したのは、庚申年のほぼ中間にある明和、安永年間で、11基が造立されている。最も新しい庚申年である1980(昭和55)には個人による造立1基のみ、その後は1993(平成5)年に1基、文字塔が造立されている。
 嵐山町の庚申塔について、造形に関して時代順に見ると、まず造立初期(1680年代)には駒型あるいは船型の青面金剛に、三猿・日月・鶏の浮彫像という点でほぼ共通しており、1700年代に入ると駒型や笠付型の文字塔が、1730年代には一猿三番叟・日月・鶏のものがそれぞれ登場する。1740年代には駒型や自然石型の文字塔が造立され、その後像塔は造立されなくなり、1800年代には文字塔が主流となった。
 材質で見ると像刻の庚申塔は主に安山岩で、一部砂岩も用いられている。文字塔では初期のものには安山岩が用いられているが、時代の移り変わりと共に緑泥石片岩が主流となっている。


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