しましましっぽ

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「日輪の遺産」   浅田次郎 

2015年05月22日 | 読書
「日輪の遺産」   浅田次郎   

資金繰りに苦慮していた不動産関係の社長、丹羽明人。
資金を競馬で作ろうと、有馬記念レースのある中山競馬場にやって来る。
そこで真柴司郎老人を知り合う。
しかし真柴のせいで当たりになっていたはずだった馬券が買えなかった。
真柴は責任を取ると言う。
そして2人で飲みながら、古ぼけた一冊の手帳を渡しこれを使えと言う。
几帳面な細かい字がびっしりと書き込まれてある手帳。
それを渡すと真柴老人は安心したように、そのまま死んでしまう。
身寄りのない老人の為にやって来たのは、ボランティアの海老沢澄夫だった。
なんと海老沢も同じ手帳を貰い受けていた。
それは、真柴が終戦間際にあった事が書かれていた。
マッカーサーから奪った9百億円の財宝を再起の為の機密費をして隠す役目を賜ったと。









真柴司郎が書いた戦争中の物語と、現代の事が同時進行して行く。
もう一人、真柴と関わりのあった大家にあたる金原老人も加わる。
現代は少々コメディタッチで、手帳の中の緊迫した様子とは対照的。
息抜きの感じもあるのかも知れない。
財宝を隠すと言うのは、知っている人を少しでも少なくしようとする昔ながらの考えが反映される。
これは、その時代を懸命に生きた人たちの物語。
ただ、勇気や希望というより、残酷な現実が心に痛い。

なぜ真柴老人は、丹羽と海老沢に手帳を渡したのだろう。
財宝ではなく、少女たちを見つけて欲しかったのだろうか。
しかし、金原は今は花に囲まれたままのその地をそのままにして置きたいと思っていた。
その思いを共有はしていなかったのだろうか。
戦争では沢山の人が死んでいるが、やはり実際に目の当りにすると気持ちが違って来るのだろう。
しかし、実際にはそんな事にも心を動かされずに、欲の方が大きい人もいるだろうに。
ここの登場人物は、みんな良い人だ。
起こった事は戦争の悲劇のひとつだが。
日本人の欠点のひとつでもあるのだ。
マッカーサーは日本人を随分褒めているけれど。
みんながそうではない事が残念だ。
確かに、日本人が世界から見て不思議な民族であることは今も変わらないか。

どんな思想を子どもに持たせるか、大人の責任は大きい。
それは現代にも通じる課題だ。


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