しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「父さんの手紙はぜんぶおぼえた」   タミ・シュム=トヴ 

2012年06月08日 | 読書
「父さんの手紙はぜんぶおぼえた」   タミ・シュム=トヴ      岩波書店
     LETTERS FROM NOWHERE                母袋夏生・訳

オランダのユトレヒトに暮らすユダヤ人の、ファン・デル・フーデン一家。
ナチス・ドイツが侵攻して、ユダヤ人に対する禁止令が厳しくなり、身の危険が迫る。
一家は名前を変え、離ればなれで身を隠すことになる。
獣医で大学の教授もしていた父親のヤーコブ(ヤープ)は、友人の伝手で隠れ家を探す。
そして、末っ子のジャクリーンとすぐ上の姉ラヘルには新しい身分証明書を作る。
ジャクリーンはリーネケ、ラヘルはフランスとして、ドクター・コーイマンス家に預けられる。
しばらくして、ここにも危険が迫り2人は別々になる。
リーネケはドクター・コーリー家に預けられる。
そこに、地下組織を通して、ヤープから絵本の装丁になった絵入りの手紙が届けられる。
手紙は残しておくと危険なので、読んだら返しドクターが焼却する。

これは実話で、絵入りの手紙はドクター・コーリーが地中に埋めて保管していた。
9通の手紙とともに、リーネケの当時の生活が描かれる。




始めの言葉にこうある。
『第二次世界大戦前のオランダには
大きなユダヤ人社会があったが、
ホロコーストでそのほとんどが命を失った。
自らの命の危険をおかして、信仰心や良心から、
苦境におかれた命を救おうとした
地下抵抗運動の人々や、善き人々のおかげで、
ほんのわずかなユダヤ人が生き残れたのだった。』
 
絵手紙から伝わる、父親の愛情と優しさと、命を懸けた善意の人の優しさが伝わる。
本当の自分を隠しながらも、学校にも通い、見た目は普通の生活が出来たリーネケ。
それでも、不安の中で暮らす心の負担ははかり知れないものがある。

オランダはナチス・ドイツに協力をした国なので、ユダヤ人の死亡率が高い。
ユダヤ人を差し出すのを拒んだ国もあった。
人間として、何が正しいかを考え行動することの大切さ。
個人としても大事だが、国としても同じ。
ファン・デル・フーデン一家は病死した母親以外の5人が生き延びることが出来た。
それでも、戦後は、前と同じにはならなかったと。
戦争の傷があまりにも深い。

可愛くて綺麗な絵本のような手紙と共に、読んで欲しい1冊。

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