「きたきた捕物帖三 気の毒ばたらき」 宮部みゆき PHP研究所
第一話 気の毒ばたらき
万作が千吉親分から継いだ文庫屋が火事になる。
千吉親分の思い出の残る店と家を失い北一はショックを受ける。
その火事が放火と分かり、自身番に呼ばれた北一は万作と妻のおたまと仲違いしていた自分が疑われると心配する。
しかし目撃情報があり、下手人は三日前まで住み込み女中をしていたお染だと言われる。
お染の行方は分からなかった。
自分の良くしてくれたお染が下手人とは信じられない北一は、真相を調べ始める。
一方、焼け出された人や延焼を防ぐために家を壊された人がいる仮住まいで、泥棒事件が起きていた。
第二話 化け物屋敷
北一は貸本屋「村田屋」の治兵衛から、貸本と朱房の文庫を組み合わせた新しい商いをしようと持ち掛けられる。
北一は良い話だと思ったが、作業場の職人頭の末三じいさんが反対する。
治兵偉は28年前に妻おとよが何者かに殺される事件があり、“そう言う凶事に見舞われる者は業が深いから”だと嫌っていたのだ。
北一はその事件を解決したら、末三が変わるのではと、おでこに相談する。
おでこから人の考えを変えるのは難しいと言いながらも、事件については詳しく教えて貰う。
おとよは昼間に菓子を買いに行って行方知れずになり、半月後に千駄ヶ谷の森の藪の中で亡骸になって見つかった。
一時、治兵衛が随分疑われたと言う。
そして、この事件を政五郎親分や千吉親分がいつか解決したいと言っていた事を知る。
北一はその事件を解決したいと本気で思う。
手掛かりはおでこがかつて茂七大親分から言われた「余所で似たような事件がないか探してみるのが肝」という言葉。
まずはおでこが、記録を集める事になった。
「きたきた捕物帖」のタイトルだが、捕物帖だけでなくその時代の暮らしや北一の行動が細かく書かれる。
この2話は11月から正月に掛けての物語なので、年始回りの様子なども丁寧に書かれる。
火事にあって焼け出された人たちはどうしていたかなども。
事件には直接関係がないが、暮らしや北一がどういう人物かと言う事をより深く知らせてくれる。
タイトルの「気の毒ばたらき」はそんな困っている人たちの所を回って「気の毒だったねー、何か要るものはないかい」と親切そうにしながら、周りを探って泥棒をする。
放火の話と2本立てになっていた。
放火の方は下手人の行動が今一つしっくりしない。
どうして火をつけてしまったのだろう、自分にとって何も良い事がないのに。
がむしゃらに復讐に走ったり、関係ない人たちにも迷惑が掛かる事を考えらない人ではないようなのに。
それで、この下手人では無理があるように思えた。
「化け物屋敷」は、始め方は日常が長く続きそろそろ事件が起こらないかと思っていたが、なんと昔の未解決事件を解決しようと言うスケールの大きな話になる。
今も事件を調べる時、過去に類似のものがあるかが捜査の上で大切、と色々な物語で出て来る。
コンピューターで次々検索する現代と違い、書かれた紙の文献を調べるのはかなり大変。
これはおでこさんの力。
しかし、28年前の時点でもかなり詳しく調べて色々な事が分かっていたのだ。
どうして、捕まえられなかったのだろう。
北一は思いついたりするけれど、実際に動くのは他の人。
おでこさんを始め、喜多次にもシロとブチにも随分助けられて、まだまだ守られる存在。
でも、自分の非力を知り、鍛えようとしているから先が楽しみと言う事で。
こちらの事件は何となく解決するが、この時代には手の出せない領域があると言う事ですっきりしない。
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