しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「待ちうける影」 ヒラリー・ウォー 

2009年01月08日 | 読書
「待ちうける影」 ヒラリー・ウォー   創元推理文庫
  MADMAN AT MY DOOR      法村里恵・訳  

オーヴェル・エリオットは20歳の時に、連続婦女暴行殺人を起こす。
かつての自分の教師ハーバート・マードックの妻の殺害現場を、マードックに見つかり銃で撃たれ逮捕される。
精神病院に収容されたエリオットは、4年間はマードックへの復讐を叫び、脱走を繰り返す。
マードックに襲い掛かろうとして逮捕されたこともあった。
その後、突然大人しくなり、セラピストの治療やカウンセリングを受け入れる。
そして逮捕から9年、犯罪を起こしたのは精神障害のため、その精神障害が完治したので、犯罪は無罪となり退院する。
それを知ったマードックは自分への復讐を忘れてはいないと警察に助けを求めるが、望むような反応は得られなかった。
マードックは再婚して、2人に子どもがいた。
エリオットが狙うのは妻と子どもだと確信し、パニックになりそうな恐怖を覚えつつ立ち向かおうとする。



今までの警察物とは違うヒラリー・ウォーの物語。
ハーバートからすれば、世の中はとても理不尽だ。
何人も殺した犯人の精神障害を理由に自由の身になる。
それが演技である事も、自分に復讐するために家族を奪おうとする事も分かっているのに、警察は何の力にもなってくれない。
しかし反対の立場からすれば、当然の対応なのかも知れない。
現在のストーカー事件をみれば、何か被害がなければ警察は動かない。
確かに訴えに来た人全部に護衛を付ける訳にはいかないのかも知れない。
政治や警察から見たら命の重さには順番があるのだろう。
しかし、何か打つ手はないものだろうか、とニュースで殺人にまでなってしまった事件を聞くと思う。
なにか警察直通の発信機を持たせて、ボタンを押したら直ぐに警察が駆けつけるとか。
事件が起きてからしか手が打てないなんて、情けなさ過ぎる。命の重さは同じなのだから。

そして、精神障害と犯罪のこと。
精神障害は病気だから、その時に起こした犯罪は無罪。
その病気が治ったら自由の身ではなく、その犯罪の償いをさせる訳には行かないのだろうか。
そう単純には行かないのだろうな。
しかし、再犯の危機があることも事実。
この物語でも、エリオットにまとわり付き犯罪を唆すジャーナリストがいる。
そんな気がなくても、精神的に追い詰められて変わってしまう人間だっているだろう。
世の中には本当に色々な人がいて、そして理不尽だ。
結局この物語のラストは幸運だったからと言えるのだはないだろうか。

考えさせられる物語。

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