しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「ゲド戦記Ⅱ こわれた腕環」 アーシュラ・K・ル=グウィン  

2006年04月07日 | 読書
アースシーの世界。カルガド帝国・アチュアンの墓所には大巫女がいた。
大巫女は死んでも必ず生まれ変わるとされ、大巫女が死んだ同じ日に生まれた女の赤子がその人とされる。
テナーはその様にして5歳の時にアチュアンに連れてこられ育てられ、14歳の時に〈喰らわれし者〉アルハとして大巫女になった。
アチュアンは名なき者たちの支配する暗黒の世界。
大巫女の仕事は主のいない玉座に祈りや生贄をささげる事。
そして、その王座の神殿の地下には広大な迷路があり、宝を守っていると言う。
アルハは迷路を自分の場所として歩き、自由に行き来できる様になる。
しかし、アルハは他の巫女が、この世に無信仰がある事や、帝国の王の権力が1番大事と思っている事を感じ取り、自分の崇拝させられている者に対して疑問を持ち始める。
そんな時、巫女しか出入できず、明かりを持ち込む事が禁止の迷路に明かりがあるのを見つけ、一人の男の姿を見る。
それが、〈竜王〉と呼ばれるようになった、魔法使いのゲドだった。

ゲドはかつて、砂州のような島の老婆からもらった半分の環が、平和をもたらすと言う〈エレス・アクベの環〉である事を知り、今の争いの絶えない世界に平和をもたらせたく、残り半分の環を捜しに来たのだった。
しかし、地下迷路の闇の力はゲドが考えていたより強大で、迷路から脱出できなくなる。
迷路にいるゲドを見て、アルハは驚きと同時に、自分が崇めてきたものに疑問を感じ始める。
アルハとゲドの出会いが、アルハの運命を変えて行く。
アルハとして、名なき者に仕えるのか、テナーとなり自分の意志で生きるのか。


これは、テナーの物語のようだ。
結局、テナーはゲドと共にアチュアンを去る決心をする。
物語を読んでいる方は、闇の力が悪である事が分かっているし、ゲドも登場するのだから、テナーに早く真実に気が付いて、と思ってしまう。
しかし、テナーは子どもの頃から、教え込まれたものを疑い、背く行為をするのだから、大変な決断力だと思う。
しかし、突然ゲドに出会っても、きっとこの決断は出来なかっただろう。その前に、他の巫女の考えを知り、自分でも考える事をしていたから。そして、大巫女の仕事にも疑問を感じていたから。
自分の道を選ぶ困難さ、しかし、自分を信じれば正しい道に向かっていける事を、教えてくれているのかも知れない。
でも思う、もしアチュアンにいる全員がなんの迷いもなく、闇の王を崇めていたら、アルハはゲドを助けなかったのではないかと。そうしたら、闇の王に仕える事がテナーにとっても正しい道になってしまうのだろうか。
ゲドは真実の道を示す、案内人の役割だったのかも知れない。
テナーの心の葛藤が、とてもわかりやすく描かれているので、この心の動きに同調出来る。

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